Webアプリケーションのユーザーインターフェイス[4]
お金を下ろせないATMの画面デザインを考える
「利用者体験における本質的な問題と表層的な問題」
ソシオメディア 上野 学
2005/9/16
デザインの理想はユーザーの目的や状況によって変化する |
前回まで(「ユーザーにとっては “ユーザーインターフェイス”こそが製品そのもの」「ユーザーが選びやすいフォームのカタチを考えよう」「UCD」)は、ユーザーインターフェイスやインタラクションデザインというもののとらえ方、代表的な GUI コントロールの振る舞い、そして使いやすい製品を実現するための設計プロセスといった、基礎的な話をしてきました。今回からはいよいよ、より実践的なデザインのノウハウに入っていきたいと思います。
実践的なノウハウといっても、デザインには絶対的な正解はありません。「プッシュボタンの大きさは20×60ピクセルで、画面の左端から80ピクセルのところに配置するのが常にベストです」といったルールはないのです。ユーザーインターフェイスデザインの良しあしは、それがユーザーの目的達成を有効に支援しているかどうかで決まりますが、ユーザーの目的やスキルは状況によって変化するものであり、一概に規定することができません。だからノウハウの基本はまず、ユーザーの目的や状況を適切に想定して、システムがきちんと役立つようにすることです。そしてその次のノウハウは、一般的な利用フローの中で頻出するタスクを有効に支援する経験則を理解し、それをうまく応用することです。
ユーザーインターフェイスデザインのノウハウというと、とかく GUI コントロールの標準的な使い方や経験則の話に偏りがちですが、そもそも、そのシステムがユーザーの目的に合致しているのかという問題がクリアになっていなければ、目的を達成するためのタスクを支援する、個々のユーザーインターフェイス要素の話をしても意味がないのです。
本質的な問題と表層的な問題 |
これまでも何度か書いたように、ユーザーインターフェイスやインタラクションのデザインは、開発プロジェクトの後段になってから行う付加的な作業ではなく、プロジェクトの初期段階から取り組まなければならない非常に重要なものです。ユーザーが求めるのは洗練されたプログラムソースや整然とした画面レイアウトではなく、そこから得られる利便性や結果であり、ユーザーから見た場合、システム利用による成果物は、ユーザーインターフェイスを通したインタラクションによって生み出されるからです。この感覚は、例えばコンピュータに詳しい人が、「私のパソコンを見てよ」といってディスプレイを指さすという行動からも明らかです。
別のいい方をすると、ユーザーインターフェイスやインタラクション上の問題は、そのままシステムのアーキテクチャや、サービスの企画自体の問題に根差していることが多いのです。ユーザーから見た使いやすさを考慮せずに企画や設計、開発を進めてしまうと、すでに大部分の実装が済んだ段階でテストしてユーザビリティ上の深刻な問題が発見された場合、もうそれを修正することができない(あるいはそもそも最初の要件と反目してしまう)ことが多くなります。
あらかじめユーザーの目的を把握できていれば、システムを使ってそれを効率的に実現しているユーザーの様子を想像することができます。設計や開発にかかわるあらゆる場面で、この「ユーザーにとっての成功ケース」を基準にした判断ができるようになります。たとえ技術やコストの制約から理想とする機能が実現できないとしても、結果的にどのような妥協をして、それを補うためにどのような要素が追加/削除されたのかを意識することが重要です。そうすれば、ユーザーインターフェイス上のコントロールの使い方やインタラクション上の画面遷移などの工夫によって、ユーザーの体験を「成功ケース」に少しでも近づけることができるからです。
ここで注意しなければならないのは、「ユーザーの目的」といった場合に、それがシステムの企画者の目的であり、エンドユーザーの目的ではない場合が多くあることです。システムの企画者は、「インターネットで○○を販売したい」とか「従業員にこんな業務を行わせたい」といった考えをもって要件を掲げていきます。それを開発者がシステムとして実現していくわけですが、もし十分に要件を満たして企画者の希望に応えることができても、それがエンドユーザーの目的を満たすものでなければ、デザインとして成功とはいえません。
エンドユーザーの目的とは、「好きな時間に○○を購入する」とか「業務を効率よく終わらせて早く帰る」といったことです。その目的が達成されるシステムであれば、ユーザーにとって利用価値があるといえます。しかし最終的に完成したシステムが、「昼間しか○○の注文を受け付けない」「業務が増えて前より帰りが遅くなる」といったものであれば、ユーザーはそのシステムを積極的に使わなくなり、プロジェクトは失敗になってしまいます。
このような問題は、前回のUCDの話でも触れたとおり、ユーザーインターフェイスやインタラクションのデザインをシステムの技術的な設計に入る前に行うことで解決できます。しかし実際には、さまざまな要因によって、多くの妥協のうえに技術仕様が決定されていくと思います。そこで、サービスの有効性に直接関係する根本的な問題に、どれぐらい敏感になれるかということが、ユーザーインターフェイスやインタラクションデザインの品質を左右することになります。理想型と妥協点を適切に把握し、利用者体験における本質的な問題と表層的な問題を段階的に切り分けてとらえて、デザインによる解決を試みることが大切です。
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Webアプリケーションのユーザーインターフェイス(4) | ||
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