SAPの新人事ソリューションは人事部の“敵”?
2004/6/3
SAPジャパンは6月2日、「mySAP ERP HCM(Human Capital Management)」を中核とする人事ソリューションの事業強化策を発表した。具体的には以下の3点が戦略の柱となる。
(1)人事ソリューションの最新版mySAP ERP HCMの提供
(2)mySAP ERP HCM拡販のための体制強化
(3)人事ソリューション専用の新ライセンス体系の提供
SAPジャパン代表取締役社長の藤井清孝氏 |
SAPジャパン代表取締役社長の藤井清孝氏によると、「SAPの国内既存ユーザーのうち、人事システムを導入している企業は2割強。これに対し欧米では、既存ユーザーの4割以上が当社の人事システムを利用している」という。この理由として「製品が日本独自の伝統的な人事制度やプロセスに則しておらず、なかなか受け入れられなかった」という背景に加え、「SAPジャパンとしても、これまで人事ソリューションのビジネスが手薄になっていた」(藤井氏)と打ち明ける。
7月5日に出荷されるmySAP ERP HCMは、人事情報を一般従業員や業務部門のマネージャクラスに公開し、経営プランに沿った人事戦略を可能にする製品だ。具体的には、業務部門マネージャが部門スタッフの能力やスキル、評価をポータル画面上で確認し、社内公募や異動申請を行えるようになる「セルフサービス機能」、従業員個々人のスキルアップを支援する「eラーニング機能」を追加。また、役職や部門ごとの人件費・労働時間・退職率・スキルなどを分析し、最適な人事戦略を実現する「アナリティクス機能」も強化している。
SAPジャパン HCMビジネスディベロップメント部長の三村真宗氏 |
国内の人事業務支援システムでは、ワークスアプリケーションズの人事パッケージ「COMPANY」など国産パッケージベンダの評価が高い。これに対しSAPジャパン HCMビジネスディベロップメント部長の三村真宗氏は、「従来の人事システムの多くは、人事部門の定型業務を省力化することに主眼が置かれていた。しかし現在は、日本固有の人事制度の崩壊に加え、ビジネス環境の変化に対応するために、優れた人材を戦略的に配置する人事ソリューションが求められている。これまで“聖域”とされていた人事情報を社内に公開し、各業務部門のキーマンが人事戦略を立てられるよう、人事部門と密に連携を取らなければならない」と説明する。これまで人事部門の中で“守られていた”情報をほかの業務部門に公開し、自律的な人材管理を実現するという考え方だ。
多くの国産人事パッケージは、どちらかというと人事部門の業務支援に主眼が置かれてきたという。「そのためmySAP ERP HCMのデータモデルは、ほかの人事パッケージと違う。ほかのシステムでは従業員の個別プロファイルが中心だが、mySAP ERP HCMでは従業員の個人データや目標データ、業務部門の目標データと別々に管理されており、これらを有機的に連携させるので、より経営視点からの人事戦略が可能となる」(三村氏)。
「こうした人事ソリューションを発表した背景には、従来のタテ割業務支援ではなく、『業務横断的にさまざまな情報やアプリケーションを活用してビジネスの拡大を図りたい』という大きなニーズがある。7月に出荷する新しいmySAP ERPはまさにこの要望を実現するものだ。こうした業務横断ソリューションにおいて、人材情報が果たす役割は大きい」(藤井氏)。
そしてmySAP ERP HCMの出荷に向け、販売体制も強化。具体的には人事ソリューションの社内コンサルタントを50名に増員し、パートナーのコンサルタントと合わせて550名の体制で販売に臨む。また人事ソリューションにフォーカスしたパートナーコンソーシアム「SAP HCMパートナー・コンソーシアム」では、実際に導入企業からのニーズを吸い上げ、海外・国内のSAP開発部隊にフィードバックしていくという。
さらに今回の戦略を受け、6月1日よりmySAP ERP HCMの新ライセンス体系を発効した。SAP製品は、利用部門の人数と導入する機能によりライセンス料が変化するが、今回のライセンス体系では、全従業員がmySAP ERP HCMにアクセスできる「ESS(Employee Self Service)/MSS(Manager Self Service)ライセンス」を新設。アクセスできる機能に一部制限があるものの、1000〜1万名単位で利用するとライセンス料が割引される「ロットプライス制」を導入した。これにより、従業員2000名クラスの企業の場合、導入コストが従来の4分の1で済むそうだ。なお、このライセンス体系は日本独自のもの。以上の施策により、今後3年間で導入企業数を150%拡大を目指すいう。
(編集局 岩崎史絵)
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