WindowsマシンとVMwareで“お試し”できる クラスタリング・システム構築 |
Webシステム全盛期にあって、中小規模のシステムでも無停止運用を求められるようになった。いわゆる「クラスタリング・システム」である。ところが、クラスタ技術を習得するには専用のハードウェア環境を整える必要があり、おいそれとは試せない。そこで今回の“お得情報”は、WindowsマシンとVMware、試用版ソフトウェアを使った追加コスト0円のクラスタリング・システム構築だ。 | |
個人でも試せるクラスタリング環境の構築 | |
インフラ系エンジニアとして上流を目指すなら、クラスタ技術を使いこなすスキルは欠かせない。それがあれば、より重要なプロジェクトに加わる機会が増える。システムインテグレータの人材開発を考えてみても、クラスタ技術者を拡充すれば、安定して付加価値の高いインフラ構築サービスを提供(受注)できる。
そして汎用的なクラスタ技術といえば、Oracleデータベースに付随する「Oracle Real Application Clusters(以下、Oracle RAC)」である。WindowsからLinux、各種の商用UNIXまでのマルチプラットフォームにおいて、高い可用性を求められるシステムの多くがOracleをデータベースとして使っているが、最近では性能向上の著しいIAサーバを使って、WindowsプラットフォームによるOracle RAC構築の案件も増えているという。インフラ系エンジニアならOracle RACを極めておいて決して損はない。
多くの技術要素が盛り込まれたOracle RACを体得するには、それなりの知識習得と実践経験が必要になるが、初心者なら“習うより慣れよ”である。まず、自分でOracle RAC環境を構築して、その仕組みを体感的に理解するのがよいといわれている。
とはいえ、Oracle RACのようなクラスタ技術は、多くのソフトウェア/ハードウェアの協調により成り立つ。Oracle RAC環境を構築するには、複数のサーバ機をノードとして構成し、ストレージ装置、スイッチ、HBA(ホストバスアダプタ)などを取り回してSAN/NASを構成する必要がある。“お試し環境”とて、おいそれとは用意できない。
ところが、特別な機器を用意せず、コストもほとんどかけることなく、個人でさえもOracle RACを試せる方法がいくつかある。この信じられないような“カラクリ”を実現しているポイントは、OracleデータベースのStandard Editionにある。CPU数を最大4ソケットに制限することで低コストのライセンス価格を提供するこのエディションには、何とOracle RAC(SE RAC)が標準で搭載されているのだ。
さらに、日本オラクルが運営する技術支援サイト「Oracle Technology Network Japan(OTN-J)」では、Oracle RAC 10g向けに各種の「お手軽環境設定手順書」を提供しているが、ここでは、VMwareを利用し、1つのホストマシン内でOracle RACの仕組みを仮想的に実現する「VMware編 ASM版 Windows Server 2003 Version」(以降、手順書)に沿って説明していこう。お試し環境としては十分であり、特にOracleデータベース標準のストレージ管理機能「ASM(Automatic Storage Management)」とOracle RAC専用クラスタソフト「Oracle Clusterware」を利用するので、この2つを必ず使用しなければならないOracle Database Standard EditionでのOracle RAC構築を習得するのに向く。
参考情報: Oracle Technology Network(OTN)Japan - オラクル製品の技術情報 Oracle Real Application Clusters 10g設定手順書 VMware編 ASM版 Windows Server 2003 Version(PDF) ASM(Automatic Storage Management) Oracle Clusterware |
普通のPCと無償版・評価版のソフトを用意しよう | |
手順書に沿ってOracle RACお試し環境を構築するためにユーザーが用意するものは、まず、ホストマシンとなるWindows PC。要求スペックとしては、メモリが推奨2G bytes以上(最低1G bytes)、Oracle RAC環境のため必要となるディスク容量は28G bytesという。普段使っているPCを利用できるケースも多いだろう。
さらに、VMwareには仮想サーバ構築ソフトウェア「VMware Server」、ゲストOSとなる「Windows Server 2003(WS2003)」、Windows版のOracle Database 10g、Oracle Clusterwareが必要になるが、VMware Serverはもともと無償提供されており、WS2003、Oracle Database 10g(本体とClusterware)は期間限定のトライアル版が各社のサイトで入手可能である。用意するのはこれだけ。PCさえスペックを満たすなら、コストがまったく発生しないのだ。
