MS、AOL、サンの認証を巡る競争――勝者はなし?
2001/10/3
Friday、 September 28、 2001、 10:47 AM ET. InternetWeek,
By Mitch Wagner
インターネット用の共通IDシステムの確立を目指して米マイクロソフト、米サン・マイクロシステムズ、およびAOL Time Warnerが三つどもえの戦いを繰り広げている。この戦いでは、明らかな勝者はいくら待っても当分現れないだろう。
米マイクロソフトは今月、同社のPassportと.NET My Servicesの両技術の詳細を明らかにすることになっている。その一方で、Liberty Alliance Projectを支援するサンとそのビジネスパートナー32社の関係者は、今月末までにニーズの概要を描き、開発スケジュールを設定する計画だ。そして3番目のベンダであるAOLは沈黙を守りながらも、「Magic Carpet」というコード名を持つ技術の開発を進めている。
これら3つの技術はいずれも似たようなものだ。消費者が名前、住所、クレジットカードの記録といった識別情報をインターネットサーバに保管すれば、電子商取引(EC)の際に、身元確認サービスの記録に対するアクセス許可をECサイト(業者)に与えるだけでよい。これまでのように、取引のたびにすべての情報をサイトに入力する必要がなくなる。業者にとっては、消費者が買い物をしやすくなるため、買い物の頻度が増えるという魅力がある。これまでワンクリックショッピングは、Amazonのような大手しか実現できなかったが、このようなサービスが整えば、あらゆる業者が提供できるようになる。
これらの身元確認サービスには、PC、PDA、スマートフォン、そしてオフラインビジネスのPOS端末をはじめ、さまざまなデバイスからアクセスすることができ、プライバシーを確保すべく完全に消費者の管理下に置かれる。
マイクロソフトの技術は、1億6500万件のアカウントを誇るPassportが出発点となっており、もっぱら認証のためだけに使われる。ほかのユーザー情報は、現時点でまだ開発中のサービスを使うことで管理される予定だ。Passportとこれらの新サービスはまとめて.NET My Services(旧名Hailstorm)と呼ばれている。米マイクロソフトでは、.NET My Servicesに関する何らかの詳細を、10月22日〜26日まで開催予定のProfessional Developers' Conferenceで公開する予定だ。
米マイクロソフトでは、ほかの企業各社が.NET My Servicesの自社バージョンを運用できるよう、同サービスをライセンス供与する計画だ(「マイクロソフトがPassportを開放、相互運用へ」参照)。同技術はKerberos、SOAP、そしてXMLの各標準を利用して他社製ソフトウェアとの互換性を実現する。
一方、先週発表されたLiberty Alliance Projectには、サン、Bank of America、ゼネラル・モータース(GM)、ノキア、およびリアル・ネットワークスなどが参加している。ほかにも、アメリカン航空、Cingular Wireless、シスコシステムズ、eBay、Fidelity Investments、i2テクノロジーズ、インテュイット、NTTドコモ、RSAセキュリティ、Sabre、Schlumberger、ソニー、スプリント、Travelocity、ユナイテッド航空、およびベリサインがメンバーになっている。
この提携はマイクロソフトとは異なり、ソフトウェアではなく、ベンダ各社の身元確認ソフトウェア間で互換性を確保するためのインターフェイスの設計を進めている。理論上ではLibertyと.NET My Servicesは補完的な関係にあり、.NET My Servicesが他社製ソフトウェアと連動するために利用する一連のインターフェイスをLibertyが定義することになる。ところが、関係各社を見るとそう簡単にはいかないことが分かる。
Giga Information Groupのアナリスト Rob Enderle氏は、「もしサンとマイクロソフトが譲歩して自分たちがやっていることを見れば、そこにかなりの価値があることに気づくだろう。だが、両社ともにそのようには考えておらず、お互いに自分の心臓に刃物が突きつけられているようにしか見えていない」と語る。
Liberty Allianceは、着手したばかりの作業の詳細を明らかにすることを控えている。「大勢の人が集まって、これから何かを作り出す相談をしていくと騒いでいるだけだ」(Enderle氏)
