元麻布春男の視点
ヒミツ主義に包まれたIntelのプロセッサ製造拠点を暴く


元麻布春男
2001/07/13

 世に半導体ベンダは数あれど、1GHz以上の動作クロックのプロセッサを安価に量産できる会社は、いまのところ2社しか存在しない。いわずと知れたIntelとAMDだ。AMDの場合、プロセッサを製造する工場(Fab:ファブ)は、米国のテキサス州オースティン(Austin)と、ドイツのドレスデン(Dresden)の2カ所に集約されており、前者がFab 25、後者がFab 30と呼ばれている。現在、Fab 30は0.18μmプロセスの銅配線技術を用いて、主に1GHz以上のクロックのAthlonThunderbirdコア)と、新しいPalominoコアのモバイルAthlon 4(および同系列のコアによるモバイルDuron)、Athlon MPを量産していると考えられている。一方のFab 25では、主にDuronの量産が進められている。従って、AMD製プロセッサのオーナーであれば、自分のプロセッサがどこで作られているのか、大体の想像がつく。まぁ、どちらにせよ、2分の1の確率で当たるわけだ。

謎が多いIntelのFab

 これに対してIntel製のプロセッサは、どこで作られたのか、ほとんど知ることができない。プロセッサのパッケージには、マレーシア(Malaysia)あるいはコスタリカ(Costa Rica)と書かれていることが多いが、これはあくまでも最終組み立て(パッケージング)工場の所在地であり、いわゆるウエハからプロセッサ・ダイを製造しているFabの所在地とは異なる。では、IntelにはいくつのFabがあり、そこで何を作っているのかとなると、意外に情報が少ないことに気付く。下の図に示したのは、Intelの製造拠点と題された地図だが、これを見ても、どこに製造関連施設があるのかは分かるものの、それ以上の情報はほとんどない。ちなみに地図中にあるプエルトリコ(Puerto Rico)のマザーボード製造工場は、2001年に入り閉鎖されている。

Intelのプレゼンテーション資料にあるFabの所在地
Intelの300mmウエハ採用のFab D1Cに関するプレゼンテーション資料「Intel 300mm Program BriefingPDF」から。この図を見ても、どこでどのような製品を作っているのかは分からない。ただ、全世界に広く分散してFabが置かれていることはよく分かる。

 そこで、この公表されている資料をもとに、IntelのFabについてまとめてみたのが以下の表だ。この表は、主に「Intel in Your Community」と題されたWebページと、最近出されたプレスリリース、あるいは製造関連のプレゼンテーションなどに記された情報をもとに、筆者がまとめたものだ。

