書評
これからXMLを学ぼうとする
初心者に薦める6冊の入門書
中澤勇
2000/10/6
この6冊 XMLコンテンツの作り方 まるごと図解 最新XMLがわかる 標準XML完全解説 XMLコンプリートガイド よくわかるXMLの基礎 第2版 図解 そこが知りたい! XMLがビジネスを変える! |
2000年も後半に入り、XMLへの注目度はますます高まっている。各種メディアや多くの業界からは福音と目され、XMLをベースとした言語やツールも充実しはじめている。XMLが期待どおりの成功を収めるか否かはまだ未知数だが、いまやコンピュータ業界がXML抜きには語れない段階にきていることは間違いない。
XMLへの潮流は今後よりいっそう加速していくと思われるが、認知度や理解度についてはまだ必ずしも十分とはいえない。XMLという言葉は目にするものの、HTMLの次世代版程度にとらえている人も多いだろう。「XMLとは何ぞや?」という根源的な問いを明らかにしないかぎり、XMLがこれほどまでに注目される理由を理解することはできない。また、XMLは多くの技術の複合体であるため、ある程度各技術の位置付けや仕様を理解しておかないと、各論についていけなくなってしまう。氾濫する技術用語の海でパニックに襲われるだろう。
これから紹介する書籍は、XMLについては何の知識も持たない入門者を対象とし、先の「XMLとは?」のレベルから基礎知識までを網羅している。XMLが必要とされる理由や可能性、関連技術との関係から技術仕様まで、ゼロから学べるものを用意した。これらの書籍なら、次のステップに進むためのよき水先案内人になってくれるだろう。
XMLコンテンツの作り方 川俣 晶 著 |
本書が出版されたのは2年以上も前の1998年6月。前提としているブラウザもInternet Explorer 4.01であり、隔世の感は否めない。ただし、XMLの概念についてはしっかり押さえられている。会話形式の文体も読みやすく、また具体的なコンテンツを作成するという明確な目的意識を持たせることで、最後まで読者をあきさせない。技術解説書で挫折した人には特におすすめだ。
本書の魅力は、前述した具体的なコンテンツ作成を目的としているところである。技術解説書は得てして抽象論になりがちだが、本書ではXMLを利用したデータベースやオンラインノベル(付属CD-ROMにも収録)を作成することで、XMLを身近なものに感じさせてくれる。Dynamic HTMLやJavaScriptの知識も要求されるが、XMLパーサが解析したノードをJavaScriptで操作する知識はこれからも十分役に立つ。
まるごと図解 |
本書の特徴は、1項目を見開き2ページ(一部1ページや3ページ以上の項目もある)を基本単位として簡潔にまとめている点だ。また、「図解」の名のとおり、右ページのほとんどは概念図や画面に充てられており、各項目の説明自体は他書に比べて非常にあっさりしている。
内容は、XMLの概念からwell-formedやvalid XMLの意味、エンティティ参照やDTDの書き方、XSLやXLink、XPointerまで、解説書として押さえるべきポイントをすべて網羅している。説明があっさりしているといっても、必要なレベルは満たしているのでXMLの書き方をひととおりマスターするのに不足はない。また、XSLやXLink、XPointerなどはまだ正式な勧告に達していない未確定な技術であり、今後変更される可能性もあることを考えれば、いまは本書でひととおりの概念だけ知っておけばよいともいえる。
各項目は最低限の解説にとどめられているので、本格的にXMLを活用する段階ではやや物足りなさを感じるかもしれない。半面、見開きで構成されているので目的の項目が見つけやすく、リファレンスとしての活用も可能だ。手元に置いておくと何かと重宝するだろう。
標準XML完全解説 XML/SGMLサロン 著 |
本書はすでに江島健太郎氏の書評でも取り上げられているが、今回は入門者向けの書評ということであらためて紹介しよう。
XPathについてまったく触れられていない点や、江島氏も指摘されているようにDTDの解説が多いなど、さすがに古さを感じさせる面はある。一方、分かりやすい解説や的確な図版、文章量は多すぎず少なすぎずなど、書籍としての完成度はいまだ色あせていない。XMLの世界に入っていくために知っておくべき用語や仕様をしっかり網羅しており、相変わらず「定番」たるにふさわしい1冊。初心者の人にも安心しておすすめできる。
XMLコンプリートガイド 井上 孝司 著 |
本書は、2000年8月に出た技術解説書の中の1冊。最新事情も可能なかぎりフォローしていこうとする姿勢が感じられる。
構成は前出の『標準XML完全解説』とほぼ同様ながら、新しいだけにXPathやXHTML、XML-Data(本書では「データスキーマ」と呼んでいる)についても解説している。ただし、総ページ数の約1/3にあたる100ページ強がDTDの解説に充てられている点や、XSLについては『標準XML完全解説』の方が詳しく扱われている(CSSは本書の方が詳しい)など、ややバランスの悪さを感じないでもない。とはいえ、DTDに代わる標準スキーマやXSLは策定中であるため、こうなるのもやむを得ない面があるのも確かだ。
よくわかるXMLの基礎 第2版 Simon St. Laurent 著 |
XMLの世界はいまだ流動的で、本書の第1版のあとにXMLのリンク仕様がXLinkとXPointerに分かれるなどの動きがあった。これを反映したのが第2版だ。
技術解説自体はXMLの概念からDTDの詳細、XPointerやXLinkの仕様など、一般的な技術解説書と大きな差はない。ひととおりの技術解説のあとには、商取引を前提とした電子カタログ、XMLによるドキュメント管理、XMLを利用したアプリケーションの構築方法に1章ずつ割り当てており、活用法が見えてくる点は評価できる。
翻訳書独特の文体であること、サンプルコードは空行もインデントも施されていないフラットなリストであることなど、ほかの書籍に比べるとやや読みにくい面もある。しかし、仕様の背景まで解説されており、非常に読みごたえがある。腰を据えてじっくり読みたい1冊だ。
図解 そこが知りたい! 岡部 惠造 著 |
本書はこれまでに紹介してきた書籍とはアプローチが異なり、技術仕様については簡潔な紹介にとどめられている。その一方、取り上げている範囲は非常に広く、XMLの世界の全体像を俯瞰、把握するのに最適だ。
ほかの技術解説書が、やや時流から外れた感のあるDTDを詳説するなかで、XML SchemaやDCD、XDR、RELAXといったスキーマを紹介。また、今回紹介した書籍の中で、SOAPについても触れているのは本書のみだった。XMLの位置付けや想定される用途、XMLの推進団体やXMLをベースとした各種言語なども広く取り上げており、XMLの世界で「いま何が起こっているのか」を簡単に把握できる。9ページにわたる「XML関連用語集」は用語に関連するサイトのURLも併記されており、本書を手がかりにより詳細なリソースにアクセスすることも可能だ。
本書はほかの技術解説書と競合するものではなく、補完しあう存在といえる。技術解説書とともに併読することをおすすめしたい。
■変更履歴
2000/10/17 「よくわかるXMLの基礎 第2版」について、一部事実誤認がありましたので該当部分を削除いたしました。
各書評にあるボタンをクリックすると、オンライン書店で、その書籍を注文することができます。詳しくはクリックして表示されるページをご覧ください。 |
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