元麻布春男の焦点新グラフィックス・チップ「Parhelia」でMatroxは復活するのか?――再び競争が激化するグラフィックス市場―― 2. 機能は魅力的だが製造面で不安もあるParhelia-512 元麻布春男 |
Parheliaの懸念材料
MatroxのParhelia-512の仕様は、3年間のブランク(?)を吹き飛ばすような、力の入った内容となっている。Parhelia-512は一般向けとして初のAGP 8x対応グラフィックス・チップだとも思われるが、それに触れるスペースさえないほどだ。しかし、気になる部分もないわけではない。1つは、リリース・スケジュールだ。発表会場では、量産サンプルとなるグラフィックス・カードが2002年5月末から6月初旬、量産品の出荷は7月上旬というスケジュールが発表された。しかし、巨大なヒートシンクが付けられたParhelia-512の現状、コア・クロックや性能についてまったく触れられなかったこと、今回の発表があくまでもグラフィックス・チップの発表であり、グラフィックス・カードの発表ではない(ただし会場ではリリースされるカード製品がこれまで使われていたMillenniumブランドではなく、Parheliaの名称を用いたものになることが示唆された)こと、などを考え合わせると、このスケジュールが果たして実現可能なのかどうか、気になってくる。
さまざまな機能を詰め込んだParhelia-512は、8000万トランジスタを集積した巨大なLSIだ。最新プロセッサのPentium 4が5500万トランジスタ、AMD Athlonが3750万トランジスタであり、最大のライバルであるGeForce4 Tiシリーズでさえも6300万トランジスタにすぎない。これらを大きく上回るトランジスタ数を誇るParhelia-512の量産は、かなり難しいことが予想される。果たして台湾のファウンダリ(半導体製造工場)であるUMCの0.15μmプロセスによる量産が、Matroxの期待どおり立ち上がるのか、注目されるところだ。
次に気になるのはParhelia-512の価格だ。説明会では、Parhelia-512を搭載したグラフィックス・カードの価格について、128MbytesのDDR SDRAMを搭載したもので400ドルという目安が提示された。これを日本円に換算すると5万円台前半、ということになる。確かに初代Matrox Millenniumがデビューしたとき、その価格は4万円台だったように思うが、当時といまとではPCの価格も、グラフィックス・カードの相場感覚も違っている。一般のユーザーにとって十分な性能を持つグラフィックス・カードが1万円前後で購入できること、Pentium 4やAMD Athlonに対応したグラフィックス統合型チップセットが増えていること、何より高価なグラフィックス・カードに見合うだけのアプリケーションが不足していることを考えると、Parhelia-512搭載カードの5万円は高いような気がしてくる。先行しているGeForce4 Ti 4600(実売5万円前後)も苦戦していることを考えると、もはやこの価格帯に市場はないかもしれない。その中でParhelia-512搭載カードが売れるのか、非常に疑問に感じる。
Matroxの復活で再びグラフィックス市場は戦国時代へ
しかしこの価格について、Matroxは意に介するところではないようだ。説明会で配布された資料には、「Matrox is not targeting graphics for the masses(Matroxはグラフィックスのマス市場をターゲットとしていない)」という宣言さえ見られた。これはParhelia-512が高価であり、ターゲットがマニアとプロフェッショナル(Matroxの担当者はワークステーション向けに、NVIDIAのQuadroやATI TechnologiesのFireGLに相当する派生型チップがリリースされる可能性を強く示唆した)に絞られることを、自ら宣言したようなものだ。と同時に、これは、同社がチップセット市場に参入する意思がないこと(NVIDIA、ATI Technologiesと、ライバルは続々とチップセット市場に参入した)、またNVIDIAやATI Technologiesのようにほかのカード・ベンダに広くチップを供給する意思が、現時点でないことを示したものだと思われる。マニアとプロフェッショナルという限られた市場セグメントでも生き残ることは可能、という判断なのだろう。
