R/3の後継製品、結局何が変わったの?

2004/5/21

 SAPジャパンは5月20日、ERPパッケージ「SAP R/3」の後継製品に当たる次世代ERP「mySAP ERP」を発表した。1992年にR/3がリリースされて以来、12年ぶりのバージョンアップになる。本製品の出荷開始は7月5日からとなる。同社は2005年末までに200社以上の受注を目標とする。なお、既存のR/3のメンテナンスは2012年まで継続して行う予定だ。

SAPジャパン マーケティング・ソリューション統括本部長兼バイスプレジデント 玉木一郎氏

 これまで「mySAP ERP」は、統合基盤である「SAP NetWeaver」とR/3を包含するソリューションの名称として使われてきた。今回SAPジャパンが発表したmySAP ERPは、「SAPが提唱するエンタープライズ・サービス・アーキテクチャ(ESA)を実現するコア・アプリケーションとして、従来のR/3の機能やアーキテクチャを刷新したものであり、NetWeaverとのよりシームレスな統合を実現した製品」(SAPジャパン マーケティング・ソリューション統括本部長兼バイスプレジデント 玉木一郎氏)という。具体的には、MVCモデルの3階層アーキテクチャを実現したことに加え、RFID対応などさまざまな機能を追加・強化することで、「従来のR/3が提供していた付加価値をより高める」(玉木氏)とのことだ。

 製品構成で見ると、従来のmySAP ERPが、「SAP Enterpriseエクステンションセット」と「SAP R/3 Enterpriseコア」から成る「SAP R/3 Enterprise」とNetWeaverの融合だったのに対し、今回はERP部分にセルフサービス機能や、SAP SEM:戦略的企業経営などの機能も追加されている(表参照)。

mySAP ERP Edition 2003
mySAP ERP Edition 2004
追加コンポーネント 追加コンポーネント
セルフサービス セルフサービス購買
セルフサービス購買 インターネットセールス
インターネットセールス ……など
SEM:戦略的企業経営 複合アプリケーション(SAP xApps)
……など  
SAP R/3 Enterprise SAP ERP Central Component5.00
・SAP Enterprise エクステンションセット ・セルフサービス
・SAP R/3 Enterpriseコア ・SEM:戦略的企業経営
  ・SAP ECCエクステンションセット
  ・SAP ECCコア
SAP NetWeaver SAP NetWeaver '04

 従来のR/3(ERP部分)に相当する部分は、「SAP ERP Central Component5.00(SAP ECC)」という名称がついているが、「サービス志向のアプリケーションになれば、従来の『ERP』や『R/3』といったソフトウェアの名称に意味はなくなる。そのため『SAP ECC』という名称も一般化するつもりはなく、NetWeaverとシームレスにつながった製品『mySAP ERP』として広めていきたい」(ERPソリューションズ プログラムマネージャー 加藤慶一氏)という。さらにNetWeaverとmySAP ERPのサーバの融合性を高め、従来別々に動かしていたビジネス・インテリジェンス「SAP BW」サーバや、ポータルサーバと統合させることで、システムのTCO削減を実現した。

 ERP登場前までは、各業務アプリケーションがバラバラに動いていたため、情報のタイムラグや二重入力、データ不整合などが発生し、「経営スピードにシステムが追いつかない」という課題があった。これに対しERPは、各業務アプリケーションが共通して使う「統合データベース(大福帳型データベース)」を中心に置き、企業内の全リソースや情報の流れを可視化・一元化することで、リアルタイム性を実現した。また実務オペレーションが効率化されることでコスト削減につながり、ムリ・ムラ・ムダのない“筋肉質”の企業体質を作れるようになった。市場にERPが受け入れられたのは、このためだ。

 続けて玉木氏は「次世代ERPには、コスト削減や効率化追及だけでなく、『売り上げを拡大させて企業成長を促す』というコンセプトがある」と語る。そのために

(1)ビジネス環境に柔軟に対応するアーキテクチャ
(2)従業員の能力を最大化するIT環境
(3)ビジネス状況に現場が即時反応できる仕組み作り

という3つの軸足を掲げ、製品開発に取り組んできた。

 まず(1)の変化対応力については、前述したESAの実現にあたる。ESAとは、SAPが提唱するWebサービス技術をベースとしたシステム・アーキテクチャの名称で、企業内外のIT資産を人(社員や従業員、顧客などを含む)・情報・ビジネスプロセスにのっとって統合するというもの。そのための「基盤」として昨年来から提供しているのがNetWeaverであり、今回発表されたmySAP ERPは「ESAを実現するコア・アプリケーション」という位置付けだ。

 具体的には、ユーザーインターフェイスとアプリケーションロジック、データベース層を完全に分離し、粒度の細かいコンポーネント化を実現することで、ビジネスプロセスの変化により柔軟に対応できる。R/3ではインターフェイス層・ビジネスプロセス層・アプリケーションロジック層・データベース層が密接に結合されていたため、どうしても柔軟なビジネスプロセス実装は望めなかった。今回、サービスコンポーネントの粒度が小さくなったことで、より迅速かつ柔軟にビジネスプロセスを組めるようになった。

 (2)については、業務アプリケーションにAdobe PDFを組み込むことにより、PDFフォームでデータを入力することが可能になった。「あたかも書類に数値を書き込む要領でデータを入力できるので、通常の業務がそのままリアルタイムにシステムに反映される。こうしたインターフェイスの改善により、ユーザビリティが向上し、社員1人1人の生産性も向上する」(SAPジャパン ソリューション本部ディレクター 三村真宗氏)。

 また(3)については、小売業で世界最大手級の独メトロと同社が共同で実証実験を行ってきたRFID対応技術を組み込むことで、製品の流れとデータの流れの一体化を実現。また蓄積された膨大なデータを分析基盤であるBWがスキャニングし、異常値があればポータル上にアラートを表示することで、現場の「気付き」を活性化させる。これにより、業務プロセスはより高速化・高品質化・省力化されるほか、異常値に対するアクションのリードタイムを大幅に短縮できる。こうしたすべてが「企業の売り上げの向上、収益性の増加」につながるという。

 とはいえ、従来のR/3の会計や販売、生産管理といったすべてのモジュールが3階層のWeb化に組み直されたわけではない。またアプリケーションのコアロジックは、従来どおりSAP独自の開発言語ABAPを使って開発されている。ただし画面については完全Web化対応を終えているという。三村氏に確認したところによると、「例えば、これまではポータル上のUI表示に一部不具合があったが、今回のmySAP ERPでよりシームレスな統合が可能になった」とのことだ。機能的に見れば、大きなトピックはRFIDの実現やAdobe PDFの組み込みといった、比較的“地味”なバージョンアップに見える。ただ、これまで同社のイメージであった「1枚岩の大型パッケージ」から、柔軟なコンポーネントベースのアプリケーション群と変化したことで、これまでの導入手法も企業へ与える効果も大きく変わる可能性がある。そうした意味で、新しいmySAP ERPに期待できるところは多いだろう。

(編集局 岩崎史絵)

[関連リンク]
SAPジャパンの発表資料

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