日本でのWebサービス活用の実態は?
国内でのWebサービスの利用は
どれだけ進んでいるか?
Webサービスをビジネスで活用するための取り組みが進んでいる。国内の事例資料はそれほど多くないが、筆者が独自にまとめた資料を基に、国内でのWebサービス利用の傾向を分析した。(編集局) |
武用佳哲
XMLコンソーシアム Webサービス推進委員会 委員
日本アイ・ビー・エム株式会社
2002/11/7
■Webサービス化を推進するXMLコンソーシアム
前回の「Webサービスのビジネス活用と相互運用性への取り組み」では、岡部氏に米国でのWebサービス動向を解説していただいた。今回は岡部氏が委員長を務めるXMLコンソーシアム Webサービス推進委員会の活動を紹介し、併せて国内のWebサービス適用事例を概観してみよう。
XMLコンソーシアムでは、国内におけるWebサービスの推進と啓もうを目指して、2001年11月にWebサービス推進委員会を設置した。そしてその下に、技術小委員会とマーケティング小委員会という2つの委員会を設置し、具体的な活動をしている。
技術小委員会では、前回の記事で紹介されたようなWebサービスのインターオペラビリティ検証活動や、技術ガイドを作成している。
- Webサービス技術解説
SOAP、UDDI、ebXMLなど、Webサービスに関連する技術解説文書のアーカイブ - Webサービス開発ガイド
BEA WebLogic、IBM WebSphere、WebOTXなど、各社プラットフォーム上での実装の解説
一方、マーケット小委員会では4つのグループに分かれて、Webサービスの推進啓もう活動を行っている。
- ベストプラクティス・グループ
Webサービスの活用事例を収集しベストプラクティスとして広く公開する - 他団体との連携グループ
OASISやECOMなどの標準化団体との連携を模索し、Webサービスの啓もう推進を行う - 業界向けセミナー/イベント・グループ
国内の各業界に対してセミナーやイベントを企画実行し、業界レベルの啓もう推進を行う - 広報
Webサービス普及促進のための広報活動
筆者はこの中でベストプラクティス・グループに参加している。ベストプラクティスグループでは、Webサービスの定義を「SOAP/WSDL/UDDIのいずれかの技術を利用したシステムやサービス」として、Webサービスの適用事例を募集している。募集要項では、適用事例のシステム概要だけでなく実装レベル、効果、動機や背景、苦労した点などの記述を重視している。
本来であればここに応募された適用事例の中から、Webサービスの優れた活用方法をベストプラクティスとしてこの記事で紹介したかったのだが、現時点(2002年10月)ではまだ1件のみの登録である。そこで今回は今後の事例の応募を期待しつつ、雑誌やプレス発表などですでに既知の事例として公開されているものの中から、筆者の独断で集めた事例を基に、国内でのWebサービスがどのように適用されどのような効果があったかを簡単に見てみよう。
■国内でもWebサービスの活用は始まっている?