グラフィックス市場は、一時期ベンダの数がどんどん減っていき、NVIDIAとATI Technologiesの2社寡占体制になるのではないかという心配さえあった。しかし、今回Matroxが復活し、Creative Technologyというスポンサーを得た3Dlabsの一般向けグラフィックス市場への再参入というニュースもあった(Creativeの「3Dlabs買収に関するニュースリリース」)。SiSが発表したばかりのXabre400は、GeForce4 TiやParheliaと比肩することは難しいかもしれないが、メインストリーム向けとして意欲的な内容となっている(SiSの「Xabre 400の製品情報ページ」)。どうやらグラフィックス・チップ市場は、2社で占有するには大きすぎる規模があるらしい。5社の競争により、再び市場が活性化することを期待したい。
Parheliaのスペックで感じるUMCの製造能力 2002年夏に販売する商品であるParhelia-512が利用している製造プロセスは0.15μm。確かに、現時点でデスクトップPC向けに主流となっているAthlon/Duronは0.18μmプロセスによるものだが、ロードマップではそろそろ0.13μmプロセスを用いたThoroughbred(開発コード名:サラブレッド)へ切り替える時期のハズだ。着々と動作クロックを向上させてくるPentium 4との性能競争のためにも、そろそろ0.13μmプロセスに移行し、動作クロックを高めたいところだ。しかし、Parhelia-512の最高でも動作クロック300MHzと予想されるスペックを見る限り、動作クロックが1GHzを超えるAMD Athlon/Duronを2002年夏に0.13μmプロセスでUMCが量産することは容易ではないように思える。 もちろん、プロセッサとグラフィックス・チップでは、動作条件も違えば、トランジスタ数やトランジスタの構成も異なる。しかし、プロセッサはグラフィックス・チップより格段に高い動作周波数を求められることは紛れもない事実だ。ファウンダリとして世界第1位のTSMCを使うVIA TechnologiesのVIA C3やTransmetaのCrusoeも、動作クロックが1GHzを超えるプロセッサを出荷できていないのが現実である(恐らく現時点で、0.13μmプロセスでロジック・チップを大量に生産できているのはIntelだけだろう)。そんな中でUMCがAMD Athlon/Duronを量産できるとは思えない。もし、AMD Athlon/Duronが量産できる能力があるのならば、Parhelia-512の動作クロックはもっと高いものになるだろう。 その一方で、AMDはこれまでプロセッサを量産してきたテキサス州オースチンの半導体工場Fab 25をフラッシュメモリの量産用に転換しつつある。UMCでプロセッサの生産委託ができないと、AMDのプロセッサ量産工場はドイツ・ドレスデンのFab 30だけということになってしまう。本来であればFab 30は次世代プロセッサ「Opteronシリーズ」の量産を行いたいところだが、UMCへの生産委託が不調の場合、AthlonとOpteronの両方を手がけなければならなくなる(Opteronについては「ニュースリリース:AMD、次世代サーバ/ワークステーション向けプロセッサを『AMD Opteron』と命名」を参照)。Fab 30が優秀であることに疑う余地はないが、量産工場が1カ所だけ、しかも2種類のプロセッサを手がけなければならないとなれば、それぞれの供給に不安が生じる。先日AMDは、Duronがフェーズアウトすることを明らかにしたが、それはAthlon/Duronのコンビから64bit Athlon/Athlonのコンビに移行する、という意味だけでなく、単価の安いDuronを製造する余地がなくなる可能性を示しているのかもしれない。 |
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ニュースリリース
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AMD、次世代サーバ/ワークステーション向けプロセッサを「AMD Opteron」と命名 |
関連リンク | |
3Dlabs買収に関するニュースリリース | |
Xabre 400の製品情報ページ | |
UMCとの合弁会社設立などについて |
INDEX | ||
新グラフィックス・チップ「Parhelia」でMatroxは復活するのか? | ||
1.Matrox Parhelia-512の新機能 | ||
2.機能は魅力的だが製造面で不安もあるParhelia-512 | ||
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