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要件定義カードはシステム開発を近代化するか
2007/07/23
先週の@IT NewsInsightのアクセスランキングトップは「要件定義カード1枚8万円──脱・人月商売宣言」だった。1枚8万円の要件定義カードを導入することで、システム開発においてあいまいになりがちだった料金体系をクリアにしようという試みだ。この大胆なシステムを考案したスターロジック代表取締役兼CEOの羽生章洋氏は「人月換算でコストを請求する商習慣こそが、SI業界のさまざまな問題の根源」と喝破。「人月から脱却するには、納得でき、分かりやすい価格体系を提示することだ」とした。
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カードを活用した開発実績を積んだことでカード1枚当たりのコストをかなりの精度で見積もれるようになったという。また、カードで定義された開発に収まらない部分が発生した場合は別途見積もりをしていくという。そうした例外も、発生件数が多くなればメニューに加えていけるかもしれないし、いずれにしてもコストを予測する精度は上がっていくだろう。
こうしたシステム開発の規格化、メニュー化は、SI業界の近代化を意味するのではないだろうか。近代的な資本主義社会の基礎にある自由契約を、不特定多数の人の間で広く行うためには、その前提として交換される物品やサービスについて一定の予測可能性が存在しなければならない。支払う対価に対して、どういうサービスや製品を提供するかを明示しないのでは、本来契約自体が成立しないはずだ。ITは、とかくブラックボックス化しがちだ。
技術や制度が高度に発達した社会では、各種専門家の専門性が高まる。現代日本でも、専門家が扱う内容を、もはや非専門家にきちんと説明するのは不可能だ。だから、専門家とされる業種の人々には、相手の言い分をよく聞き、最善のアドバイスやサービスを提供する責務がある。医者であれ弁護士であれ、あるいはクルマの修理工であれ、SEであれ、それは同じはずだ。
クライアントは一定の決定権を委ねて、専門性が高い職業の人を信任する。信任された側に求められるのは、できる限り分かりやすい明瞭な説明をすることと、顧客の立場に立ってサービス内容を決定・提供することだ。その際、互いに言葉や概念が通じないことがあるとすれば、それは専門家の側に問題がある。
その気になればいくらでもごまかせるサービスにおいて、顧客利益第一という姿勢を貫けるのは、職業的プライドと表裏をなす職業倫理があるからだろう。高い職業倫理は、その職能集団が社会から信頼されるための必須要件だ。果たして、ITの職能集団は社会から十分に信頼されているだろうか。顧客側は漠然と、言い値で買わされているように感じていたり、ブラックボックスだと思っていたりするのではないだろうか。そういう状態で要件定義の打ち合わせをしても、むしろ顧客側は言質を取られるのではないかと、不安を感じるばかりだ。
「ITは専門用語が多くて分からない」と言われる。医学であっても本当のところは専門家である医者以外には分からないが、患者は不平をいうことが比較的少ない(週刊誌に載る医療事故を見ると暗澹(あんたん)たる気分にもなるが、大まかにいえば、ほとんどの医者は信用できるだろう)。長い歴史があるからか、インフォームド・コンセントという考えが浸透したからか分からないが、ともかく医者と患者の間にはほとんどの場合、十分な信頼関係が存在する。
ITの世界、システム開発の世界でも、依頼する側・される側で、互いに納得のいく、よりよい信頼関係が結べるようになるだろうか。そのためのコミュニケーション基盤として、スターロジックが世に問う「カード」という切り札の今後に注目していきたい。
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