国内のビジネスや業務で、Webサービスをどのように活用しようとしているのかを見るために筆者が資料から集めた事例は全部で17件あるが、これを「Webサービスプロバイダー」「Webサービスリクエスター」「社内事例」の3つに分類してみた(表1〜3)。3つの割合は、当然のことながら、Webサービスとして提供する機能やサービスを構築するという意味で、Webサービスプロバイダー(サービス提供者)としての適用事例の方が、Webサービスリクエスター(サービス利用者)の適用事例より多くなっている。
Webサービスプロバイダー主体の適用事例と、Webサービスのリクエスター主体の適用事例の違い。 プロバイダー主体では、サービスそのものがWebサービスによって提供されることが多いが、リクエスター主体では、リクエスターがWebサービスで受け取ったものを、Webサーバなど他の手段で利用者に提供することがある |
下記の表1は、Webサービスプロバイダの事例である。Webサービスを利用して第三者にサービスを提供するもので、KDDIの決済代行サービス、イーストの辞書サービスなどが代表的だ。
企業/団体名 <システム名> |
稼働時期 | 概要 | Webサービスプロバイダー | Webサービスリクエスター |
KDDI <PayCounter> |
2001/09 | 既存のECサイト向け決済代行サービス「PayCounter」で、Webサービスのインターフェイスを追加提供 | PayCounter | 顧客企業のECサイトシステム |
山九 <社内物流管理システム> |
2001/10 | 自社物流管理システムと顧客企業基幹システムをSOAPで接続し、在庫情報をリアルタイムで送る機能と出荷指示を受ける機能を提供(プロトタイプ) | 社内物流管理システム | 顧客企業の基幹システム |
イースト <辞書Webサービス> |
2002/02 | 検索サイト向けに辞書検索機能をWebサービス化 | 辞書Webサービス | 検索サイト(一般利用者) |
東急観光 <TABI-Link> |
2002/03 | ASPサービス「TABI-Link」で、出張時のチケット手配などをWebサービスとして顧客企業に提供 | TABI-Link | 顧客企業 |
オリックス <ORIX ECサービス> |
2002/04(発表) | 会員制インターネット決済サービス「ORIX ECサービス」で、与信機能をWebサービス化 | ORIX ECサービス | 間接材販売ECサイトのシステム |
稲畑産業 <i-BiG> |
2002/05 | SCMシステム「i-BiG」で、在庫情報提供をWebサービス化。顧客企業は、リクエスターとしてPCクライントからExcelを使用して在庫情報を取得。これまでバッチ処理で入手していた情報をリアルタイムで入手できるようになった | i-BiG | 顧客企業のシステム |
リスクモンスター <RM2 Navi System Webサービス版> |
2002/05 | 既存の会員制インターネット審査/与信管理サービス「RM2 Navi System」で、与信機能をWebサービス化。従来CSV形式ファイルで提供していた取引先与信情報を、Webサービスで会員企業システムにシームレスに連携しリアルタイムで提供 | RM2 Navi System Webサービス版 | 顧客企業のシステム |
郵船航空サービス <倉庫業在庫管理のプロトタイプシステム> |
2002/05 |
物流業務における倉庫業者の出荷指示をWebサービス化。顧客企業である荷主側の注文受付Webアプリケーションが出荷指示Webサービスを呼び出し、在庫確認から出荷指示までの一連の作業を自動化した | 倉庫業在庫管理プロトタイプシステム |
顧客企業のシステム |
日立ソフト <@Buy24> |
2002/07 | オンラインショップサイト「@Buy24」の商品検索機能をWebサービスで提供、リクエスターはPCクライアント | @Buy24 | 一般消費者(PCクライアント) |
セールスフォース・ドットコム <salesforce.com> |
2002/09 | 既存のASPサービス「salesforce.com」の一部機能(契約データ取得など)をWebサービス化。 顧客企業のシステムがこのサービスで扱う契約データを、自社の販売管理システムなどに直接取り込むことが可能となった | salesforce.com | 顧客企業のシステム |
コダック <オンライン写真サービス> |
2002/09 | 写真画像ファイルのプリントを受注するサービスをWebサービス化 無償配布のプリント注文用クライアントソフトが、UDDIから利用できるプリントサービスを検索し注文する | オンライン写真サービス | 一般消費者(PCクライアント) |
表1 Webサービスプロバイダー適用事例 |
Webサービスプロバイダー適用事例では、ASPサービスやショッピングサイトなど、すでにインターネット上で何らかのサービスを顧客に提供している企業が、サービスやシステムの一部の機能をWebサービス化している例が多い。例えば、KDDIの決済代行機能、オリックスやリスクモンスターの与信機能などはそれに当たる。これはWebサービスのような新しいテクノロジを採用するうえで、開発コストとシステムやビジネスへの影響範囲を最小限に抑えながら、適用効果を見る方法として当然のことといえる。