ファブ名称 所在地 目的 0.13μmプロセスへの移行時期 300mmウエハへの移行時期 備考
RP1 オレゴン州ヒルズボロ*1 研究用 N/A N/A  
D1A オレゴン州アロハ N/A N/A N/A Fab 15に転換
D1B オレゴン州ヒルズボロ*1 N/A 2001年第1四半期 N/A Fab 20に転換
D1C オレゴン州ヒルズボロ*1 開発用 2002年第1四半期 (300mmウエハ採用) 2001年第1四半期(0.18μmプロセス採用) D1D完成後、300mmウエハによる量産Fabへ転換
D1D オレゴン州ヒルズボロ*1 開発用(着工) N/A 2003年運用開始? 300mmウエハによる0.07μmプロセスの開発
D2 カリフォルニア州サンタクララ 開発用 2001年第3四半期 2002年?  
Fab 4 オレゴン州アロハ N/A N/A N/A 閉鎖
Fab 5 オレゴン州アロハ N/A N/A N/A Fab 15.5に改称
Fab 7 ニューメキシコ州リオランチョ 量産用(フラッシュメモリ)      
Fab 8 エルサレム(イスラエル) 量産用(通信?)     MEMS*3の研究・開発
Fab 9 ニューメキシコ州リオランチョ 量産用(フラッシュメモリ)      
Fab 10 レイクスリップ(アイルランド) 量産用      
Fab 11 ニューメキシコ州リオランチョ 量産用     フラッシュメモリとP6系プロセッサの両方
Fab 11X ニューメキシコ州リオランチョ 量産用 2002年第3四半期 (300mmウエハ採用) 2002年第3四半期 (0.13μmプロセス採用) Pentium 4を含むプロセッサ
Fab 12 アリゾナ州チャンドラー 量産用 2002年第4四半期   パッケージ関連の開発
Fab 14 レイクスリップ(アイルランド) 量産用      
Fab 15 オレゴン州アロハ 量産用(フラッシュメモリ)     旧D1A。現在P802(フラッシュメモリ用のプロセス)による量産
Fab 15.5 オレゴン州アロハ 量産用(フラッシュメモリ)     Fab 5がFab 15の一部となり改称
Fab 16 テキサス州フォートワース N/A N/A N/A 優遇措置が州議会を通過しないため無期延期
Fab 17 マサチューセッツ州ハドソン 量産用 2002年第1四半期*2   DECのFabを買収
Fab 18 キルヤト・ガト(イスラエル) 量産用      
Fab 20 オレゴン州ヒルズボロ*1 量産用 2001年第1四半期   旧D1B
Fab 22 アリゾナ州チャンドラー 量産用 2001年第3四半期    
Fab 23 コロラド州コロラドスプリング 量産用(フラッシュメモリ)     RockwellのFabを買収
Fab 24 レイクスリップ(アイルランド) 量産用 2003年以降に延期?*2 2003年以降?  
IntelのFab一覧
*1 ロンラー・エイカーズ(Ronler Acres)キャンパス
*2 当初は2001年第4四半期を予定
*3 Micro Electro-Mechanical Systemsの略称。半導体技術を応用して微細加工を施すもの

 この表を見て、まず気付くのはオレゴン州に施設が集中していることだ。一般にIntelというと、シリコンバレーの中心地、サンタクララ(Santa Clara)というイメージが強いが、現在では施設の数や従業員の数から見て、オレゴン州が同社の最大の拠点となっている。表には、工場しか記されていないものの、ほかにも多くの施設があり、Intelの全製品グループがオレゴン州内に顔をそろえる。製造という点では、主にアロハ(Aloha)でフラッシュメモリ、ヒルズボロ(Hillsboro)でプロセッサ系の量産が行われているようだ。

 またオレゴンは、研究用のFab(RP1:Research and Pathfinderの略)、量産技術を開発するFab(D1x:Developmentの略)、量産用のFab(Fab 15、Fab 15.5、Fab 20)が州内にまとまっている、という点でもユニークな場所といえるかもしれない(Intelの「300mmウエハの研究・実証施設『RP1』の開設に関するニュースリリース」)。D1x Fabで量産技術を確立して、その技術をほかの量産用Fabに移植し、さらに新しいプロセス開発用Fabを着工し、その完成後、古い開発Fabを量産Fabに転換する、という「サイクル」が、この表から見えてくる。

D1Cの周辺Fab
Intelの300mmウエハ採用のFab D1Cに関するプレゼンテーション資料「Intel 300mm Program BriefingPDF」から。この写真を見ても分かるように、D1Cの周辺にはFab 20、RP1が置かれており、開発用Fabを量産Fabに転換するというサイクルを作っている。

分散したFabの役割

 一般には、生産拠点は1カ所に集約した方が効率はよいが、その分リスクが高まる。もし、すべての生産拠点がオレゴン州に集中していたとすると、同州に大規模な災害が生じた場合、大きなダメージを受ける。逆に、地元としても、あまりに1つの企業に経済を依存しすぎると、税収や雇用を1企業に人質に取られることになってしまう。すでにオレゴン州で最大規模の事業者(法人所得税の約15%を占めトップ)となっているIntelが、際限なく巨大化すると、オレゴン州を実質的に支配してしまう危険性も生まれる。

 そこで、Intelとオレゴン州政府は、SIP(Strategic Investment Program:戦略的投資プログラム)と呼ばれる協定を締結し、Intelの同州内への投資(新しいFabの建設など)をコントロールすると同時に、Intelが支払う固定資産税などをあらかじめ一定額に設定したり、道路や学校の建設といった公共サービスの提供についての取り決めを行ったりしている。このSIPには、Intelの製造部門の雇用が5000人を超えると、1人当たり1000ドルを郡(ワシントン郡)に納める、といった取り決めもあり、Intelの巨大化に一定の枠をはめている。

