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内部統制の過去・現在・未来(1)

内部統制1年目の総括をしよう

原幹
株式会社クレタ・アソシエイツ
2010/2/16

日本の内部統制報告制度が初年度を終えた。そもそも日本の同制度はどのような内容で、どう運営されてきたのか。今後のIFRS適用にも影響を与える日本の内部統制報告制度の現状の総括と制度の定着、継続的な改善を探る(→記事要約<Page 3>へ)

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制度と実務の乖離(かいり)

 重大な欠陥を表明する企業が散見されたものの、全体的には多くの企業が大きな混乱なく内部統制初年度を通過することができたように見える。一方で、そのために費やされたユーザー側の導入工数は多大なものとなった。

 導入工数が大きくなった原因の最たるものは業務プロセスの「評価範囲」に起因する。「内部統制実施基準」では、販売や購買などの「決算・財務報告プロセス以外の重要な業務プロセス」について、合理的な判断基準による評価範囲の絞り込みを認めている。この点が広く理解されていたとは言い難い面があり、また初年度対応であることから保守的に判断してすべてのプロセスに作業範囲を設定して対応を推進した企業が多く、結果として「全体的には重要でない業務プロセス」についても文書化が行われ、評価のために工数を割かれる結果になってしまった。

 文書化については、業務フロー・業務記述書・リスクコントロールマトリクス(RCM)のいわゆる3点セットを完全な形式で作成することを求めすぎたことで工数を大きくしてしまった側面がある。制度の趣旨からは評価に必要な証拠力を備えていれば必ずしも3点セットである必要はなかったのだが、このあたりの誤解は根深く、最後までいわゆる「3点セット至上主義」にとらわれてしまった企業は多い。

 監査する側においては、外部監査人としても対応初年度であることから、時間的制約および優先度の観点から「決算・財務報告プロセス」を重視し、それ以外のプロセスについては限定的に監査範囲を設定し、場合によっては監査しないというケースも多かったようだ。極度に厳格な対応とならないよう配慮する一方で、保守的かつ厳格に監査を行うこともあるなど、監査の現場によってばらつきがあり、方針は必ずしも統一していないのが実態である。

 とにもかくにも、企業側では多くの準備作業を費やし、監査サイドとの調整にも必要以上に神経質に対処しつつ、内部統制対応初年度は完了した。

 制度の趣旨に照らして、果たして今の状況は適切な対応がとられていると考えるべきだろうか? 次回はこれらの現状を踏まえた今後の方向性について考察する。

筆者プロフィール

原 幹 (はら かん)
株式会社クレタ・アソシエイツ 代表取締役
公認会計士・公認情報システム監査人(CISA)
井上斉藤英和監査法人(現あずさ監査法人)にて会計監査や連結会計業務のコンサルティングに従事。ITコンサルティング会社数社を経て、2007年に会計/ITコンサルティング会社のクレタ・アソシエイツを設立。
「経営に貢献するITとは?」というテーマをそのキャリアの中で一貫して追求し、公認会計士としての専門的知識および会計/IT領域の豊富な経験を生かし、多くの業務改善プロジェクトに従事する。翻訳書およびメディアでの連載実績多数

要約

 日本の内部統制報告制度は2009年3月度の決算で大半の上場企業が最初の年度を終え、1つの踊り場を迎えた。内部統制報告制度の次のステージに向けて、現状の総括と今後の展望を俯瞰(ふかん)する。

 日本の内部統制報告制度の柱は、大きく金融商品取引法(金商法)・会社法・東証による規制の3つに分かれる。ここでは金融商品取引法と会社法について触れる。

 企業の会計不祥事に端を発した内部統制報告制度の整備は、米国で先行して2004年より実施されたサーベインス・オックスリー法(通称SOX法)の適用を機に一気に加速した。日本においても2006年6月に旧証券取引法一部が改正され、金融商品取引法(金商法)が施行されたことで、金融庁を中心に新たな制度の構築が進んだ。

 2007年1月31日に金融庁の企業会計審議会が公開した「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の設定について(意見書)」が、実質的に日本の内部統制報告制度の拠り所として広く認められるようになった。いわゆる「内部統制基準」「内部統制実施基準」の制定である。

 そこでは「財務報告に係る内部統制」すなわち、決算書類を作り上げるプロセスにおける「重要な欠陥」がないかどうかに焦点が当てられた。

 一連の公表資料、および筆者の周囲から入ってくる関係者の情報からみられる全体的な傾向として、内部統制報告制度の趣旨に合致する形で現行業務プロセスの不備をある程度あぶり出すことができたものととらえることができる。

 その中でも特に決算書の不備に直結しやすい「決算・財務報告プロセス」の不備については企業側が積極的に開示する姿勢がみられたこと、またそれ以外の業務プロセスについては時間的・要員的制約から十分な評価に至らなかったことが推察される。

 重大な欠陥を表明する企業が散見されたものの、全体的には多くの企業が大きな混乱なく内部統制初年度を通過することができたように見える。一方で、そのために費やされたユーザー側の導入工数は多大なものとなった。

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