第1部
BtoBを支える「ビジネスプロトコル」の全貌
新野淳一
@IT編集局
2002/1/29
XMLの登場によってデータ表現の柔軟性が高まった結果、企業間取引(BtoB)の分野が大きく盛り上がったのは昨年、2001年のことだ。このBtoBに使われて注目されている技術が、XMLをベースに策定された「ビジネスプロトコル」である。
■ビジネスプロトコルは複数レイヤを包括する
ビジネスプロトコルとは、一般にBtoBを実行する際に用いられるメッセージングと通信プロトコルなどの総称だ。EDIの中でもビジネスプロトコルという名前が使われるため、広い意味で、BtoBを成り立たせるための技術的な通信規則全般が、ビジネスプロトコルだといってもよいだろう。
ビジネスプロトコルとは 企業間で取り引きを行うためのプロトコルの総称が「ビジネスプロトコル」だ。ビジネスプロトコルは、TCP/IPをベースに、HTTPを使うのか、SSLを使うのか、といったトランスポート層の規定から、やりとりするXML文書の形式や電子署名の方式といったアプリケーション層まで、複数のレイヤを包括している |
ビジネスプロトコルが、通常のプロトコル、例えばTCP/IPやHTTPと異なるのは、複数のレイヤを包括しているところだろう。例えば、ビジネスプロトコルの例としてRosettaNetを例にすると、TCP/IPを土台にして、トランスポートレイヤ(HTTPやSMTP、SSLなど)、データ構造(S/MIMEなど)、そしてデータ表現(XML文書)などがひとまとめに定義されている。
つまり、ビジネスプロトコルを技術的にみると、複数のレイヤにまたがって定義されたものの集合体である。そして現在では、XMLをベースに策定されたさまざまなビジネスプロトコルが存在する。
ビジネスプロトコルは、細かいものを含めれば世の中に何十種類もあると思われるが、理想的には、あらゆるBtoBに対応した完璧なビジネスプロトコルが1種類だけあればよい。BtoBを実現するために何種類ものビジネスプロトコルに対応しなければならないのであればコストもかかるし、相互乗り入れするには変換などもしなければならず、不便だ。
しかし現実にはそのような理想的で完璧なビジネスプロトコルは存在していないため、いくつかの標準が併存している。その中で主なものを挙げてみると、下記の4種類になる(右欄は、その規格を推進する団体や企業)。
RosettaNet | RosettaNet |
ebXML | ebXMLイニシアチブ |
xCBL(XML Common Business Library) | コマースワン |
cXML(Commerce XML) | アリバ |
一方で、この4種類以外の新しいBtoB標準を作り出そうとする動きも当然ながら存在する。例えば、サン・マイクロシステムズのJon Bosak氏は業界団体OASISを舞台に、すべてのBtoBを包括する言語「UBL」(Universal Business Language)を制定しようとしている。また、BtoBの相手を探す仕組みであるUDDIや、XMLによるRPC(リモート・プロシジャ・コール)を実現するSOAPなど、Webサービス技術の存在もビジネスプロトコルに大きな影響を与えてきており、無視することができない。
■なぜビジネスプロトコルが必要なのか?