 こうした取り決めがうまくいかなかった例が、テキサス州フォートワース(Fort Worth)だ。ここに建設予定だったFab 16は、州議会が優遇措置を認めないため、無期延期の状態になっている(Intelだけでなく、Fab 16が予定されていた工業団地全体が失速しているようだ)。

 製造拠点という点で、規模が大きそうなのがニューメキシコ州リオランチョ(Rio Rancho)だ。Fab 7、Fab 9、Fab 11、Fab 11Xが集中するこの拠点は、フラッシュメモリとプロセッサの両方を手がける。IntelはFabの規模について、シリコン・ウエハの生産能力といったことを絶対に公開しない。せいぜいクリーン・ルームの床面積が公開される程度であるため、あくまでも推測するしかないが、Fab 11Xが2002年に300mmウエハと0.13μmプロセスの両方に同時に対応するということだけでも、製造量に占めるこの拠点の高い比重がうかがえる。この時点で、300mmウエハ対応はD1Cに次ぎ2番目ということになるが、純粋な量産拠点としてはここが最初だ。200mmウエハを300mmウエハにすることで、生産量は2倍、0.18μmプロセスを0.13μmプロセスにすることでも生産量は2倍になる。つまりFab 11Xは、同程度のクリーン・ルームであっても、既存の工場に対し4倍の能力を持った工場になるわけだ。同様に、アイルランドのキルデア州レイクスリップ(Leixlip)も300mmウエハ採用予定の大規模な量産拠点と考えられるが、ここのFab 24はニューエコノミーの崩壊による需要減を受け、計画が後退している(Intelの「アイルランド工場の300mmウエハ対応に関するニュースリリース」)。

 このほか、ユニークな特徴を持つのは、アリゾナ州のチャンドラー(Chandler)とイスラエルのエルサレム(Jerusalem)だ。チャンドラーがパッケージ関連の開発拠点、エルサレムはMEMSの開発を行っている。MEMSというのは、Micro Electro-Mechanical Systemsの略。いわゆるナノ・テクノロジに関連した技術で、半導体技術を応用して微細加工を施すものだ。応用例としては、シリコン上にアンテナやスイッチを作り込んだり、微細な溝を掘り、そこに冷却媒体を流すことでチップの冷却を行ったり、といったことが考えられている。オレゴンやカリフォルニアの研究所と連携して、Fab 8で試作が行われているようだ。

規則性がないFabのネーミング

 さて、この表全体を見てもサッパリ分からないのは、Fabの命名則だ。数字とロケーションの間にハッキリとした法則性は見つからない。例えば、Fab 8とFab 18(ともにイスラエル)、Fab 12とFab 22(ともにチャンドラー)、Fab 14とFab 24(ともにアイルランド)といったように、末尾合わせでネーミングされている例もあるが、これが方針として貫かれているわけではない。奇数番号のFabは、フラッシュメモリの工場であることが多いようにも思われるが、Fab 11Xのように明らかにIAプロセッサを量産すると思われるFabもあり、法則とまではいかないようだ。

 また、Fab 17(DECから買収)やFab 23(Rockwellから買収)のように、他社から買収した工場は、後から急きょ数字の中に割り込んだのではないか、とも思われる。プロセッサで7割近いシェアを持ち、フラッシュメモリでもトップ・クラスにランクされるだけに、IntelのFabは数が多い。それに、この一見不可解(?)な命名則が加わって、IntelのFabは神秘のベールに包まれている印象が強い。記事の終わり

  関連記事
新しい製造技術の導入でIntelに挑むAMD
世紀末決算に見るIntelの21世紀

  関連リンク 
Intel 300mm Program BriefingPDF
Intel in Your Community
300mmウエハの研究・実証施設「RP1」の開設に関するニュースリリース
アイルランド工場の300mmウエハ対応に関するニュースリリース
 
「元麻布春男の視点」


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