参考情報: Oracle Database 10g Release 2(10.2.0)for Microsoft Windows(32-bit)30日トライアル版の入手 VMware Server 1.0評価版の入手 Windows Server 2003 R2, Enterprise Edition 180日限定評価版の入手 |
次にシステム構成を説明しよう。VMware ServerによりホストOSのWindows上で仮想マシンが2つ稼働している(図1のRAC1とRAC2)。2つの仮想マシンは、それぞれWS2003(ゲストOS)とOracleデータベースを搭載するほか、一方の仮想マシンにはOracle Clusterwareも組み込む。VMwareの仮想ネットワークにより、仮想マシン同士およびホストマシンは接続されている状態だ。
図1 VMwareを利用した仮想ネットワークの構成 VMnet1はホストと仮想マシン、仮想マシン同士のInterconnectの通信、VMnet8はGatewayを介して物理ネットワークとつながる。 |
さらに、2つの仮想マシンはPCのディスク上に確保したOracle RAC用ディスクを共有する(図2)。その共有ディスクは、Oracle Clusterwareの構成情報ファイル「Oracle Cluster Registory(OCR)」と死活判断で使うファイル「投票ディスク(Voting)」をマウントしており、残りもローデバイスを「ディスクグループ」という単位で論理的に管理するASMにより、データベース用の「ディスクグループ1(DG1)」、バックアップ格納先の「ディスクグループ2(DG2))」に分けられている。これが仮想的なOracle RAC環境のシステム構成である。
図2 共有ディスクの構成 ここでは、ディスクを2つのディスクグループ(データベース本体とバックアップ格納先)に分けてASMの管理下に置く。そのほか、Oracle ClusterwareのOCRと投票ディスク(Voting)に向け、それぞれ1つのディスクを割り当てる。 |
ウイザード形式で行える設定作業 | |
これでVMwareを利用したOracle RACのシステム構成はイメージできただろう。しかし、実機に必要なソフトウェアをインストールし、さまざまな設定を施していく作業が、どの程度の工数を必要とするか、これだけでは理解できないかもしれない。そこで今回、主な設定作業を紙面上でシミュレートしてみることにした。必要となる作業は、大きく次の5工程となる。
- 事前準備
- 仮想マシンのセットアップ
- ネットワークの設定
- Oracleデータベースのインストール
- リカバリ領域の設定
手順をざっと見渡してみると、1.と2.はVMwareとOS周りの設定であり、通常のシステム管理者なら難なく設定できる内容だ。また、4.と5.はGUI化されたOracleインストーラや構成ツールを使って、手順書の内容を反映させていくだけなので、Oracleに不慣れなエンジニアでもトラブルを起こすことはまずないだろう。3.は若干注意を要するが、手順書に沿ってポイントを抑えれば、問題なく乗り超えられるだろう。
では、5つの手順をもう少し詳しく見ていこう。
1. 事前準備
まず初めに行う作業は、VMwareのセットアップおよび2つの仮想マシン作成だ。これはマニュアルに沿って進めればよく、問題はないだろう。
2. 仮想マシンのセットアップ
2つの仮想マシンを作成したら、まず仮想マシン1にWS2003、VMware ServerのゲストOS仮想化ツール「VMware tools」をインストールし、Oracleデータベース(本体とClusterware)の評価版をダウンロードしておく。
次に仮想マシン2にもWS2003、VMware toolsをインストールする。そしてWS2003のdiskpartコマンドを使用し、共有ディスクにパーティション(論理ドライブ)を作成し、ボリュームの自動マウントを有効にする。
最後に仮想マシン1/2に共有ディスクの設定を完了させる。ここまではWS2003を中心とした設定なので、普段からWindows環境に慣れ親しんでいるエンジニアなら戸惑うことはないだろう。
3. ネットワークの設定
次に仮想マシン1/2のネットワーク設定を変更する。ネットワーク接続一覧に存在する2つのローカルエリア接続には、現在デフォルトの名称(ローカルエリア接続、ローカルエリア接続 2)が付けられているが、この名称を次のように変更する。
- 物理ネットワークにつながる仮想ネットワーク:PublicLAN
- ホストと仮想マシン、仮想マシン同士を結ぶ仮想ネットワーク:Interconnect
