Insider's Eye

Microsoftが非公開だったネットワーク・プロトコルとAPIを公開

―― 米司法省との和解案に応じて、今まで非公開となっていたネットワーク・プロトコルと内部APIの一部を公開。ただし一部のプロトコルではNDA契約が必要 ――

Matt Rosoff
2002/09/27
Copyright(C) 2002, Redmond Communications Inc. and Mediaselect Inc.


 
本記事は、(株)メディアセレクトが発行する月刊誌「Directions on Microsoft日本語版」 2002年9月15日号 p.55の同名の記事を許可を得て転載したものです。同誌に関する詳しい情報は、本記事の最後に掲載しています。

 これまでは非公開だったWindowsのネットワーク・プロトコルと内部インターフェイスの一部が公開される。米司法省との和解案に応じ、連邦反トラスト法訴訟の陪審員に対して、同社が行動を改める要求に従っていることを印象付けるためである。

 Microsoftは、デスクトップ用WindowsでWindowsサーバとの通信/連携に使用している新しいネットワーク・プロトコルを100以上ライセンス供与し、200を超えるWindowsの内部APIを情報として公開する。こうした情報公開により、独立系ソフトウェアベンダ(ISV)も、Windowsとほかのプラットフォームをリンクする製品が開発しやすくなり、Media PlayerやブラウザなどのMicrosoft製ミドルウェアにも対抗できるようになるだろう。

一部のプロトコルにはライセンスが必要

 2002年8月28日にMicrosoftはデスクトップ用WindowsでWindowsサーバとの連携や通信に使用され、これまでは非公開だった113のネットワーク・プロトコルを情報として公開する。この情報にアクセスするには、ライセンス供与プロセスを踏み、非常に限定的な条件下を除いて情報をほかには公開しないという守秘義務契約(NDA)に調印しなければならない。ただ、このNDAはライセンスを得たプロトコルで商用製品を作成することを妨げるものではない。

 新たに公開されたネットワーク・プロトコルは、Windowsとほかのプラットフォームをリンクする連携アプリケーションを開発するベンダにとって、この上なく興味深いものだろう。このようなアプリケーションとしては、例えば、Ximian(LinuxベースのPCがExchange Serverからメールや日付情報を取得できるクライアントやコネクタ)やSAMBA(Windowsネットワーク互換のファイルとプリント・サービスをUNIXやLinuxサーバでサポートするオープンソース型プロジェクト)などがある。

 Windowsではグループ・メンバーシップの識別にKerberos仕様が採用されているが、この仕様に対する拡張でMicrosoftが所有権を持つ機能についての新たな情報が8月28日の公開分に含まれるかどうかについては、Microsoftはコメントしていない。これらの拡張については一部情報がこれまでも公開されているが、他社がWindowsドメイン・コントローラの機能を再現するにはまだ不十分である。欧州連合がこれらの拡張機能をMicrosoftに対する反トラスト調査の対象に取り上げているとも伝えられており、いずれはさらに詳しい情報が明らかにされる可能性もある。


APIの使用は自己責任で

 8月28日には、Microsoftの「ミドルウェア」コンポーネントが使用するWindowsインターフェイスで、これまで非公開だった約272件の情報も公開される(反トラスト訴訟を進める上でこの「ミドルウェア」は次のように定義されている―MicrosoftがそのデスクトップOSの一部として提供しているWebブラウザ、インスタント・メッセージング・クライアント、メディアプレイバック・クライアント、電子メールクライアントのすべて、MicrosoftのJava Virtual Machine、およびMicrosoftが将来OSに組み込む一定のクライアント・ソフトウェア)。MicrosoftはこれらのインターフェイスをPlatform SDKMSDN、そのほかの場所でAPIとして公開し、それらを詳細に説明した文書も提供する意向である。これらミドルウェアのAPIにアクセスし使用するに当たって、特別なライセンスは必要ない。

 これらのAPIにより、ISVも自社のアプリケーションをWindowsのシェルによって適切に統合できるようになる。また、アプリケーションがMicrosoft社以外のミドルウェア(Netscape Navigatorなど)を使用して、特定の機能(HTMLのレンダリングなど)を実現するのも容易になる。

 ただ、注意しなければならないのは、MicrosoftがこれらAPIの多くを非公開にしているのは営業的な理由からではなく、単にそれらが不完全であることをMicrosoftの開発者が認識しており、Windowsの次期バージョンでは削除するか、別のAPIと置き換える予定になっているということだ。ほかの開発者に、これらの不完全なAPIを使用してほしくないのである。

 和解案が承認されれば、Microsoftはミドルウェアの主要バージョンの該当するAPIを継続的に公開しなければならないが、その期間は和解承認の日から5年に限定されている。そのため、これらのAPIをベースにしたアプリケーションは比較的短命に終わりそうだ。

適正な行動の実証

 和解案では、Windows XPの最初のサービスパック(Service Pack 1)がリリースされた後、できるだけ速やかにネットワーク・プロトコルを公開しなければならないことになっている。このサービスパックは現在ベータ版段階にあり、8月28日か、その後すぐにリリースされると思われる(Windows XPの最初のサービスパックについては、Directions on Microsoft日本語版2002年8月15日号の「Windows XP Service Pack 1で司法省との和解案に対応へ」参照)。そのため、Microsoftは和解案承認に備えて、これらのプロトコルをライセンス供与して和解案への違反を避ける必要があった(編注:Windows XP SP1は2002年9月にリリースされた。関連記事はこちら)。

 しかしながら、和解案では、その承認後9カ月まではWindowsの内部APIを公開する必要がない。Microsoftが法的に要求されるよりも早く、これらのインターフェイスを進んで公開するのは、それによって同社が適正な行動への改善要求に率先して従い、それを全うしようとしていることを訴訟の陪審員に認知してもらうためである。これまでMicrosoftの訴訟相手と陪審の主張はというと、Microsoftは行動規制に従うはずがなく、会社分割などの構造的な改革のみが市場独占に歯止めをかける唯一の手段であるというものだったことも、その背景にある。End of Article

[参考資料]

Directions on Microsoft日本語版
本記事は、(株)メディアセレクトが発行するマイクロソフト技術戦略情報誌「Directions on Microsoft日本語版」から、同社の許可を得て内容を転載したものです。Directions on Microsoftは、同社のWebサイトより定期購読の申込みができます。

 
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