「xAppsはネクスト・プラクティス」、SAP開発担当者が語る
2004/2/27
SAPジャパンが2月25日に発表した「SAP クロスアプリケーション」(SAP xApps)は、従来の基幹業務プロセスをまったく新しい視点で整備する「ネクスト・プラクティス」を実現するものだという。SAP本社でxAppsを担当するバイスプレジデント ウド・ワイベル(Udo Waibel)氏に、xAppsの開発の狙いとその技術について聞いた。
――xAppsは、これまでR/3がカバーしてきた基幹業務をまったく異なる視点で動かす新しいアプリケーションですが、これによってR/3は企業システムのインフラの1つに“後退”したような印象を受けました。その点について、SAPとしての今後の戦略を教えてください。
SAP Labs xApps担当バイスプレジデントのウド・ワイベル氏 |
ワイベル氏 R/3は、企業活動のベーシックな部分を支援するベスト・プラクティスであることに変わりはありません。対してxAppsは、企業戦略にかかわる非定型でアドホックな業務プロセスを支援する「ネクスト(次世代)・プラクティス」です。これまでのベスト・プラクティスな活動方法ではなく、まったく新しいプロセスをユーザー企業に提案するアプリケーションだと考えてください。
企業システム全体のアーキテクチャで考えると、R/3やレガシー、カスタムアプリケーションが最下層にあり、これらを人・情報・プロセスの面で統合する基盤製品「SAP NetWeaver」がミドル層にあり、xAppsはさらにそのNetWeaverの機能を使う製品ですから、xAppsから見ると確かにR/3がブラックボックス化されているような感じがします。とはいえ、それはxAppsとNetWeaverとR/3の関係を理解するためのアーキテクチャであり、R/3は今後も当社のコア製品であることに変わりはありません。さらにxAppsが出てきたことで、R/3ソリューションもより広がっていくでしょう。R/3とxApps、双方合わせて次世代の価値を提供していきます。
――これまでタテ割の個別業務については、R/3のベスト・プラクティスという形で提供してきた。今度はxAppsにより、横断的な次世代の業務プロセスの提示へと変わってきたわけですね。xAppsで「ERPの進化形を示した」といえると思いますが、こうした方向性はいつごろから描いていたのでしょうか。
ワイベル氏 いまでこそ「サービス指向アーキテクチャ」(Services Oriented Architecture:SOA)といった言葉が出てきていますが、SAPではSOA戦略を3〜4年前より描いていました。昨年「NetWeaver」を発表したことで、「SAPはパッケージベンダではなく、ミドルウェアにいくのか」との誤解もありましたが、そうではありません。
SAPは1970年代に、メインフレームの業務システムを提供するベンダとして誕生しました。その後クライアント/サーバやWebサイトなど新しいITアーキテクチャが生まれたことで大変化が起こりました。すなわち、「ビジネスにITが不可欠になった」ということです。そしていま、クライアント/サーバが出てきたのと同じレベルの大変革が起こっています。それが「SAP Enterprise Services Architecture」(ESA)と呼んでいるもので、同義語としては先ほどのSOAや「コンポジット・アプリケーション」といういい方もあります。
ESAは、企業内に混在する異種アプリケーションを統合し、ユーザーニーズに従って必要な機能を組み合わせて使うことができるシステム基盤を意味します。NetWeaverはESAを実現するための技術基盤であり、xAppsはユーザーが必要とするであろう新しい業務のプロセスを提供する製品であり、R/3は“ESA対応のERPパッケージ”として今後も進化し続けます。SAPは、これからの企業システムのアーキテクチャとしてESAを標ぼうし、ESAを実現する製品としてR/3、NetWeaver、xAppsを提供するということです。
――次にESAを実現する技術について伺いたいと思います。例えば今回出荷する「SAP xApp Resource and Program Management 2.0」(SAP xRPM)の場合、R/3の会計や人事のほか、プロジェクト管理の「mySAP cProjects」やマイクロソフトの「Microsoft Project」などとも連携できるとのことですが、具体的にどのような技術を使っているのでしょうか。
ワイベル氏 NetWeaverに含まれる「SAP エクスチェンジ・インフラストラクチャ」を使い、XMLベースで連携を実現させています。またMicrosoft ProjectやPrimaveraといった他社製品は、XMLデータを受け渡すインターフェイスやマッピングテーブルを提供しているので、これを利用して連携できます。個々のプロジェクトの詳細についてはこうした個別製品で、会社全体から見たプロジェクト管理や優先順位付けはSAP xRPMを使うことで、いま社内で動いている全プロジェクトを効率的に管理・運営できます。
SAP xRPMはこうした個別製品から必要な機能やデータを取得するわけですが、中には新しいデータ属性を必要としたり、足りない機能が出てくるかもしれません。その場合、xRPMで使うデータや機能を格納するために新しくデータベースを立てることも可能です。例えばxRPMでは「どのプロジェクトに属しているか」という人事データのプロパティが必要になりますが、通常の人事マスタではそこまで管理していません。人事マスタにフィールドを追加することも可能ですし、もしマスタに手を加えたくないのならxRPM側のデータベースにデータを追加し、人事マスタのデータと統合させることも可能です。xAppsが独立したアプリケーションであり、かつESAを実現するものであることがこれで分かると思います。
――今後のxAppsの戦略について教えてください。
ワイベル氏 われわれはxApps Familyと呼んでいますが、新しいアイディアや事業、イノベーションを創出する「イノベーションファミリー」と、法律や規制への遵守を支援「コンプライアンスファミリー」という2つの体系に分かれています。欧米では、イノベーションファミリーからxRPMを出荷し、すでに30社の企業が導入、コンプライアンスファミリーからは貿易業務を司る「SAP Global Trade Services」が出荷されており、100社のユーザー企業がいます。この体系に基づき、順次出荷可能な製品をリリースしていくことと、さらにパートナーとの協業により製品体系を充実させていきたいと考えています。ワールドワイドではアクセンチュアとべリングポイントがそれぞれの得意分野を生かし、xAppsを開発しています。これらは単なるサードパーティ製品というわけではなく、開発に際してはSAPと綿密な打ち合わせを行い、重複している機能がないか、SAPが提唱するオープンなテクノロジに基づいているかを徹底的に検証し、それぞれのパートナーから出荷されますので、ある意味「もう1つのSAP製品」といえるでしょう。こうしたパートナーとの協業も深めていきたいと思っています。
(編集局 岩崎史絵)
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