このプロジェクトでは、全体を細かく分割し、最終的に34件の発注が行われた。当然、それぞれの発注では競争入札が実施されたが、単純に価格だけで判断するのではなく、総合評価方式の入札を行っている。「プロジェクトの管理体制についての考え方、AIST包括フレームワークによる開発に関する知見などを評価し、それに提示価格も加味して競争入札を実施しました」と長沼氏は説明する。
このマルチベンダーでの競争入札の成果として、長沼氏は多くの地元企業が受託できたことを挙げる。
「それまでは1社との随意契約で進めていたため、開発業務を受託した地元企業の数はゼロでした。それが今回は地元の16社に発注することができたのです。ソフトウエアの開発と維持、管理、改修といったことについても、“地産地消”で地元の技術者の方々にやってもらうと、何かと効率が良い面があると考えています。それを実現できたことは、札幌市としての経済政策の面からも一定の効果となったのではないでしょうか」(長沼氏)
情報部門の意識が変わったことも大きな成果だった。札幌市では、1980年代までは機器調達やプログラミング、運用管理など、ほとんどの業務を職員自身が行っていたため、主体性を維持できていた。しかし、さまざまなオンラインシステムが入ってきたことで、「どうしても主体性を手放さざるを得ませんでした」と長沼氏は述懐する。
それが今回のプロジェクトを通じて、札幌市の情報部門は再び主体性を取り戻すことができた。ただし、何でも自分たちで行っていた時代とはスタイルが異なり、現在は発注者と受託者の役割を明確化し、透明性の高い発注を行うことに重きを置いている。このように、同じ主体性でも、以前とは目指す方向性が異なっていることも注目すべきポイントだろう。
実際のプロジェクトで主体的にシステム構築を進めていくために、長沼氏らは「文書基盤の整備」に力を入れているという。
「ドキュメントとルールで業務アプリケーションの開発を統制する際、この文書基盤は非常に大事だと考えています。AIST包括フレームワークは業務寄りの記述が書きやすくなっており、職員たちでも内容をチェックすることができます。ベンダーの方に『こんなに沢山のドキュメントを作ったことはない』と言われたこともありますが、それぞれのドキュメントにはきちんと意味があり、それをどう使うかもフレームワークで規定されているので、たとえコストが掛かったとしても作っていただきます。それをチェックしながら、ベンダーの独自ルールが取り込まれないようにプロジェクトを進めていくことに力を入れました」(長沼氏)
文書基盤の整備に力を入れた背景には、業務部門と情報部門、開発ベンダーとの間におけるコミュニケーションの問題もあった。業務部門側がシステムの改修を情報部門に依頼し、それを開発ベンダーに伝えるといった流れは、民間企業でも一般的である。このやり方では、実際に開発されたものを見た業務部門から「想定していたものと違う」と言われ、手戻りが発生するといった事態がしばしば発生する。
札幌市でも同様の問題に悩まされていた他、職員が定期的に異動するという自治体特有の事情も障壁となっていた。情報部門や業務部門の職員が定期的に入れ替わることにより、「開発ベンダーが最も業務に詳しくなってしまい、『それなら一番業務を知っているベンダーにお願いするのがいいね』と丸投げ体質になってしまうのです」(長沼氏)。
これに対して、AIST包括フレームワークでは業務フロー図や業務ルール、ユースケース記述をきちんと作ることを求めている他、その粒度や項目についてもルールが定められている。これに基づいて文書化して統制を図ることで、「初めて担当した開発ベンダーでも事業部門の要求を理解できるため、誤解のサイクルに陥らなくて済みます」と長沼氏はフレームワークのメリットを説明する。
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アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2015年6月25日
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