ビジネスプロトコルは、なぜ必要なのだろうか。最大の理由は柔軟性な企業システム構築のためだ。
最も安易に企業間をつないで取引する方法は、「同じシステムを入れる」ことだ。例えば、2つの企業にOracleを導入し、テーブル構造を合わせておけば、レプリケーションなどを使って簡単にデータの交換が実現できる。そして、データベース間で受発注の情報などをやりとりすればいい。Oracleでなくとも、ノーツ/ドミノでも、SAP/R3でも構わない。もしくは、受発注の関係にある企業ならば、受注側にサーバを入れ、発注側にクライアントを導入してもよいだろう。旅行代理店に入っている航空券や鉄道のチケット販売などは、専用の端末を利用してサーバに発注して発券するようになっており、これに似た例かもしれない。
しかし、すぐ考えれば分かることだが、取引にかかわるすべての会社が同じソフトウェアや同じデータ構造を採用しなければならないのではシステムの柔軟性があまりに乏しく、規模や業種に応じて発展させてきた企業システムとの接続は容易ではないし、仮にこの方法でA社との取引をうまく構築したとしても、B社との取り引きには別のソフトウェアが必要となり、C社との取り引きでは別のデータ構造を用意し……と、現実にN対NのBtoBへと発展させていくことは難しい。
そこで登場するのがビジネスプロトコルだ。BtoBのためにやりとりするプロトコルを決めておき、BtoBに参加する企業は、ビジネスプロトコルを自社システム向けに変換して処理する仕組み(ゲートウェイ)を持つ。これにより、企業内のシステムには影響を与えずにBtoBの仕組みが構築可能で、しかも複数の企業とのBtoBも実現できる(もちろん、効率的なBtoBの実現には、社内システムの統合や改善なども必要となるだろう)。さらにさまざまなベンダが、ビジネスプロトコルに対応した製品を提供してくれることで、より質の高くて安価なBtoB環境の構築も促進されるだろう。
そして、XMLは柔軟な表現が可能で、しかもXSLTによる情報の変換機能を備えているため、まさにビジネスプロトコルのデータを記述する言語としてうってつけなのだ。
ビジネスプロトコルと社内システム ビジネスプロトコルと社内システムをゲートウェイで結ぶことで、社内システムに極力影響を与えずにBtoBを実現することができる。このゲートウェイは、ソフトウェアベンダが「BtoBサーバ」として提供してくれる |
■ビジネスプロトコルの大統一に向けて
少し前にも述べたが、ビジネスプロトコルの理想は、わずか1種類で世界中のあらゆるビジネスをサポートできるのが理想的だ。しかし現在では、自動車や半導体、航空機など、結びつきの強いところからビジネスプロトコルを制定したりマーケットプレイスを構築し始めることが多い。これは自然な流れではあるが、例えば航空機をつくるにせよ自動車を作るにせよ、製鉄会社、ゴム製造会社、ガラス製造会社など、業種を越えてさまざまな企業と取引をしなければならず、そのためには自動車業界や航空業界内で決めたビジネスプロトコルだけでなく、業種や業界を越えて相互運用性のあるビジネスプロトコルが存在することが望まれる。
つまり、ビジネスプロトコルの統一は、自然なニーズである。そして現状でも、それぞれのビジネスプロトコルは徐々に相互運用性を高める方向へ動きを見せている。まだまだビジネスプロトコルは変化していくはずだ。
本記事の目的は、主要なビジネスプロトコルとその周辺技術、そしてUBLなどの最新動向を通して、こうしたビジネスプロトコルの現在と将来を見通していくことにある。
次項からは、主要なビジネスプロトコルについて具体的な解説を始めよう。
第2部〜ターゲットを絞ることで成功したRosettaNet |
Index | |
XMLビジネスプロトコル | |
第1部〜BtoBを支える「ビジネスプロトコル」の全貌 ・ビジネスプロトコルは複数レイヤを包括する ・なぜビジネスプロトコルが必要なのか? ・ビジネスプロトコルの大統一に向けて |
|
第2部〜ターゲットを絞ることで成功したRosettaNet ・IT業界のBtoBに、関連業界が参加して発展 ・PIPsで文書構造とワークフローを定義 ・さらに領域を広げるRosettaNet |
|
第3部〜BtoBの理想を目指したebXML ・ebXMLのアーキテクチャ ・CPP/CPAをパートナーとやりとりする ・ebXMLで仕様として決まったこと、決まらなかったこと |
|
第4部〜eマーケットプレイスの標準言語xCBL ・xCBLはeマーケットプレイスベンダによって作成された ・xCBLのアーキテクチャ ・xCBLとeマーケットプレイスの将来 |
- QAフレームワーク:仕様ガイドラインが勧告に昇格 (2005/10/21)
データベースの急速なXML対応に後押しされてか、9月に入って「XQuery」や「XPath」に関係したドラフトが一気に11本も更新された - XML勧告を記述するXMLspecとは何か (2005/10/12)
「XML 1.0勧告」はXMLspec DTDで記述され、XSLTによって生成されている。これはXMLが本当に役立っている具体的な証である - 文字符号化方式にまつわるジレンマ (2005/9/13)
文字符号化方式(UTF-8、シフトJISなど)を自動検出するには、ニワトリと卵の関係にあるジレンマを解消する仕組みが必要となる - XMLキー管理仕様(XKMS 2.0)が勧告に昇格 (2005/8/16)
セキュリティ関連のXML仕様に進展あり。また、日本発の新しいXMLソフトウェアアーキテクチャ「xfy technology」の詳細も紹介する
|
|