Adobe Max 2008 特別セッションレポート

「Flash Lite」の名はなくなり、「AIR Lite」が出現?

2008/12/11

 米アドビシステムズは11月21日(米国時間)、Adobe Max 2008 North America(11月17〜19日)(以下、Max)のツアーに参加した日本人開発者/デザイナに、米サンフランシスコのオフィスで特別セッションを行った。本稿では、FlashやAdobe AIR(以下、AIR)をPC以外の端末でも動かすための取り組み「Open Screen Project」(以下、OSP)に関してレポートする。

「携帯端末にFlash技術が広まったのは日本のおかげ」

米アドビシステムズ モバイル&デバイス部門担当ディレクター アヌープ・ムラーカ(Anup Murarka)氏 米アドビシステムズ モバイル&デバイス部門担当ディレクター アヌープ・ムラーカ(Anup Murarka)氏

「NTTドコモが携帯電話に初めてFlash技術を搭載し成功を収めたのが、たった5年前。そこからFlash技術を搭載した携帯端末は増え続け、2009年3月までには10億台を超えるだろう。日本で携帯端末のFlash技術がどんどん使われるようになってから、世界中に広まるようになった。携帯端末でのFlash技術の成功は、日本企業と携帯端末のFlash技術を使ってくれた日本人ユーザーのおかげだ」

 参加した日本人開発者/デザイナに対しての感謝の言葉からセッションを始めた米アドビシステムズ モバイル&デバイス部門担当ディレクター アヌープ・ムラーカ(Anup Murarka)氏。次に、OSPの基本的な目標について「スクリーンがあるすべての端末で同じユーザーエクスペリエンスを届けること」(ムラーカ氏)と強調した。OSPはFlash PlayerやAIRの実行環境をすべてのスクリーン搭載端末で同じように動かすことを目的に、加盟した団体にはFlash PlayerやAIRの仕様をオープンにして従来のライセンス料は撤廃する試みだ(参考:アドビ システムズがFlashの技術仕様を公開へ)。

 すべてのスクリーン搭載端末の中で、米アドビシステムズがいま重視しているのは携帯端末で、ムラーカ氏は「スクリーン搭載端末の出荷数は今年初めて、モバイル端末がPCを上回った」と付け加えた。

ムラーカ氏が提示した2008年のスクリーン搭載端末の出荷数 ムラーカ氏が提示した2008年のスクリーン搭載端末の出荷数

「“ハイエンドのモバイル”ならもうFlash Player 10は動くだろう」

 ムラーカ氏はFlash技術の携帯電話への取り組みについて、まずFlash LiteとFlash Playerの違いから説明した。2008年12月現在の最新版であるFlash Lite 3で使われているActionScriptのバージョンは2、Flash Player 10で使われているのはActionScript 3となっていて、仕様上ActionScriptは2と3で大きな違いがある。「OSPは、ActionScript 3で作成した実行ファイルを携帯端末でも動かすことを大きな目的としている。それには、携帯端末のパフォーマンスをPC並みに上げ、消費電力を抑えなくてはならない。ハードウェアのアクセラレーションを使う技術、つまりARMプロセッサにActionScript 3を最適化する技術が必要だった」とムラーカ氏は強調した。

 Maxイベント開催期間中の11月17日、英アームはARMプロセッサ搭載製品向けにFlash Player 10とAIRを最適化するために米アドビシステムズと技術協力することを発表した。ARMプロセッサは多くのスマートフォンやセットトップボックス、TVなどに採用されている。最適化される技術は、ARM 11ファミリとCortex−Aシリーズのプロセッサに採用されているARM 6とARM 7のアーキテクチャをターゲットとし、2009年後半に提供予定。ムラーカ氏によると、「ActionScript 3をモバイル向けのプロセッサに最適化する技術として『Tamarin Tracing』が使われている」という。

 Tamarinは、FirefoxのJavaScript(ECMAScript)処理能力を改善するMozilla Foundationのプロジェクト。米アドビシステムズはActionScript用に開発したVM(AVM)のソースコードを寄贈して、ともに開発を進めていて、その成果はFlash Playerにも使われている(参考:大幅に機能を強化するECMAScript)。Tamarin Tracingは、Tamarinプロジェクトの成果の1つだ。

 英アームとの技術協力の成果については、「早くもある結論が出た」とムラーカ氏は語る。「ハイエンドのモバイルならおそらくFlash Player 10が動作するだろう。ここでいう“ハイエンドのモバイル”とは、スマートフォンの中でも“半分より上”の性能を持つ端末のことだ。“半分より下”の性能を持つスマートフォン、いわゆる『フィーチャー・フォン』と呼ばれるものでは、CPUやメモリ、そしてFlash Playerを動かすWebブラウザの性能によっては動作させられるかもしれない」

ムラーカ氏が提示したOSPにおけるFlash Playerの取り組みと携帯端末/TVの分類 ムラーカ氏が提示したOSPにおけるFlash Playerの取り組みと携帯端末/TVの分類

「Flash Lite」の名はなくなり、「AIR Lite」が出現?

