BtoBの時代に備える(4)
XMLデバイドと2つの構造改革

平野洋一郎
インフォテリア株式会社
代表取締役社長
2001/7/4

構造改革なくしてBtoBの普及なし!?

 先ごろ誕生した小泉内閣のスローガンは「構造改革なくして景気回復なし!」です。実は、BtoBの導入にあたっても、2つの構造改革が必要となります。第1に、BtoBサーバの内部構造改革。そして第2に、導入する会社や人の思考の構造改革です。

 BtoBの導入を簡単に比較的安価に実現するために「BtoBサーバ」という製品が現れ始めました。BtoBサーバは、BtoBに必要なシステムをすべて手作りで構築するのではなく、汎用化できる部分をパッケージしたレディメイドのソフトウェアです。BtoBサーバは現在いくつかの製品が出荷されていますので、ここで少し整理してみましょう。

BtoBサーバの内部構造はさまざま

 BtoBサーバの性格を見るために、横軸にはデータの活用が社内指向なのか外部ネットワーク指向なのか、縦軸にはシステムの内部アーキテクチャが独自なものかオープンな標準なのかを表しました。そうすると、結果的にBtoBサーバがその出自、つまり内部構造によって以下のように4つに大別できることが分かります。

BtoBサーバの分類
(1:左上) EAI(Enterprise Application Integration)ベース
(2:左下) ODB(Object Oriented Database)ベース
(3:右下) EDI(Electronic Data Interchange)ベース
(4:右上) 新しく開発されたインターネットベース

 それぞれを説明してみましょう。

(1)EAIベース:もともとアプリケーション統合から出発したBtoBサーバです。企業内の各種システムを統合する最適解となっており、これにビジネスネットワークの皮をかぶせることでいわゆるBtoBサーバとなっています。導入にあたっては、EAIと同時にBtoBを進めるときには適していますが、そうでない場合は、コストと期間が余計にかかってしまう可能性があります。

(2)ODBベース:オブジェクト指向データベースは、XMLのツリー構造をそのままストアできるところから、まずXMLデータベースとして現れました。その後、XMLによるBtoBシステムの構築が盛んになるにつれ、ビジネスプロトコルのサポートを行うことによってBtoBサーバとして販売されています。ODBベースのBtoBの場合は、データストアが特定のODBなので、柔軟な開発環境を求める場合には、対応できない場合があるようです。

(3)EDIベース:従来EDIをつかさどっていたシステムにXMLとビジネスプロトコルの皮をかぶせたものです。従来のEDIシステムの特徴をそのまま備えていますが、一方で社内システムとの統合機能が弱い場合があります。また、内部がXMLベースの構造になっていない製品では、さまざまなプロトコルに対する柔軟性をよく見極める必要があるでしょう。

(4)インターネットベース:インターネットベースのBtoB専用にゼロから開発された製品です。データフォーマットは、内部もすべてXMLを使用し、さまざまなビジネスネットワークへの接続を第一に考えて設計してあります。多数の企業間で発生する複雑なプロセスにも柔軟に対応し、また、社内システムには非依存であるため、社内システム接続でも柔軟性を発揮 します。

BtoBサーバ内部の構造改革

 今後ますます複雑化、多様化するBtoB環境においてユーザーとなる企業が最も必要としているのは、柔軟性と拡張性を持ち外部ネットワークとの接続をよりオープンな環境で提供できるインターネット・ベースのBtoBサーバといえるでしょう。「EAIベース」「ODBベース」「EDIベース」の3つの分類のBtoBサーバが、良くも悪くも旧来の構造を引きずっているのに対し、「インターネットベース」のBtoBサーバは過去のしがらみがなく、まったく新しい構造で開発されています。このおかげで、大企業だけでなく中堅・中小企業まで導入しやすいアーキテクチャといえます。現在、この分類に入る製品は、インフォテリアの「Asteria」のほか、マイクロソフトの「BizTalk Server」があります。

