[Analysis]
いつアップグレードしますか?
2006/10/23
「SAPは2010年までアップグレードしません宣言」は、業務アプリケーションの今後の動向を占う意味で興味深い。アップグレードはパッケージソフトウェアにとって必須の作業。アップグレードを行わないと宣言するSAPの決断は、ほかの業務アプリケーションにも拡大するのか。
機能を最新にし、バグを修正するアップグレードはパッケージソフトウェアには欠かせない作業だ。しかし、業務アプリケーションは企業の基幹システムとして、ほかのシステムや社内組織、体制などに密接にかかわる。アップグレードの影響は甚大だ。アドオン開発が多い日本のパッケージソフトウェア導入では、システム構造がいびつになりやすく、アップグレードは容易ではない。しかし、アップグレードを行わないままだと、サポート期間が切れてしまう可能性がある。
SAPは現行の「mySAP ERP 2005」を2010年までアップグレードせず、機能追加などは拡張パッケージで対応する。この拡張パッケージはユーザーのニーズによって選択可能。また、SOA技術を生かして、企業の競争力となる自社開発のシステムなどとの連携性も高めるとしている。アップグレードを迫られないユーザー企業はIT戦略のロードマップを立てやすくなる。SAPはmySAP ERP 2005を「長期的な安定したプラットフォーム」と説明し、自社の優位をアピールする。
ただし、このアップグレードしません宣言は競合他社にSAPを攻撃する口実を与えたともいえる。ライバルのオラクルは早速、「計画に遅れ」などと批判。オラクルは買収した多数の業務アプリケーションを統合する「Oracle Fusion Applications」を2008年に提供開始する予定で、アップグレードするメリットの享受をユーザー企業に訴える。また同時に、アップグレードせずに旧バージョンを使い続けるユーザー企業に対しても、サポートを無期限に提供し続けることを約束。ユーザー企業は自らのタイミングでアップグレードすればいいとした。
オラクルの攻撃に対してSAPはSOA技術の先進性を強調し、「2010年まで大規模なアップグレードの必要がない」と反論する。SAPにとってはmySAP ERP 2005はSOAを本格展開するうえで過不足のない、安定バージョンとの認識だ。
ソフトウェア業界を担当するアナリストは「ユーザー企業はアップグレードを強要されることは望まないが、ソフトウェアにはアップグレードしてほしいと考える」と語る。ユーザー企業に大きな影響を与えずに、ソフトウェアをアップグレードさせることができるSaaS(Software as a Service)の業務アプリケーションも浸透しつつあるなど、当然と考えられてきたアップグレードを巡る常識が変わりつつある。
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