ICタグ普及のトリガーはヨドバシカメラにあり!?

2006/10/6

 野村総合研究所(NRI)は10月5日、第50回メディアフォーラムを開催し、NRI 情報・通信コンサルティング一部 上級コンサルタント 渡辺秀介氏と同 技術調査部 主任研究員 藤吉栄二氏が日本のICタグ市場の展望などを語った。

NRI 情報・通信コンサルティング一部 上級コンサルタント 渡辺秀介氏
 渡辺氏はICタグの活用方法を、特定の企業が企業内でのみ活用する「クローズドな領域」と、業種やサプライチェーンをまたがる「オープンな領域」の2種類に分類。バーコードのように、さまざまな商品に貼り付けされ、製造元から消費者の手元に至るまでの活用が期待されるオープン領域は、巨大市場としての期待が大きいとした。

 例えば、アパレル業界では、製造者が商品にICタグを貼り付け、物流工程通過時にICタグを読み取り、商品の試着やレジ精算時にまたICタグを読み取るところまでの事例がすでにある。この際、製造者は出荷検品の効率化が、配送センターや店舗では入出荷検品の効率化や在庫管理効率化といったメリットが得られるという。今後はさらに消費者が情報家電などとの連携によってサポートを受けるなど、消費者にもメリットが生まれるような利用形態が期待されているという。

 業界別にICタグの活用状況を見ると、製造業や物流、建設/土木、アパレル、医療などでの活用を中心に実用化が進んでいる。さらに、家電量販店やアパレルなどの一部の業界ではサプライチェーンをまたがる実証実験が進んでいるとした。渡辺氏は、「特に製造業は1990年代から利用が進んでおり、ノウハウが一番たまっていると思われる。しかし、各社ごとのクローズドな利用なのでそのノウハウが出てくることはほとんどないだろう」と説明した。

 このように、現在活用が進んでいる製造や物流、建設、アパレルなどではクローズドな利用が中心であり、あまりオープンな活用が進んでいない。一方で、小売りや流通などはサプライチェーンや業種をまたがるオープンな活用を現在目指している。この点について渡辺氏は、「オープン化が進まない一番の要因は、導入効果が分かりにくい点と、受益者と費用負担者が一致していない点だ。このような点を考慮すると、現在オープンな領域におけるICタグの市場は立ち上がるか、立ち上がらないかの瀬戸際にいるといえるだろう」と分析した。

 また、ICタグ市場の区分を「コンサルティング」「ハードウェア提供」「ソフトウェア構築」「保守・運用」「そのほか情報管理サービス」の5区分に分類。この5区分をさらに製造・金融・大型量販店・運輸・アパレルの5業種に絞った場合の市場規模は、2006年が370億円、2008年が681億円、2010年が1207億円に達すると予測した。そして、バーコードがセブンイレブンの採用によって一気に普及した点を踏まえて、「ICタグ普及のトリガーは、大手の量販店や小売店が握っている。ヨドバシカメラは、取り扱いメーカー30社〜40社に対して、費用メーカー持ちでICタグの導入を要請し、数社がすでに対応しているという。ヨドバシカメラのケースのように費用をメーカーが持つ場合もあるが、半々となるケースもあるだろう。どちらにしても、量販店主導で普及が広がっていくと考えられる。理想をいうと、コストは量販店・小売店が持つべきだ」(渡辺氏)と解説した。

 ヨドバシカメラの事例では、自社の物流センターへの搬入時に梱包単位または個品単位でのICタグ貼り付けを納入業者に依頼。これにより、入荷時の検品作業が効率化し、2日かかっていたのが8時間程度になったという。また、秋田大学では、病棟での患者取り違えを防止する目的でICタグシステムを導入。医師が処方せんを入力すると、そのデータが薬剤部とナースへいき、医薬品を処方。ナースや医者が患者に提供する際に、さらにそのデータが正しいかチェックするため、患者取り違えが発生しなくなったという。渡辺氏によると「ICタグ導入以前は、1カ月に3例〜4例は間違えそうになる事件が起きていたそうなので、効果は大きい」とのこと。

 これらを受けて、ICタグの今後の普及に向けての課題には、「社会的なソリューションを検討する」「ユーザーや消費者とともに費用対効果を議論する」「ICタグ貼り付け対象商品の見直し」「実証実験の中長期的な取り組み」「プライバシーへの配慮」などを挙げた。渡辺氏はこれらの問題について、「どの問題についても特効薬は存在しない。じっくりと議論を重ねることこそが重要だ。貼り付け対象については、日用雑貨すべてに貼り付けるべきではないだろう。まずは、資金力と人材力の豊富な大手業者が、まずは積極的に取り組んでいくことが大事ではないか」とコメントした。

(@IT 大津心)

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