AOL Magic Carpetに関しては、AOLが詳細を明らかにしないため、公表されている情報はさらに少ない。だが観測筋によると、AOL Magic Carpetは、AOLの3000万人の加入者が利用し、AOL上にはないECサイトに、AOL経由でアクセスできるようにすることを意図したもので、目標としていることは.NET My ServicesやLibertyと同じだという。AOLでは、マイクロソフトに対抗してLibertyと組むか、もしくはMagic Carpetにマイクロソフトの技術を利用することもあるか、といったことに関してコメントしていない。広報担当者によると、AOLはこの技術が成熟していく中で評価を進めていくという。
一方のECサイト運営業者は、板挟みの状態だ。主要クレジットカードをすべてサポートしなければならないように、2つもしくは3つの技術をサポートしなければならなくなるだろう。複数のシステムをサポートするコストは、小規模業者にとって厳しいものになる。
eBayとGMによると、両社はLibertyの創立メンバーであるにもかかわらず、3つすべての技術をサポートする予定だという。eBayはPassport認証を使って、今週本番稼働の予定だった。
GMの社内IT事業部門であるGeneral Motors Information Systems and ServicesのCTO Tony Scott氏は、「短期的にはすべてがマーケットプレイスの要素の1つになるが、大企業にとっては市場の大きなセグメントを無視することはできない。うまくいけば、すべてが中間へと向かって徐々に収束していくだろうが、私はそれがLiberty Allianceバージョンになると思う」と語った。
eBayの技術戦略副社長 Chuck Geiger氏も、「私の意見では、これらはいずれも消費者に選択の機会を提供するものだと思うし、われわれはとにかくすべての選択肢を提供し続けたいと考えている」として同意する。
サービスにとって潜在的な問題を提起するのは、セキュリティである。ハッカーが消費者のアカウントに侵入すれば、大規模な個人情報窃盗を働いて金融関連をはじめとする消費者の各種個人情報を盗み出せるからだ。Enderle氏は、1つのアカウントに侵入するだけで満足しないハッカーにとっては、これらのデータを格納するサーバはおいしいターゲットになると見ている。同氏によると、大企業はトークン、スマートカード、およびバイオメトリクスを使って貴重なデータを保護しているが、オンライン認証サービスはシンプルなユーザー名とパスワードの組み合わせによって保護する可能性が高いという。
では、長期的にはこれら3つのうち、どのサービスの勝算が高いのだろうか? Enderle氏によると、Magic Carpetを採用すれば3000万人の加入者を約束すると業者にアプローチできるAOLが優位に立つだろうという。マイクロソフトが自社のユーザーのオンライン活動に与える影響は、この規模には及ばない。
だが、GartnerのアナリストであるNeil Macdonald氏は全く逆の意見だ。プラットフォーム技術と既存のソフトウェアを考慮すると、マイクロソフトが優位であり、AOL Time Warnerは追う立場にあるというのだ。
一方のLibertyに関しては、Enderle氏によると、Libertyは消費者を対象にビジネスを展開する主要技術ベンダからの支持を取り付けていないため、同社がほかの2つに追い付くのにはかなりの時間を要するという。マイクロソフトにこれまで敵対してきたIBMやAOL Time Warnerさえ、Libertyには参加していないのだ。「AOLの不参加は、サン側にとっては大きなダメージ。彼らはマイクロソフトとの競争防止の問題で決まりきった手段を貫いてきた。だがAOLはすでにユーザーを抱えているから、どことも協力する必要がないというわけだ」(Enderle氏)。
Enderle氏によると、AOLは最終的にはマイクロソフトの.NET My Servicesを採用する可能性もあるが、AOLクライアントはWindows上で動作するInternet Explorerを採用しており、AOLがマイクロソフトの独自技術をマイクロソフトに不利な形で採用するのはこれが初めてではないという。「彼らはマイクロソフトの長所をマイクロソフトに不利に利用する方法を熟知している」(Enderle氏)。
[英文記事]
No Early
Winner In Authentication Race Between MS, AOL, Sun
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