 ところで、実際にBtoBサーバを構築する場合は、安全性を考えてBtoBサーバの両側にファイアウォールを立て、DMZ(Demilitarized Zone:非武装地帯)を作ります。つまりBtoBサーバの選択の際にはこのDMZ上での稼働を考慮することが必要になります。

 このような構成にする場合、社内に既にアプリケーション サーバやデータベースなどが存在していても、それらをさらに追加し、新たにBtoB用のシステムを構築しなければなりません。その際にかかるライセンスコストやインテグレーションコストも、判断ポイントの1つとなります。

安全性を考えて、BtoBサーバは通常、ファイアウォールに囲まれたDMZに置かれる

 

「XMLデバイド」現象が発生する

 上記のように、BtoBサーバはいろいろな形でXMLに対応しています。第1回のコラム「BtoBが大事な本当の理由」でもご紹介したように、「XMLはBtoBに必須の技術である」からです。

 しかし、いまでもよく「BtoBは分かったが、コンピュータ同士をつないでデータをやりとりするだけならCSVで十分だろう?」という疑問を耳にします。確かにCSVは、ホストコンピュータをはじめ、さまざまなシーンでデータのやりとりによく使われてきました。実際、これからも小規模で単純な売り買いの部分だけをつなぐのならCSVでも問題はないでしょう。ところが、BtoBは企業間のプロセス全体をつなぐように発展します。つまり単純な表形式でないデータ、ワークフローやERPやCADなどさまざまな種類のデータを柔軟につなぐ必要があり、そのために複雑な構造化と、アプリケーションから独立した自己記述の可能なデータ形式を表現しなければなりません。XMLを使用しないと、その対応は技術的に難しくなってきます。

 しかし実際には、技術的な理由以上に、多くの企業がXMLを使い始める理由は、XMLでの取引がデファクト・スタンダードになりつつあることによります。すでに多くの企業間ビジネスプロトコルがXMLベースで開発されていることに加え、マイクロソフト、オラクル、IBMなど主要ソフトウェアベンダのほとんどがXMLをデータ記述技術として採用してきており、好むと好まざるとにかかわらずXMLをデータ形式として使うことが当たり前となっていきます。この現象が進むと、これから、企業間の取引で「XMLデバイド」なる現象が起こってきます。

 「XMLデバイド」は、私の造語ですが、企業システムがXMLを喋れるかどうかが取引の可否につながり、結果として起こる企業間格差現象のことを指しています。「いまはまだ取引先がXMLに対応していないから大丈夫」と、思っていても、それほど遠くない将来に状況は変わってくるのです。

波に乗るための思考の構造改革

 これは、決して「脅し」ではありません。明らかにそのような時代の波が来るわけですから、いかにその波に乗って企業競争力をつけるかを考えなければならないということです。

 ここで、実際の「波乗り」を思い浮かべてください。向こうから大きな波が来ています。上手く波に乗るためには、波のどこに乗りますか? 波が一番高い頂点? それでは遅すぎますね。そう、波の手前でないと、うまく波に乗って進むことはできません。もしあなたが、あなたの会社がXMLでのBtoBを「十分普及してから始めよう」と考えているなら、それは波の頂点やそれより後に乗り始めるのと同じです。思考の構造改革を行って、大きな波にうまく乗り、リーダーシップを獲得してください。

 次回はいよいよ最終回です。

筆者紹介
平野洋一郎

熊本県生まれ。株式会社キャリーラボ設立にあたり熊本大学工学部中退。1983年から1986年の間、株式会社キャリーラボにて、日本語ワードプロセッサを開発し、1985年に年間ベストセラーになる。1987年から1998年まで、 ロータス株式会社にて、表計算ソフト「ロータス1-2-3」から、グループウェア「ロータスノーツ/ドミノ」まで、幅広い製品企画とマーケティングを統括。元ロータス株式会社戦略企画本部副本部長。1998年インフォテリア株式会社を創立し、現職に就任。


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