このケースでのWebサービスの効果として、Webサービスリクエスターである顧客企業や一般消費者に対して、システム連携による自動化や入力業務の削減など、サービス品質の向上とTCO削減がなされ、その波及効果として新規顧客の獲得にもつながる、といったことが挙げられる。とりわけ、東急観光のチケット手配、郵船航空サービスの在庫確認から出荷指示までの一連の作業の自動化などが顕著な例だといえるだろう。
同時に、既存システムにWebサービス対応を組み込んでいく(ビルドイン)という方法であるため、既存資産を有効に活用できるという点も見逃せない。しかし、Webサービスが目指すビジネスプロセスの統合というところまでは、粒度の定義にもよるがまだ到達していないようだ。
■Webサービスリクエスターの普及はこれから
Webサービスプロバイダとは逆に、Webサービスリクエスター事例は、4件とまだそれほど数が多くない。他社のWebサービスを利用してエンドユーザーにサービスを提供する、というものだけに、まずWebサービスプロバイダの充実が必要だからだろう。
企業/団体名 <システム名> |
稼働時期 | 概要 | Webサービスプロバイダー | Webサービスリクエスター |
アイ・ティ・フロンティア(ITF) <プロジェクト・スキル情報提供> |
2001/12 | Webサービス実証実験として、ビジネスパートナー(BP)のプロジェクト情報、スキル情報を顧客企業のユーザーに提供する検索サイトを構築。 UDDIにBPを登録、ITFの検索サイト経由でBPシステムから必要情報を取得 | ビジネスパートナー | 顧客企業向けITFスキル検索サイト |
JR東日本情報システム <アポバーン(Apobahn)> |
2002/03 | 調剤薬局向けASPサービス「Apobahn」で、研究機関(東京薬科大学)のサーバから調剤薬局向けデータをWebサービスで提供 | 研究機関 | Apobahn(調剤薬局向けASPサービス) |
富士通/NTT情報流通プラットフォーム研究所/ミュージカル・プラン <新人音楽アーティストのファン向けWebサイト> |
2002/07 | 新人音楽アーティストの会員制Webサイトで、ファン会員に外部のWebサービス対応サイトから楽譜などの情報を取得し提供 | ECサイト | 新人音楽アーティストのファン向けWebサイト |
リコーテクノシステムズ(RTS) <TIPS> |
2002/08 | 社員向け研修コース検索サイト「TIPS」で、社内研修部門や社外研修企業から研修情報をWebサービスで提供。 UDDIに研修提供部門や企業を登録。社外研修企業は豆蔵、LSJ、タスカが対応 | 社内研修部門 社外研修企業 |
TIPS(社員向け研修情報検索サイト) |
表2 Webサービスリクエスター適用事例 |
Webサービスリクエスター適用事例では、Webサービスリクエスターのサイトを利用するエンドユーザーが必ず存在する点が特徴的だ。いわゆる電子商取引におけるBtoBtoCの真ん中のBに、Webサービスを適用していることになる。Webサービスプロバイダー適用事例では、BtoBあるいはBtoBtoBのケースもあり、必ずしもWebサービスリクエスターを利用するエンドユーザー向けのサービスを主体としたものだけではなかった。ただしこれは事例数が少ないので、必ずしも一般論ではないことを付け加えておこう。
このケースの効果としては、Webサービスによって、Webサービスプロバイダーの持つ情報やサービスをリアルタイムにエンドユーザーに提供できるため、情報の鮮度は格段に向上する。また、Webサービスリクエスター側での格納用DBなどでは情報の管理が不要となり、運用コストもこれまでの情報発信サイトより低く抑えることが可能となる、などがいえる。
■社内での利用は多くあるはずだが……
最後は、社内システムの一部としてWebサービスを利用している例を集めてみた。ここには2件だけを挙げたが、実際にはこうした社内での利用事例は公開されていないだけで数多くあると思われる。
企業/団体名 <システム名> |
稼働時期 | 概要 | Webサービスプロバイダー | Webサービスリクエスター |
ニッセイ情報テクノロジー<社内システム開発> | 2002/07 | 独自Javaアプリケーション開発用フレームワークにWebサービス機能を追加し、既存業務ロジックの再利用を図る | 社内既存システム | 今後の社内システム開発 |
クボタ<Person.NET> | 2002/10 | 新人事システム「Person.NET」で、市販ソフト「駅すぱあと」をWebサービス化した交通費検索システムを利用 | 交通費検索システム | 社内システム(Person.NET) |
表3 社内システム適用事例 |
社内システム適用事例は、既存システムや市販ソフトの一部機能をソフトウェア部品として有効活用し、開発コスト削減を目指している。
■UDDIの利用はこれからか?
