相次ぐ米IT企業の解雇発表、「これが現実の始まり」
2001/3/13
このところ、米国IT業界では暗い話題が多い。先週末のシスコ・システムズによる7%〜11%程度の正社員のレイ・オフ(解雇)するというニュースは、米国経済の減速をだれもが認めずにはいられない発表だった。数ある新興IT企業の中でも堅調な成長を続けた優等生企業で、投資家からの人気も高い同社は指標的な存在であったからだ。同社の従業員は4万4000人、このうちの3000〜5000名がレイオフ対象となる。さらに、マーケティングなどの諸経費削減といった対策も積極的に取られるという。「米国経済は引き続き減速しており、世界経済にも波及する兆候が見られる。それが今回の決定の理由だ」と同社社長兼CEO、ジョン・チェンバース(John Chambers)氏は述べている。ハイテクのもう一方の雄といわれるインテルも同様の発表をした。同社の場合は5000人のレイ・オフ(全従業員は9万人)に加え、業績の下方修正も明らかにしている。加ノーテル・ネットワークス、ルーセント・テクノロジーズ、3Comなどもレイオフを行うと発表。いずれもネットワーク関連で、2000年、アマゾンなどのドットコム企業の株価が暴落したときも、“インフラ系なので安全・健全”といわれてきた企業たちである。サン・マイクロシステムズやオラクルといった大手企業でも、安泰ではないというのが投資筋の見解のようだ。
既存企業の業績のみならず、ベンチャー企業にも逆風が吹いている。3月9日、久しぶりの大型IPOになるのではと期待の高かったLoudcloud(Netscapeの共同設立者マーク・アンドリーセン(Marc Andreessen)氏が立ち上げたインターネット・インフラ・サービス企業)がNasdaq市場に株式公開した。が、ここでも市場の期待は裏切られ、最高値で初値より4.17%上昇の6ドル1875、終値6ドル1563に終わった。7%強の上昇が模範とされているが、バブル時は200%、300%と文字どおり急騰に沸いた。今回の同社の“失敗”を見てIPOを延期するベンチャーが出てくると思われる。ちなみに、2001年にIPOした企業の数は17社。このペースでは、今四半期は1982年以来最低の数となりそうだ。また、ベンチャー企業に投資するベンチャーキャピタルやインキュベーターも投資意欲が減退しているため、オフィス閉鎖などの規模を縮小する傾向が強い。
だが、このような情勢下でも大学生の間ではドットコム人気は高い。就職サイトを経営する米JOBTRACK.COMが1000人の大学生を対象にアンケートを行った結果、40%の学生が“(リスクがあっても)ドットコム企業で働いてみたい”と答えているという。また、レイオフされた従業員も、いわゆる“失業”とは意味が違うという。「シスコやインテルが解雇するような優秀な人材を欲しがる企業はたくさんある。引く手はあまただ」と関係者は語る。
「これまで非現実的だったのが現実的になり始めたのではないか」と語るのは日本でインキュベーターを経営するアレン・マイナー(Allen Miner)氏。米オラクル出身者だ。企業の収益や売り上げといった側面が軽視され、IT関連という理由だけで市場は高値をつけてきた。それが中味のある企業活動というごく当たり前の結論に落ち着きはじめたということだろう。実際、「Loudcloudは赤字のままIPOした。それ自体がまだバブル期を引きずっている証拠」とマイナー氏は指摘している。すでに“トレンドはバイオ関連に移行した”という投資家もいるが、だからといってITが不必要な産業となるわけではない。安定まではもう少し時間がかかるのだろうか。
(編集局 末岡洋子)
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シスコ・システムズ
LoudCloud
JOBTRACK.COM
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