開発ツールベンダのアトラシアンが年次イベント「Atlassian Summit 2016」の報告会を開催。アトラシアンが重要視したのは、ツールのアップデートのみならず、サービスファースト時代のビルドパイプライン、DevとOpsとカスタマーサービスの壁を壊した事例、チームの診断から演習まで、と多岐にわたるものだった。その裏側にある“思い”とは――
アトラシアンは2016年11月10日、「Atlassian Summit 2016 報告会」を開催した。このイベントは、10月11〜13日に米国サンノゼで開催された豪アトラシアンの年次イベント「Atlassian Summit 2016」の発表内容を、日本のユーザー向けにまとめて伝えるものだ。
Atlassian Summitでは毎年、豪アトラシアンのビジネスアップデートや今後の製品の最新動向などが発表され、事例やツール活用術など多くのセッションが開催される。8回目となる今回のサミットには、35の国や地域から約3200人が参加し、全75のセッションが行われたという。
今回の報告会では、アトラシアン マーケティングマネージャーの朝岡絵里子氏が、Atlassian Summit 2016の開催概要や会場の雰囲気などを伝えるとともに、1日目と2日目に行われた基調講演の内容を踏まえて、アトラシアンの目指すビジョンや製品戦略を紹介した。
ここからは、朝岡氏によるAtlassian Summit 2016での発表内容の要約から、いくつかの話題をピックアップしてお届けする。Atlassian Summit 2016では、1日目の基調講演で既存プロダクトのアップデート情報や新しいプロダクトの概要がプロダクト単位で発表されたが、2日目の基調講演では、世の中の変化を踏まえて、大きく3つの項目で「いかにしてアトラシアンのプロダクトをビジネスに活用していくのか」が語られた。
「今までの製品開発のサイクルはゆっくりで、大きなプロダクトを1年に1回程度のペースでリリースすればよかった。しかし、現在は、全てが“サービス”へと変わっており、毎月・毎週・毎日、継続的にリリースしていくことが求められている。この『製品の時代』から『サービスの時代』への変化を象徴しているのがUberやSpotifyのビジネス成長。物理的な製品として提供されているスマートフォンでさえも、各サービスにアクセスするための入り口にすぎない」と、朝岡氏は世の中が「サービスの時代」に変わりつつあることを強調する。
加えて朝岡氏は「サービスの時代への変化に伴い、製品開発のプロジェクトは今までのやり方では通用しなくなり、365日24時間対応や、より速いペースでの開発サイクル、そして組織の壁を壊した運用体制が必要になってくる」と指摘。こうした「サービスの時代」への適応を支援するアトラシアンの取り組みとして、「開発者がどのようにコードをビルドし、デプロイするか」「どのようにサイロ化された組織の壁を取り壊すか」「パフォーマンスの高いチームをいかに作り上げるか」という3つのトピックが紹介された。
まず、「開発者がどのようにコードをビルドし、デプロイするか」では、サービスファースト時代に合わせてクラウド上に構築されたビルド&デプロイツールの「Bitbucket Pipeline」にフォーカス。「従来の『製品の時代』に最適なツールとして提供していた「Bamboo」に対して、Bitbucket Pipelineは、『サービスの時代』に向けてクラウド上から直接提供する新たなビルド&デプロイツールとなっている。旧来のツールとは異なる開発手法によって、より迅速な開発を支援する」という。
Bitbucket Pipelineの主な特長は、「Configuration as Code」「Bitbucketネイティブ」「無限の拡張性」「エコシステム」の4つだ。
「Configuration as Code」とは、多くのビルドシステムとは異なり、コンフィグファイルとコードリポジトリを一緒に置くことで、別のシステムを行き来する手間を解消したということだ。シンプルな設定ファイルをソースコードリポジトリにコミットするだけで、簡単に始めることができ、コマンドラインからもコミットが可能。また、ソースコードと同じようにブランチを作成し、バージョン管理を行える。
「Bitbucketネイティブ」とは、一般的なビルドシステムの構成とは異なり、ビルドシステムとコードリポジトリを一緒にしたことで、ブランチを作成する前にビルドの状況を確認できるようになったということだ。これにより、問題があるコードに手を着けてしまったり、「自分がコードを壊してしまったのではないか」と心配したりすることもなくなるという。
「無限の拡張性」とは、Bitbucket Pipelineはクラウド上に構築されているため、必要に応じてスケールアップやダウンを自動で行えるということだ。朝岡氏は「従来のビルドシステムのようにキャパシティの設定やプロビジョニングのために時間を費やし、開発者を待たせることがなくなる」とそのメリットを強調した。
「エコシステム」に関しては、Bitbucket Pipelineが業界標準のコンテナマネジメントシステムであるDocker上に構築しているため、あらかじめ10万以上の環境が用意されていることに加え、既存の環境を拡張して、カスタマイズすることもできるという。
「Bitbucket Pipelineをより多くの人に使ってもらいたいとの思いから、今回のサミットを機に、ベータ版から製品版となり、1分当たり1セント(2016年11月現在約1.1円)という破格の料金設定が発表された。また、2016年内一杯は無料で使用できる」と、低価格でサービス提供されることが明らかになった。
