クリエイティブじゃない?
日本のIT技術者が尊敬されなくなってきた――IPAイベントから
2007/06/28
「きつい、厳しい、帰れない」で新3KともいわれるIT技術者の職場。学生の就職先人気ランキングでもIT企業は低迷している。6月28日に情報処理推進機構が開催したイベント「IPAX 2007」では、IT人材の育成をテーマにパネルが行われた。
「われわれの時代に比べるとIT技術者は尊敬される職種ではなくなった」。NECネクサソリューションズの代表取締役 執行役員社長で、NECで長くSEを務めた渕上岩雄氏はこう語る。時代の最先端技術を担いながらも、新3Kに代表されるよくないイメージが先行するIT技術者。渕上氏は過去の業務と現在の業務の違いを、人気低下の原因に挙げる。
渕上氏がSEを始めた35年ほど前は顧客企業の業務に合わせてITシステムやアプリケーションをほぼ手作りするのが一般的だった。納期2〜3年は当たり前。ユーザー企業と密接にコミュニケーションを取って、システムを作り上げた。いわばテレビ番組「プロジェクトX」の世界が普通にあったのだ。
しかし、オープンシステムが普及したいまは、パッケージソフトウェアを業界標準のサーバに導入してシステムを作るのが一般的。SEがコーディングをしてアプリケーションを1から開発することは稀で、開発するとしても既存のフレームワーク上でパッケージソフトウェアやコンポーネントを組み合わせるパッチワーク的な作業が多い。納期もはるかに短くなり、低コスト開発が求められる。
IT技術者の仕事は、いまはクリエイティブではなくなってしまった――これがIT企業が学生に不人気な理由ではないだろうか。KDDIで情報システム本部長を務め、いまは情報システム総研 代表取締役社長の繁野高仁氏は「作る喜び、使ってもらう喜びがないと技術者には充実感はない」と語った。システム開発を受託する大手システム・インテグレータ(SIer)は、要件定義やシステム設計などの上流工程の業務が中心。実際にコーディングをして手を動かすのは大手SIerの下請けだ。繁野氏は「7次請けというのも聞いたことがある」という。このようなIT業界の“ゼネコン体質”が業界の魅力を半減させている面もある。繁野氏は「IT業界には構造的な問題があり、それを解消しないといけない」と強調した。
キャリアの方向性が見えない
繁野氏が指摘するIT業界の構造的な問題は、ゼネコン体質だけではない。それは人材の流動性の低さ。「技術者志望の若い人に会うと自分のキャリアパスを描けない不安を訴えられる。会社を超えた人材の流動性がないため、1社でキャリアパスを描かざるを得ないためだ」(繁野氏)。「技術が細分化し、その変化が速い」(渕上氏)という状況もあり、「自分のキャリアの方向感を捉えられない」。特に「優秀な人がいる大企業が流動性が乏しい」と繁野氏は指摘する。
技術者が自らのキャリアパスを描けるようにさまざまな取り組みが行われているのも事実だ。IPAは職種や専門分野ごとに必要なITスキルをガイドする「ITスキル標準」「組み込みスキル標準」を開発。ユーザー企業向けの「情報システムユーザーキャリアフレームワーク」も公開している。また、NECのように独自のキャリアマップを作成する企業もある。技術者が活性化するのために「必要なのは動機付け」(渕上氏)として、キャリアを実現するためのフレームワークを設定している。これらのフレームワークが定着すれば技術者が感じる閉塞感も変わるかもしれない。
優秀な技術者が求められない?
現役技術者の育成もIT企業の大きな課題だ。属人的な作業が多いIT業界では人材の質が企業の競争力に直結する。だが、日本の情報サービス企業の教育投資は売上高比で平均0.23%(情報サービス産業協会基本統計調査2006年度版、参考記事)。5%ともいわれるインドの大手情報サービス企業などと比べると圧倒的に低い。繁野氏は「ジェネラリスト指向でプロ人材への評価が低い」「(ユーザー企業のIT部門は)本業とは異なる専門家集団で社内的な地位が低い」などと指摘。さらに、「情報サービス産業の工数ビジネスは生産性が悪い人のほうが売り上げが上がる。優秀な技術者が求められているかというと、どうもそうではない。本当に優秀な技術者を育てるには産業構造から変えないといけない」と語った。
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