WS2003の「ネットワーク接続」設定でIPアドレスを自動割り当てから固定に変更するなど所定の設定も施す。特にはまりやすいポイントは、ネットワークアドレスのバインド順をPublicLANが優先(上に来るように)されるように変更すること(図3)。手順書をよく読んで慎重に進めよう。
図3 ネットワークアドレスのバインド順を設定する |
4. Oracleデータベースのインストール
いよいよOracleデータベースのインストールと設定が始まる。といっても、これ以降はOracle Universal Installer(OUI)と呼ばれるインストーラのGUI画面に沿って設定していくだけだ。「Oracle=UNIX的なコマンドライン」という先入観を持っている人は、かなり拍子抜けするだろう。
手順としては、まず仮想マシン1にOracle Clusterwareをインストールし(図4)、続いてOracleデータベースをインストールする。Oracleデータベースは1回の操作でOracle RACの配下に置かれるすべてのマシンにインストールされる。終了すると、データベースが構築されてOracle RACを構成する2つのインスタンスが起動する。Oracle RAC環境ができるあがるわけだ。
図4 Oracle Clusterwareのセットアップ画面 OCRと投票ディスクのパーティション割り当てを行っている。分かりやすいウイザード形式でセットアップ作業を進められる。 |
もしOracleデータベースのインストールでつまずいたら、OTN-Jの掲示板で質問してみるのもいいだろう。
参考情報: Oracle Technology Network会議室:インストール |
5. リカバリ領域の設定
最後の仕上げは、GUI管理ツールのOracle Database Configuration Assistant(DBCA)でリカバリ領域用にディスクグループを作成することだ。これもウイザードに沿って進めれば問題ない(図5)。
図5 DBCAでフラッシュ・リカバリ領域用ディスクグループの設定 |
将来は“RACエキスパート”を目指す | |
以上、VMwareを利用したOracle RAC環境の構築手順を簡単に見てきた。Oracle RACと聞いて特別な世界と思っていたなら、案外容易なので驚くだろう。
ただ、手順書はあくまでもセットアップ方法を解説したもの。これをどう活用し、何を学ぶかは、ユーザーにゆだねられている。ノードを追加・削除したり、疑似的に障害を起こしてフェイルオーバーさせたり、OracleデータベースおよびOracle Clusterwareの各種パラメータを変更して影響をチェックするなど工夫を凝らし、Oracle RACの基本的な仕組みを知る必要がある。
もちろん、Oracle RACの本番環境を構築するとなると、可用性、拡張性、性能などの非機能要件を満たすための細かな設定を施さなければならず、さらに膨大な知識が要る。また、実機環境では各ハードウェアのクセを知り、相性を見極める必要もある。さらにクラスタで難しいのは運用であり、こればかりは知識武装だけでなく、本番環境の運用で経験を積むしかない。
そうしたOracle RACに関する総合的なスキルを認定する資格制度も始まった。ORACLE MASTERのエキスパートプログラムの1つとして「Oracle Database 10g: Real Application Clusters Administrator Certified Expert(RAC Expert)」が2007年10月より導入されたのだ。ORACLE MASTERのGold取得者(Oracle Database 10g以上)、もしくは専用の研修コース(5日間)と所定の履修コースを修めた者がRAC Expertの認定試験(選択式)を受けられる。実技試験の一部にOracle RACの取り扱いが含まれるPlatinum取得者でも、Oracle RACに特化した資格を得ようと認定試験に挑むケースがあるという。それだけ、“Oracle RACエキスパート”の市場価値は高いのだろう。
参考情報: Oracle Database 10g: Real Application Clusters Administrator Certified Expert(RAC Expert) |
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専門性が高く、実践力のあるインフラ系エンジニアになりたいなら、Oracle RACエキスパートを目指すのが早道かもしれない。その第一ステップとして、今回紹介したOracle RACお試し環境を構築してみよう。
提供:日本オラクル株式会社
企画:アイティメディア
営業局
制作:@IT編集局
掲載内容有効期限:2007年4月24日
Database News5/29 19:34 更新
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