Webアプリケーションのユーザーインターフェイス[3]
UCD=利用者中心設計のプロセスとは?
ソシオメディア 上野 学
2005/8/9
ユーザーの目的を意識する |
「ユーザーにとっては “ユーザーインターフェイス”こそが製品そのもの」「ユーザーが選びやすいフォームのカタチを考えよう」に続き、連載第3回は、ユーザーインターフェイスデザインの上流工程に着目して、利用効率が高くユーザーが目的を十分に達成できるシステムを作り上げるのに必要な、プロジェクト初期の取り組みについて考えていきます。
まず前提として、システムを利用するユーザーは何らかの目的を持っている、ということを意識することが大切です。ユーザーインターフェイスを評価するうえでは、この目的がどれぐらいスムーズに達成されたかという視点が重要になります。個々の画面がどれだけ論理的にデザインされていたとしても、そのシステムを利用した結果としてユーザーが本来の目的を達成できなければ意味がないのです。
ユーザーインターフェイスデザインの役割は、用意された機能を分かりやすくユーザーに示し、ユーザーからの操作を受け取り、その処理結果を再びユーザーに示すというインタラクションを表現することですが、インタラクションの流れが行き着く先は、ユーザーのタスク完了であり、最終的な目的の達成でなければいけません。これは、システム設計の視点を、そのサービスの提供者側ではなく、利用者側に置くことの重要性を示唆しています。いくらクライアント(サービスの提供者)が期待する機能要件を満たすシステムであっても、そのシステムを利用することでユーザーの期待する結果が得られなければ、ユーザーはそのサービスに価値を見いだすことができません。
こういった考えから、ユーザーインターフェイスやインタラクションのデザインは、システムの基本的な企画作業や要件定義作業と不可分であり、プロジェクトの最初期の段階から取り組まなければならないことであるといえます。
システムの複雑化とジレンマ |
Webアプリケーションの役割は多様化、複雑化しています。オンラインで即座に情報やサービスを得られる便利さは多くの人々を魅了し、その生活は仕事においてもプライベートにおいても、ますますWebに依存するようになっていますが、その一方で、ユーザーインターフェイスの分かりにくさは、人々のいら立ちを誘い、時間を無駄にし、コミュニケーションを阻害する原因になっています。そのため、システムの構築にかかわる者は、サービスの有効性やシステム利用効率をどうすれば高めることができるのか、それと同時に開発や運用のコストをどうすれば下げることができるのか、ということを考えなければなりません。
複雑なシステムを構築するためには、多くの人員や工数が掛かります。そのコストに見合った成果を上げるためには、事前に綿密な計画を立てる必要があります。しかし、昨今のWebアプリケーションにはあまりにも多くの技術的、芸術的要素が入り組んでいるため、あらかじめ完成像を正確に描いてそれを評価するのは不可能です。実現したいシステムが複雑であるほど、事前の計画が重要になりますが、プロジェクトの規模が大きければそれだけ、定性的なデザインに関する作業の段取りを決めるのは難しくなるのです。
複雑なシステムのデザインが持つジレンマ: ・解決すべき問題が何なのかをシンプルにいい表すことができない ・どのような処置がそれらの問題を解決できるのか正確に予測できない ・機能の充実と使いやすさの間には常にトレードオフ(交換条件)がある ・適切に機能している仕組みは意識されにくいため、模範として利用できない |
このような不確実性を減らしながらプロジェクトを進め、きちんと役立つシステムを作り上げるために有効なのが、UCDと呼ばれる方法論です。
UCD(User-Centered Design)とは? |
UCDとは、User-Centered Designの頭文字で、利用者中心の設計という意味です。ソフトウェアやハードウェアなどの製品を作る際に、ユーザーにとっての使いやすさや利用価値を第一義にとらえて設計するという思想を表しています。
そもそも製品はそれを利用する人のために作られるのだから、ユーザーのことを考えて設計するのは当たり前のことだといえます。あらゆる道具はそれを使う人がいるからこそ存在意義があります。わざわざユーザーにとって使いにくい、役に立たない道具を作ろうとする人はいません。しかし道具の用途が専門化し、仕組みが複雑になってくると、話はそう単純ではなくなります。
技術が発達し、応用されていくと、道具の構造は複雑になっていきます。利用効率や保守性の高い道具を作るためには特殊な材料と精密な構造が必要になります。また市場競争にさらされる製品は、製造者にとっての収益性という観点からもさまざまな制約を受けます。理想的な製品の姿を思い描くことができても、それを実現するにはスケジュールやコストの面で困難であることが多くなります。同時に、高度な技術の応用が進むとユーザーのニーズも多様化していきます。人々が日常的に複雑な道具を使って複雑な仕事をするようになるため、道具を作る側は、ある目的に対して求められる機能要件と使い勝手を正確に知ることが難しくなるのです。実際には、ユーザー自身も、自分の目的をかなえる理想的な道具のデザインをいい当てることは難しいでしょう。
古くからある大工道具や家事道具などは、長い年月をかけて人々による取捨選択が行われ、使い勝手を洗練させてきました。しかし現代社会では、企業は新しい製品の開発に大きな投資をするため、不適切な設計によるコスト的な損失は許容されません。製品を作る側からすれば、いますぐにユーザーのニーズを満たすものを作らなければならないのです。そこで、どうすればユーザーにとっての理想的なデザインを知ることができるのか、どうすればユーザーの目的を十分にかなえる機能要件を知ることができるのか、といった疑問に答えるノウハウが必要になってきます。
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INDEX |
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Webアプリケーションのユーザーインターフェイス(3) | ||
Page1<ユーザーの目的を意識する> システムの複雑化とジレンマ/UCD(User-Centered Design)とは? |
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Page2<ユーザビリティの定義と課題> デザインメソッドの必要性/デザインメソッドの必要性/従来の開発プロセスとUCDプロセスの関係/GUIの特徴 |
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Page3<UCDのプロセス> データの収集/ペルソナとシナリオ/タスクと機能の分析/画面遷移の設計/プロトタイピング/ユーザビリティ評価/システムの最終的な評価者 |
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