なお、バージョン管理ツールである「Bitbucket」自体については、1日目の基調講演で製品概要の説明があり、開発者の生産性向上を支援する機能が紹介された。「現在、クラウドでBitbucketを利用している開発者は500万人に達しており、その開発者の生産性を上げることが2016年のテーマの1つとなっている。カンファンレンスでは、生産性向上に関するいくつかの機能が紹介されたが、特にGit LFS(Large File Storage)のサポートについて、亀の3D画像を例に挙げて解説した」という。
BitbucketのGit LFS実装「Bitbucket LFS」では、大きなファイルを1つの塊としてアップロードするのではなく、ファイルをいくつかの小さな塊に分割し、それを並行してアップロードする。これによって、標準のGit LFSに比べてアップロード速度を3倍高速化している。さらに、ファイルに変更が生じた場合は、その差分だけを感知してアップロードするため、速度は9倍も速くなるという。さらに、Bitbucket LFS特有の機能として、Bitbucketから直接3Dファイルをプレビューできる他、IllustratorやPhotoshop、各種動画や音声形式のプレビューにも対応している。
2つ目の「どのようにサイロ化された組織の壁を取り壊すか」という点については、アトラシアン製品にまたがって使用されている「メディアサービスに起こった障害」を例に挙げ、開発チーム(Dev)と運用チーム(Ops)、そしてカスタマーサービスチームが組織の壁を越えて、いかに障害に対処しているのかを紹介した。「アトラシアンでは、障害が発生した際に、『検知』『コミュニケーション』『解決』という3つのプロセスで、迅速に障害対応に当たっている。そして、それぞれのプロセスで、アトラシアン製品を有効に活用している」という。
まず、「検知」のプロセスでは、「JIRA Service Desk」によって障害情報の報告を検知。その情報を運用チームとカスタマーサービスが、信頼できる唯一の情報源として共有し、的確に事態を把握する。次の「コミュニケーション」では、「StatusPage」を活用することで、障害が発生した瞬時に適切なチャネルを使って利用者に通知する。これにより、利用者とのストレスのないコミュニケーションを実現し、問題解決に専念する時間を確保する。そして、「解決」のプロセスでは、「HipChat」の「ライブインシデントルーム」と、「Confluence」の「ライブインシデントドキュメント」を活用。ライブインシデントルームを司令室として、組織内の全ての関係者が一緒になってリアルタイムに解決策を探る。併せて、ライブインシデントドキュメントの共同編集機能を利用し、関係者のそれぞれの見解や見通し、コミュニケーションのドラフト、対応策の提案などを、分かりやすく整理していく。
こうした3つのプロセスで、アトラシアンの障害対応チームは、問題を検知、関係者に共有、問対対応に当たり、組織を越えて迅速な問題解決を実現したという。これに加えて、問題解決後の4つ目のプロセスとして「学習・改善」の重要性についても指摘。「障害対策チームが解散してしまうと、対応時のドキュメントは見つからない場所に埋もれてしまい、2度と見られなくなることがほとんどだ。しかし、ConfluenceとJIRAであれば、それらのドキュメントは全て記録され、共有される。これによって、組織横断で障害対応の振り返りと学習、確実なフォローが可能になる」としている。
「組織の壁を取り壊す」ために重要な役割を担う、JIRA Service Desk、StatusPage、HipChat、Confluenceの各ツールについては、1日目の基調講演で、その製品概要やアップデート情報が紹介された。
JIRA Service Deskは、2015年のAtlassian Summitから多数の機能強化が行われたという。まず大きな強化点として、ITIL準拠の認定(サービス要求/インシデント管理/問題管理/変更管理)を取得。また、カスタマー側の機能に加えて、問い合わせを受けるサービス提供側の機能も拡充し、Webhookによってさまざまなタスクを自動化できるようにした他、ワークフロー内で簡単に承認ステップを組み込むことも可能となった。
さらに、JIRA Service Deskの利用拡大に伴い、社外へのヘルプデスクサービス提供に活用されるケースが増えてきたことに対応し、新たに「Customer Organization」という概念を導入した。これによって、どのユーザーがどの組織に属するのかを管理し、組織ごとに権限設定を行い、「社外の特定の組織に、特定のサービスデスクポータルへのアクセスを提供する」などが可能となった。また、「カスタム通知テンプレート」を利用することで、顧客へのメール通知をカスタマイズして、任意のタイミングで送信できる。
この他、Confluenceとの統合機能も強化。エージェントがJIRA Service Deskのコンテクストの中でナレッジを閲覧できるようになり、ワンクリックで顧客とナレッジを共有することも可能となった。最後に、「JIRA Service Desk Connect」によって、さまざまな外部ツールやサービスと接続できることが紹介された。