 では、OSPの成果によって、PCだけではなく携帯端末でも同じFlash Playerが使われるようになると、いままで携帯端末に使われていたFlash Liteはどうなるのだろうか。

 この疑問についてまずムラーカ氏は、「OSPに属するハードウェア/半導体ベンダとの技術協力が進むとFlash Liteという“名前”はだんだんなくなるかもしれないが、Flash Liteのモバイルに特化した機能は統合されて残ることになるだろう。だが、まだ2009年中に出荷される多くの携帯端末にはFlash Liteの実行環境が搭載される」と答えた。

 また、AIRについてのOSPの成果はどうなっているのだろうか。これについてムラーカ氏は、「もちろん、AIRもPC以外のデバイスで動かしたい。AIR実行環境の搭載についてもActionScript 3が重要な要素だ。AIRはFlash Playerと違いWebブラウザの制限を受けないので、パフォーマンスの低い端末でも動かしやすい。AIRについては機能のサブセットを携帯端末に移植することを考えている。そうすれば、すべての携帯端末で動くだろう」と話した。

 AIRのサブセットとなると、「AIR Lite」という名称になるのだろうか。以下、便宜上AIRの携帯端末向けサブセットを「AIR Lite」と呼ぶことにする。

 Flash Lite以外の携帯端末でのFlash実行環境としては、すでに「Adobe Mobile Client(以下、AMC)」がある。OSPに属する米クアルコムも11月17日に、「BREW MP(BREW モバイル・プラットフォーム)」用にSDKを発表したが、この実行環境にAMCが使われている。BREWはKDDIのau携帯端末で採用されているアプリケーションプラットフォームで、これまでもFlash Liteアプリケーションを動かすことは可能だった。AMCはActionScript 1と2をサポートし、Flash Player 6の機能を持つOEM。Flash Player 8の機能を持つ最新のFlash Liteとは異なるFlash実行環境のようだ。

 では、AMCがAIR Liteということになるのか。Flash Liteとの違いは何なのだろうか。これについてムラーカ氏は、以下のように説明する。「AMCはFlash Liteとは違うものだ。AMCは性能が貧弱な端末でもFlash技術を動かせるもので、Flash Liteは性能がより高い端末のためのものだ。AIR LiteはAMCの機能も取り込むことになり、やがてAMCという名称もなくなるだろう。AIR Liteが出れば、BREWよりも広まるのではないかと考えている」

SilverlightやJavaFXについて

 携帯端末にFlashを展開するうえで競合となる技術について、ムラーカ氏はどのように思っているのだろうか。

 例えば、Silverlightだ。ノキアはSymbian端末でSilverlightを採用すると発表していたり(参考:ノキア、Symbian端末でSilverlightを採用)、Windows Mobileという携帯端末の“OS”を持つマイクロソフトはWindows Mobile上でFlash LiteとSilverlightを採用すると発表している(参考:Window MobileにFlash Lite搭載へ)。さらにマイクロソフトは、Maxの基調講演でFlash Player 10搭載のデモが行われたAndroidへのSilverlightの搭載も交渉中との報もある(参考:Silverlight 2はFlashにどこまで追い付けるか?)。

「Silverlightは確かに競合だ。アプリケーション開発に複数のプログラミング言語をサポートしていたり、面白い技術革新をしている。しかし、携帯端末においてはすでにFlash Liteという実績を持っていて、真にクロスプラットフォームなのはどちらかは明らかだろう。いろいろな選択肢があった方がいいと思うが、開発者やデザイナにとってはプラットフォームは統一されていた方がいいはずだ」(ムラーカ氏)

 また、先ごろ正式版SDK 1.0がリリースされたJavaFXも、携帯端末向けの実行環境「JavaFX Mobile」を使った展開を狙っていて、Androidのエミュレータ上で動かすデモを行っている。Java FX Mobile 1.0の正式リリースは2009年春を予定しているが、OSPと違ってパートナー企業は2008年12月現在まだ出てきていない。しかし、クロスプラットフォームを戦略として狙っている点はOSPと同じだ(参考:ブラウザから飛び出すJavaFXをデモ、サン)。

「JavaFXはJavaの欠点を克服しようとしているのは分かるが、われわれと違ってサン・マイクロシステムズはビジュアルやUIのプラットフォームとしては成功していない。あくまでもターゲットはデザイナではなく開発者だろう。取りあえずビジュアルを1番、コードを2番という考え方をしないと成功は難しいのではないだろうか」(ムラーカ氏)

 ムラーカ氏は、サン・マイクロシステムズが携帯端末においてJava ME(J2ME)という実績があるのは認めているようで、ソニー・エリクソン・モバイル・コミュニケーションが発表した『Project Capuchin』については、「ActionScriptとJavaの橋渡しとして興味を持っている」とのことだった(参考:Java MEとFlash Liteを融合、ソニエリが新技術)。

(@IT編集部 平田 修)

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