専業かハイブリッドか
エンタープライズSaaSの条件
2006/10/23
個人ユーザーを中心に人気が高まってきたSaaS(Software as a Service)が、業務アプリケーションにも浸透しつつある。2006年はネットスイートやSAPなど先行するセールスフォース・ドットコムを追う形で複数のベンダが参入。シーベルを買収したオラクルも「Siebel CRM On Demand」を10月1日に国内で本格展開させた。日本オラクルインフォメーションシステムズの産業営業本部 本部長 市東慎太郎氏は「今後もSaaSベンダの参入はあるだろうが、いずれもニッチにとどまる。ハイブリッド形式を含めて総合的にサービスを提供できるのはオラクルだけ」と自信を見せる。
Siebel CRM on Demandはサーバ型の「Siebel CRM」をネットワーク経由で利用できるようにしたサービス。約3年前に米国で提供開始した。市東氏によるとシーベルの全ユーザー460万人のうち、Siebel CRM on Demandのユーザーは10%弱。「急激に増えている。成長率ではセールスフォース・ドットコムを上回るだろう」(同氏)。サービス展開を始めた国内でも「引き合いは順調」と手ごたえを感じている。「ユーザー数の当初の目標はクリアしそうだ」(市東氏)。
SaaSベンダには専業と、パッケージソフトウェアを組み合わせることができるハイブリッド型の企業の2つがある。オラクルは後者。本社ではパッケージソフトウェアを導入し、ITの運用管理者や設備が手薄な支社・支店、海外拠点ではSaaSを使う方式を提案している。
ハイブリッド型の提供に加えてオラクルの自信を裏づけするのは、「ユーザー企業はSaaSベンダの信用と信頼を重視する」(日本オラクル アプリケーションマーケティング本部 ディレクター 塚越秀吉氏)との判断だ。「ユーザー企業が自社のITを外出しするのは大きな選択。そのときにキーとなるのは信用と信頼だ。オラクルの信用基盤とシーベルの顧客基盤は大きな武器になるだろう」(同氏)。これがエンタープライズSaaSの条件と塚越氏は語る。
パッケージソフトウェアと異なり、アドオン開発を基本的に行わないSaaSは短期導入が可能。Siebel CRM on Demandのケースでは1カ月程度の導入が多い。また、パッケージソフトウェアでユーザー企業を悩ますアップグレードもベンダ側で行ってしまうので容易。「ユーザーは気づかずに常に最新のバージョンを使うことができる」(市東氏)。
ただ、このSaaSの使いやすさは、SaaSベンダによるロックインと裏腹だ。SaaSでは自社のマスターデータをベンダ側に預け、用意されたビジネスプロセスを利用するなど、ユーザー企業が自らの資産やノウハウを蓄積することが難しい。仮に他社のSaaSやパッケージソフトウェアに移行した場合、資産やノウハウをゼロから築く必要がある。パッケージソフトウェア同士の移行であれば、データやノウハウを移すマイグレーションツールが用意されることもあるが、提供開始されて間もないSaaSでは本格的なマイグレーションツールはまだ存在しない。SaaSはパッケージソフトウェア以上に強力なロックインとなるのではないか。
市東氏は「少ないコストで大規模システムの一部を利用できるのがSaaS。SaaSベンダに依存すればするほど、ユーザー企業はメリットを享受できる」と話す。
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