企業価値向上を支援する財務戦略メディア

IFRS財務諸表を読みこなす(1)

「財政状態計算書」「包括利益計算書」って何?

櫻田修一
株式会社ヒューロン コンサルティング グループ
2010/1/20

IFRSで大きく変わる財務諸表の表示。企業の経営者はどのように理解し、活用すればいいのか。第1回はIFRSにおける“2つ”の財務諸表について解説する(→記事要約<Page 3>へ)

1 2 3次のページ

PR

 2009年6月に金融庁が「我が国における国際会計基準の取扱いに関する意見書(中間報告)」を公表した以降、「IFRS襲来」などと銘打った特集記事が経済誌で何度か組まれ、また全国紙でIFRSと日本基準との違いが連載されるなど、IFRSに関するメディア露出、議論が活発化してきている。その中でも「包括利益」と「財務諸表が大きく変わる」という財務諸表の表示の議論は、会計に詳しくない方でも一度は見聞きしたIFRSの象徴的な事柄と思う。

 その「包括利益」であるが、本IFRSフォーラムでもすでに伝えられているとおり、ASBJ(企業会計基準委員会)は日本基準のコンバージェンスとして「包括利益」の表示を導入することを2009年10月29日の第188回企業会計基準委員会で暫定合意した(参考記事)。12月には連結財務諸表規則など関連諸規則の公開草案も公表され、2011年3月期の年度決算からの適用を目指すこととなった(参考記事)。日本の会計がIFRS強制適用に向け、また一歩、前へ踏み出したと思える。

 本稿では2回に渡り、このIFRSにおける財務諸表の表示の概要を解説し、企業の経営者がそれをどのように理解し利用していけばよいか、企業価値指標などの業績評価指標との関連も合わせ考察してみたい。

 現時点でIFRSにおける財務諸表を考える場合、(1)「現行のIFRS財務諸表」と、2008年10月にIASB(国際会計基準審議会)から公表された(2)ディスカッションペーパー(以下DP)「財務諸表の表示に関する予備的見解」 のどちらの話をしているのかに留意する必要がある。このDPはFASB(米国会計基準審議会)とIASB(国際会計基準審議会)の9つのMoU項目、いわゆる“次世代IFRS”であり2011年6月までに最終化される予定である(参考記事)。今回はまずこの両者の財務諸表およびその表示の概要について確認する。

現行のIFRSによる財務諸表の表示と包括利益概念の導入

 財務諸表およびその表示はIAS1号に規定されており、財務諸表は以下から構成される。

  • 財政状態計算書(A statement of financial position:F/P)
  • 包括利益計算書(A statement of comprehensive income:C/I)
  • 株主持分変動計算書(A statement of changes in equity:C/E) 
  • キャッシュフロー計算書(A statement of cash flows:C/F)
  • 重要な会計方針の要約とその他説明情報から構成される注記

 現行のIAS1号は2007年に改訂が公表され2009年1月1日以降の開始年度から、つまり2009年12月末の年度決算から適用ということになる。従前のIFRSとの大きな違いは、貸借対照表という名称が財政状態計算書に変更、損益計算書について包括利益の概念が取り入れられ、包括利益計算書となったことにある。包括利益計算書は、従来の損益計算書で表示されてきた一定期間の企業の「当期利益」と「その他包括利益の当年度の増減額の合計」で構成される「包括利益」を表示する。包括利益は例えば期末時点における公正価値評価(時価評価)により財政状態計算書の株主持分の利益剰余金(利益の累計額)およびその他資本の構成物を増減させるものである。

 この「包括利益」は、米国会計基準では以前から導入されていたが、実は欧州においてもここ数年の議論の結果、導入された新しい概念である。近年のIFRSが米国会計基準の影響を色濃く受けている表れの1つといえよう。日本において早期にIFRSの任意適用を行う企業は、この現行基準でIFRS財務諸表を作成することになる。現行のIFRS財務諸表の表示形式は現在の日本基準における財務諸表とさほど大きく変わるものではない。このため以下、財政状態計算書と包括利益計算書を中心に日本基準との主要な差異見ていきたい(キャッシュフロー計算書についてはIAS7号に別途規定されている)。

財務諸表表示における現行のIFRSと日本基準との主要な差異

 現行のIFRSと日本基準での財務諸表表示の主要な差異は以下のとおりである。

1.全般的な事項

 日本基準の場合、連結財務諸表規則に見られるように財務諸表の表示に関して重要性の数値基準も含め詳細な規定があるが、IFRSにおいては財務諸表本体での必須開示項目は少なく、経営者が個別にその重要性を判断して表示内容を決めなければならない。IFRSの原則主義の考え方によるのである。

2.財政状態計算書

・流動性配列と非流動性配列(固定性配列)
 IAS1号の財政状態計算書のフォーマット例を見ると、非流動(固定)資産・負債から列挙する非流動性配列(固定性配列)法となっている点に目を引かれるが、流動性配列法による表示ができないわけではない。流動性を基にした表示が信頼性があり、より目的適合となる情報を提供することが可能になる場合は、流動性配列法を採用しなければならない。日本基準の場合、流動性配列法しか規定されていない。

・売却目的保有に分類された非流動資産(または処分グループ)の区分表示
  IFRS5号で規定する売却目的保有に分類された非流動資産(または処分グループ)、処分グループに含まれる負債は、それぞれ財政状態計算書で区分表示しなければならない。単なる廃棄予定の資産はこの分類にはならない点に注意しなければならない。売却目的保有の分類されるためには売却の可能性が非常に高い必要があり、活発な売却計画の開始などの複数の要件が示唆されている。

・繰延税金資産・負債の非流動分類
 
繰延税金資産又は繰延税金負債は流動資産・負債しては分類せず、すべて非流動項目とする。

1 2 3次のページ

@IT Sepcial

IFRSフォーラム メールマガジン

RSSフィード

イベントカレンダーランキング

@IT イベントカレンダーへ

利用規約 | プライバシーポリシー | 広告案内 | サイトマップ | お問い合わせ
運営会社 | 採用情報 | IR情報

ITmediaITmedia NewsプロモバITmedia エンタープライズITmedia エグゼクティブTechTargetジャパン
LifeStylePC USERMobileShopping
@IT@IT MONOist@IT自分戦略研究所
Business Media 誠誠 Biz.ID