第29回 実体を参照する文脈=コンテキスト Page 2

川俣 晶
株式会社ピーデー
2005/1/13

余談:文脈の重要性とXML

 余談だが、この「文脈」という言葉に、特に筆者は注目しているということを書いておこう。文脈とは英語ではcontextである。カタカナ表記では、コンテキストあるいはコンテクストと書く。コンテキストと書くと、何やら専門用語だと誤解して、定義せずに使われても分からないといわれることがあるが、これは普通の辞書に載っている普通の言葉である。

 さて、筆者は、インターネットによってもたらされる知性、インターネット知の欠陥は文脈の希薄化ではないかと考えている。現在、多くのインターネット利用者は、検索エンジンによって目的の情報が記述されたページに到達し、それを読む。しかし、それらのページの多くは、そのページだけで独立しているわけではなく、ほかのページとの関連性を持っている。

 例えば、ソフトウェアのレビューを多数掲載しているサイトがあったとする。このサイトでは、一般の基準とは別に、特定の目的に特化した評価基準でレビューをしているとしよう。サイトの表紙には、それが明示されているとしよう。表紙から読み始めた読者は、目的を読んでから各ソフトのレビューを読む。これがサイトの「文脈」である。しかし、検索エンジンによって特定のページに直接到達した読者は、表紙を読まずに、つまり目的を知らずにページを読み、そこに書かれた意図を誤解するかもしれない。これは「文脈」が失われた状態である。

 検索エンジンに依存し続けると、「文脈」が失われた状態が日常化する。そうすると、たった1つの自分固有の「文脈」によってしか物事を判断できなくなる危険性が考えられる。このような問題を特徴付けるキーワードが「文脈=キーワード」ということである。

 一方、インターネットがすべてを文脈化すると表明している人もいる。

「インターネットが発達し、検索エンジンですべてが文脈化され、ある日気が付いてみたら、文脈だけが残っていた。そんなことになりかねない現代において、文脈化されないファンタジーを描く宮崎駿は、おそらくは孤立している」

「文脈に抱かれ、自由を夢見ること」茂木健一郎、ユリイカ2004年12月号(青土社)80ページより引用

 どちらの主張が正しいかという議論はここでは行わない。しかし、どちらも文脈という言葉、概念に重要な意味を見いだしているという点に共通点が見られる。

 さて、ここで「文脈=コンテキスト」についての話が続いたのは、もちろん余談ではあるが、XMLと無関係の話ではない。XMLそのものが文脈を強く意識する技術である、という話をここで書いておく価値があると思うためである。

 XML誕生前夜の時代(あるいは現在も)、パソコンでデータを扱う場合に最もよく使われていた(いる)のはRDBMSではないかと思う。RDBMSでは、データを記述したレコードの並び順はあまり重要な意味を持たない。例えば、特定の条件に合致するレコードだけ抽出すれば、抽出されたレコードの前後に並んでいたレコードが消えてしまうこともある。しかし、それが問題にされるところを筆者は見たことがない。

 しかし、XMLはそれとは異なる。XMLでは、属性は順番が存在しないものとして扱われるが、要素は順番が存在するものとして扱われる。そのため、要素の並び順が重要な意味を持つ用途が存在する。例えば、セールスマンが訪問する巡回経路を記述した以下のようなXML文書があったとする。

<巡回経路>
  <訪問先>A社</訪問先>
  <訪問先>B社</訪問先>
  <訪問先>C社</訪問先>
</巡回経路>

 このXML文書では、訪問先としてA社、B社、C社があったという情報のほかに、要素の順番を用いて、B社の前にはA社へ、B社の後にはC社に行ったという事実も表現できる。このような事実は情報というよりも「文脈=コンテキスト」といった方がしっくりくる。なぜなら、どこにも1番目はどの会社、という具体的な記述が存在しないためである。ここでは、具体的に記述されているものを情報、情報と情報の関係から見いだせるものを「文脈=コンテキスト」としてみよう。

 さて、ここで特定の条件を満たす要素だけを抽出してみよう。A社とC社の情報だけが抽出されたとすると以下のような結果が得られるかもしれない。

<訪問先>A社</訪問先>
<訪問先>C社</訪問先>

 この結果には、情報は残っているが、「文脈=コンテキスト」は残っていない。もはや、A社の後に行った会社がどこか、それを知るための手掛かりは残っていない。つまり最初のXML文書にあった訪問順に関する事実の表記は残っていない。これはRDBMSでは問題なく使われている操作に相当するものを行ったと想定しているが、XMLで同じような操作を行うと問題が発生するケースがあり得るわけである。それは、XMLが「文脈=コンテキスト」を強く意識することができる言語だからである、といってもよいと思う。(次ページへ続く)

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 Index
やさしく読む「XML 1.0勧告」 第29回
実体を参照する文脈=コンテキスト
  Page 1
・XMLプロセッサによる実体および参照の扱い
・文脈別に見る実体と参照
Page 2
・余談:文脈の重要性とXML
  Page 3
・文脈の種類


連載 やさしく読む「XML 1.0勧告」


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