上記の事例の中でUDDIを利用したものを探すと、コダック、アイ・ティ・フロンティア(ITF)とリコーテクノシステムズ(RTS)の3件である。
UDDIの目的は、インターネット環境でリアルタイムにWebサービスプロバイダーを検索するためのものであるため、サービス提供者がはっきりしているWebサービスプロバイダー適用事例ではなく、ITFやRTSのWebサービスリクエスター適用事例で利用されているのは当然のことといえる。これらが増えてくれば、UDDIの利用も増えてくるのではないだろうか。
表には入れていないが、2002年10月からはNTTコミュニケーションが「パブリックUDDIビジネスレジストリ(UBR)」の運営を開始した。アジア地域初のUDDIの運用開始で、今後の展開に期待したいところだ。
■Webサービス適用要件と効果
さて、かなり強引だが少ない事例からWebサービス適用要件と効果をまとめてみよう。
まず、Webサービス化する際の適用要件として下記のものが挙げられる。
- インターネット環境での情報提供や機能提供を行いたい
- 異種プラットフォーム、異種ミドルウェア間での連携が必要である
- 複数システム、複数アプリケーション間での連携が必要である
- 既存システムを有効活用したい
- コンポーネント化によるビルドインが可能である
- 短期間で開発して適用効果を調べたい
- 段階的サービスインが可能である
短期間で開発する、という要件に関しては、今回集めた事例のほとんどが2〜3カ月で開発をしているようであり、その期待に応えられているようだ。
一方、Webサービス化の主な効果は2つある。
1つ目は、Webサービス化することにより、接続が難しかったシステムがつながり、自動化や情報参照のリアルタイム化が実現できることだ。それによって、
- TCOの削減
- サービス品質の向上
などが得られる。2つめの効果は、標準化技術を利用することによって、
- 既存システムの有効活用
- 開発コストの削減
などを挙げることができる。よくいわれるビジネスチャンスの拡大とは、こうしたことから導き出されることになるのだろう。
以上で、筆者が独断で集めた事例の概観を終わる。こうした事例が多くの人に公開され、一覧できるようになれば、もっと多くのWebサービスの活用の方法が生み出されるかもしれまない。ぜひ、事例の登録をお願いたしたい(事例募集案内)。
■事例リストの作成に当たり参照した資料
1から3まではWebサイト、4から8までは書籍もしくは雑誌である。
- 日経プレスリリース
- XMLコンソーシアム
技術解説書「事例から探るWebサービスのビジネスモデル」
- Webサービス同好会のサイト
- 最新 Webサービスがわかる(技術評論社) 2002年5月22日発行
- Webサービス実践ガイド(インプレス)2002年6月26日発行
- Webサービス完全ガイド(日経BP社)2002年6月30日発行
- 日経コンピュータ 2002年9月23日号
- 日経インターネットソリューション 2002年10月号
■XMLコンソーシアム連続コラム(全2回)
・ Webサービスのビジネス活用と 相互運用性への取り組み(岡部惠造氏)・ 国内でのWebサービスの利用はどれだけ進んでいるか?(武用佳哲氏)
XMLコンソーシアムがWebサービスの事例を募集中 |
XMLコンソーシアムでは、Webサービスの普及、推進の一環としてWebサービスの事例を募集しています。Webサービスの開発者や利用者の参考にしてもらうために、お寄せいただいた事例はXMLコンソーシアムのホームページで公開されます。皆さまの事例の応募をお待ちしています。詳しくは、XMLコンソーシアムの事例募集案内のページを参照してください。(XMLコンソーシアム Webサービス推進委員会) |
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