急浮上した「インフラ“ただ乗り論”」に出口はあるか?

2006/3/24

 インターネットサービスプロバイダ(ISP)業界で、インフラ“ただ乗り論”が浮上している。USENが展開する動画配信サービス「GyaO」やIP電話サービス「Skype」のトラフィックが国内のIPネットワーク上で急増し、帯域の確保や設備投資を求められるISP各社が悲鳴を上げているのがきっかけだ。批判はサービスを展開するサービス事業者に向かっているが解決は容易ではない。インターネットイニシアティブの代表取締役社長 鈴木幸一氏も「どうしたらいいんでしょうねー」と困り顔だ。

 動画配信などを行うサービス事業者は多くの場合、自社が直接接続するプロバイダに費用を支払ってトラフィックを運んでもらう。しかし、そのプロバイダからピアリング(相互接続)でIXを経由してトラフィックを受け取る別の通信事業者は、サービス事業者からの費用を受け取っていない。費用を受け取らないまま動画配信の大量のトラフィックを運ばないといけない――これが“ただ乗り”の問題点だ。ISPからはサービス事業者に対して直接接続するプロバイダ以外のインフラコストも負担するよう求める声が出ている。

インターネットイニシアティブの代表取締役社長 鈴木幸一氏

 動画配信サービスやIP電話のトラフィックはISPにとって無視できない影響を与えている。総務省の資料によると、国内ブロードバンド契約者(DSL、FTTH)のトラフィックの総量は、2004年11月の323.6Gbpsから2005年11月には1.5倍近くの468.0Gbpsに急増。IIJの取締役 戦略企画部長 三膳孝通氏はトラフィックの増加について「現実的には大部分はブロードバンドユーザーが占めている」と説明する。

 GyaOの視聴登録者数は3月15日に800万件を突破、IP電話サービスの代表であるSkypeが050番号での電話着信や一般電話からの着信を受ける「SkypeIn」を開始するなど、トラフィック量のさらなる拡大が予測される。三膳氏は「ユーザーの利用が先進的になり、事業者側が利用を想定してサービスを作るのが難しくなってきている」と話す。

 インフラ“ただ乗り論”に火をつけたのはNTTグループだ。1月18日に会見したNTT持ち株会社の代表取締役社長 和田紀夫氏は「映像を中心に大量のコンテンツが流通するようになった場合、ネットワークを拡充するために設備投資していく必要があるが、そこから得られるリターンをどういう形で確保できるのかということも課題」と指摘。Skypeを挙げて、「PtoPの通信手段が、単なる音声やテキストだけでなく、映像も含めて発展しようとしているが、このことも、新しいネットワークへの投資に対するリターンが非常に心配になる要因」として危機感を表明した。

 和田氏は「われわれとしては、それに対応できるネットワークを作り上げていかなければならなくなり、ものすごい投資が必要になる」と述べ、サービス事業者のただ乗りを批判する。

 IIJの鈴木氏は、ただ乗り論を個別アプリケーションの問題ではなく、インターネット全体の問題ととらえている。ブロードバンドが普及し、エンドユーザーが広帯域を使って自由にコンテンツを楽しんだり、発信する時代になった。しかし、「それに対して、誰がどういうコストを負担するのか。決め事はない。低コストで広帯域を実現したいまのインターネット・アーキテクチャの矛盾が、ただ乗り論として出てきたといえる」と語る。「インターネットの根幹のコンセンサスがいかにいい加減だったのかが、ただ乗り論で露呈した」

 ただ乗り論を突き詰めると、トラフィック急増に対応するためのISPや通信事業者の帯域確保や設備投資のコストを誰がどのように負担するのか、という問題になる。鈴木氏は「難しい問題」としながらも「(サービスの)利用者が負担しないといけないかもしれない」と話す。サービス事業者だけがISPのインフラコストを負担し、エンドユーザーの料金には上乗せしない考えもあるが、鈴木氏は「たぶん利用者が負担しないと広告収入のコンテンツビジネスは成り立たないのではないか」と述べ、サービス事業者だけに負担を求めるのは難しいとの考えを示唆した。

 鈴木氏が想定している利用者への課金方法は、現在主流の定額料金をユーザーの利用トラフィックに応じて段階的にする仕組みだ。定額料金を超える利用については従量課金を行うこともあり得る。ユーザーが支払った料金の一部はサービス事業者を通じてISPのインフラ整備費に回される。IIJの三膳氏は「利用アンペアに応じて数段階を設定している電気料金的な考え」と説明する。

 しかし、定額料金の段階化はユーザーの反発が予想される。かといってISPが一斉に導入すると独占禁止法に触れることも考えられる。鈴木氏も「ISPとしてこの問題にすぐに統一見解を出すべきではないと思う」としていて、一斉導入には否定的だ。また新たな課金システムの導入は新規の開発コストがかかり、中小のISPには厳しい。

 鈴木氏は会見で「非常に歯切れが悪い」を連発。エンドユーザーやISP、サービス事業者など関係者が多いために明確な対応策を打ち出せないもどかしさをにじませた。トラフィック急増の問題は、WinnyなどのPtoPアプリケーションが登場したときにも議論されたが、明快な解決策は出なかった。鈴木氏は最後には「どうしたらいいんでしょうねー」とつぶやき、「ぜひ皆さんにも考えてほしい」と結論を示さなかった。

(@IT 垣内郁栄)

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