前編 Web2.0の全体像を整理する
Web2.0の本質から読み取る
Webビジネスの心得とは?
野村総合研究所
技術調査室
堀祐介
2006/2/4
コンテンツ間・ユーザー間の相互連携加速 |
従来のWebにおけるコンテンツの連携手段はHTMLで記述されたページ同士のリンクであった。
Web2.0では連携手段としてRSS/ATOMフィードやWeb APIが用いられる。RSS/ATOMフィードを用いれば記事同士のリンクが可能になり、Web APIを用いれば他サイトが提供する機能を自サイトで利用することが可能になる。
つまり従来はページ同士のリンクにとどまっていたことが、記事単位や機能のリンクが可能になり、より密度の高いコンテンツ同士の連携が実現された。
ユーザー同士の連携はどうだろうか?
従来のWebではユーザー同士の情報共有手段はEmailやBBSが主であり、個々の情報は点在しユーザー同士のつながりは見えにくかった。
Web2.0では情報共有手段としてブログやSNSを利用するユーザーが急増している。トラックバックによる相互リンクやSNSでのコミュニティ形成により、同じ趣向を共有する者同士でより密度の高い情報共有が可能になった。
図表1-6 相互連携の加速「出所:野村総合研究所」 |
Web2.0の全体像から読み取れるWebビジネスの心得とは? |
ここまででWeb2.0の考え方を示し、Webビジネスの構造変化とWebを取り巻く環境の変化について整理した。これらを踏まえて、これからのWebビジネスの心得をいくつか挙げてみたい。
ユーザー主導型のプラットフォームを取り込む |
Webを通じてユーザーにどのような情報を発信するかという主導権が従来は情報発信企業側にあったのに対し、Web2.0ではユーザー側である程度コントロールできるようになってきた。
例えばユーザーがマッシュアップを利用することで、Web上に流通する情報をユーザーが利用しやすいように組み合わせ、加工することが可能になった。Grease Monkeyのようなツールを使えばWebサイトを構築しなくても、ユーザー側の端末でマッシュアップをすることが可能だ。
またCGMの台頭により、ユーザーは大手企業やマスコミの情報だけではなく、ユーザー同士の口コミ情報を商品購入時などの判断基準として利用するようになった。CGMで流通する情報は信頼性の点で不安はあるものの、広告や企業の意思に左右されない中立的メディアとして存在価値がある。
つまりユーザーが自分たちの使いやすいように情報を加工し、また自ら情報を発信することで、Webというプラットフォームの主導権が緩やかにユーザー側にシフトしているように見える。
例えばeコマースを手掛ける企業は、これまでのように商品情報やオススメ情報を自らコントロールするのではなく、むしろユーザー側の主導権を尊重したWebサイト構築(例えばユーザー同士のコミュニケーションの場を設けるなど)をしてみてはどうだろう。
口コミ情報を最大限に利用する |
口コミ情報(図表1-4のコアデータ)は競合他社が簡単にコピーできるものではないため、このコアデータを持つ者がWeb2.0ビジネスでは有利になる。なぜコアデータを持つことがビジネスにおいて有利になるかというと、
- コアデータが増えることで自社サイトの情報量が増え、サイトの利用価値が高まる
- コアデータを解析することでユーザーのさまざまな動向を抽出し、マーケティングに生かせる
- コアデータを加工し活用することで、新たな付加価値を生み出せる
といったことが期待できるからだ。
ロングテールビジネスは規模(アクセス数)の獲得と ターゲット(顧客)の設定が必要 |
ロングテールビジネスの肝は小さな売り上げを積み重ねることであるため、ロングテールビジネスから大きな売り上げを得るためには、一定以上のシェアや規模(アクセス数)がないと商売が成り立たない。またロングテールの横軸を考えるということは、ビジネスのターゲットとする顧客を考えるということである。横軸が商品ラインアップなのか、情報の多様性なのかといったことは事業者によって違う。
自動配信する情報の中身とターゲット(配信先)を設定する |
情報自動配信の手段であるRSS/ATOMフィードの実態は、Webページの見出しや要約をXMLで記述したメタデータであるが、どのような情報を自動配信するかについてはほかにもさまざまな可能性がある。このことはフィードビジネスとして注目されており、国内の動きとしてはサイボウズ・RSS広告社・Sunを含む7社がRSS/Atomフィードのビジネスでの利用を推進する目的でフィードビジネス・シンジケーション(FBS)を立ち上げた。
すでにRSS/ATOMフィードは、
- ニュース記事
- ブログ記事
- 企業のプレスリリース
- 検索結果のサマリー
- 音声や映像(Podcasting)
- 広告
といった情報の配信に利用されているが、さらにほかの価値の配信に拡張できる可能性を持つ。
例えばキャンペーンや決済方法を含んだ詳細な商品情報の配信や認証情報の配信など応用例はあるはずだ。現状ではビジネス・技術的問題があるかもしれないが、新しい情報配信手段が標準化されることでユーザートラフィックの流れが変わりそうだ。
マッシュアップするのか、されるのかを考える |
自らマッシュアップする側になって新しいWebサイトを構築する場合と、逆にWebAPIやRSS/ATOMフィードを公開することでマッシュアップされる側になる場合で、自社にどのようなメリット・デメリットがあるか考察する必要があるだろう。前者の場合は異業種間のアライアンスを可能にするかもしれないし、後者の場合は商売を展開する場が自サイトだけではなく無数の他サイトやRSS/ATOMリーダーにも広がっていく。逆に過度にほかへ依存し過ぎることは、サービスの可用性や信頼性の面でリスクを伴うだろう。
このように実世界のビジネスではあり得なかったことがWebビジネスの世界では起こり得る。これらを理解したうえでビジネスの構造を構築することがWeb2.0時代に最適化された企業の条件である。
Web2.0でできること |
以上、前編ではWebビジネスの構造変化およびWebを取り巻く環境の変化を整理することで、Web2.0の全体像を示した。
後編は事例紹介を中心に、“Web2.0によってできること”“Web2.0の影響力”について掘り下げ、総括としてWeb2.0の本質を示したい。
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INDEX |
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Web2.0の本質から読み取るWebビジネスの心得とは? | ||
Page1<すべては2005年にはじまった> Web2.0の全体像から本質を整理する/Web2.0がもたらすWebビジネスの構造変化 |
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Page2<ビジネスモデルの変化(実店舗型からロングテール・サービス型を意識したビジネスへ)>
情報モデルの変化(静的な情報から混ぜ合わせ活用される情報へ)/技術トレンドの変化(テキスト主体から構造化されたWebへ)/Webを取り巻く環境の変化/情報発信者の多様化 |
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Page3<コンテンツ間・ユーザー間の相互連携加速>
Web2.0の全体像から読み取れるWebビジネスの心得とは?/ユーザー主導型のプラットフォームを取り込む/口コミ情報を最大限に利用する/ロングテールビジネスは規模(アクセス数)の獲得とターゲット(顧客)の設定が必要/自動配信する情報の中身とターゲット(配信先)を設定する/マッシュアップするのか、されるのかを考える/Web2.0でできること |
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