アトラシアン製品ファミリーに新たにStatusPageが加わった。インシデントや障害が発生した際に、各部門からさまざまな問い合わせが殺到し、その対応に追われて肝心の問題解決に時間がかけられないケースは多い。こうした問題を解決するツールがStatusPageだ。StatusPageでは、ユーザーがインフラの全ての状況をワンストップで確認できるページを提供するという。
各ページは独自のブランディングを行うことができ、ページの公開範囲(プライベートページ/公開ページ)を設定することで、社内外に適切なレベルの情報提供が可能だ。また、登録したユーザーには、ステータスのアップデート情報がメールなどを通じてプッシュ通知される。なお、アトラシアン製品との統合実装については、第1号としてJIRA Service Deskとの統合が行われ、JIRA Service Desk内でStatus Pageの情報が確認できるようになった。
HipChatの大きな改善点としては、JIRAやConfluence、Bitbucket、StatusPageなど他のアトラシアン製品との連携を再設計したという。従来は、各製品から通知を受け取るだけだったが、通知を受け取った後にアクションがとりやすいよう連携機能を改善した。
例えば、現在ベータ版で提供している「Confluenceとの統合」では、「Confluenceスペース」を、任意のHipChatルームにマッピングできるようにした。「Bitbucketとの統合」では、プルリクエストの状況を確認し、レビューが止まっている人がいれば直接HipChatから通知を出すことが可能となった。また、「StatusPageとの統合」では、HipChatのルームに直接警告を流し、すぐにアクションがとれるようにしている。
この他、新たなコミュニケーション機能として、「グループビデオ通話」「画面共有」機能が追加されたことも紹介された。
Confluenceについては、世界中の組織やチームがConfluenceで作ったページが1億ページを突破したことに触れ、NASAやTwitter、BMW、Spotifyの導入事例が紹介された。併せて、2016年内にクラウド版での「スペース」体験を改善し、プロジェクトに合わせて「カスタマイズ可能な概要ページ」を新たに導入することも発表された。
新たな概要ページでは、「Pages」タブを設置し、スペースの構造やページ属性を一覧で確認できるようにした。ページの移動や整理はドラッグ&ドロップするだけで行うことができ、以前よりもページをリロードする必要性を低減したことで、ナビゲーションを3倍近く高速化した。また、直近で表示していたページに戻りたいというニーズに対応し、作業をしていたページや最近表示したページを「マイワーク」にまとめ、アクセスしやすくする機能を実装したという。
Confluenceでは、モバイルアプリの強化も実施。デスクトップで閲覧・作業していたページに、出先からすぐにアクセスできるようにした。また、iPhoneアプリにも「スペース」のブラウザを搭載。モバイルにおけるConfluenceとJIRAの連携をシームレスにするとともに、クラウド版のユーザー向けには、Androidアプリの提供も開始する。
この他、ページの作成を支援する共同編集機能として、「コラボレーティブエディティング」機能をクラウド版で提供開始し、サーバ版にもConfluence 6.0のリリースから同機能が搭載されたことが発表された。
3つ目の「高いパフォーマンスのチームをいかに作り上げるか」については、「Team Health Monitor」「Team Play」「Team Playbook」のツールにフォーカスを当てて紹介した。
Team Health Monitorは、チームに影響を及ぼしている課題を浮き彫りにできる健康診断のようなツール。リリースした当初は1種類しかモニタリングできなかったが、外部で数百のTeam Health Monitorを実施した結果、チームによって評価すべき属性や要件が異なることに気付いたため、現在では「プロジェクトチーム」「リーダーシップチーム」「サービスチーム」用の3種類を観測することが可能となっている。
Team Playは、Team Health Monitorでチームに特定された共通の課題を修復するために1時間以内に実施できる演習を提供するもの。20パターンを用意しており、初めてチームが形成された時から、繰り返し診断と演習を行うことで、パフォーマンスの高いチームに仕上げていくことができるという。
また、Team Playbookは、3つのTeam Health Monitorと20パターンのTeam Play、Confluenceクラウド版の「ブループリント」(ページテンプレートのセット)をセットにしたもので、アトラシアンのWebサイトから提供中とのこと。今後、可能な範囲で日本語化を予定している。
1日目の基調講演の最後には、現在開発中の製品プレビューとして、パーソナライズされたホーム画面を提供する「Atlassian Home」の情報が公開された。
「通常は、作業が進むにつれて、たくさんのブラウザのタブやアプリが立ち上がり、操作が煩雑になってきてしまう。これに対して、Atlassian Homeでは、あらゆるスペースやプロジェクト、作業中のファイル、新規作成を含めて1つの画面からアクセスできるパーソナルホームを提供する。ユーザーの作業を学習する機能も備えており、次に再開する作業を予測してホーム画面に表示してくれる」(朝岡氏)
将来的には、アトラシアン製品だけではなく、他社製品も含めてあらゆるツールへの一元的なアクセスを可能にしていくという。また、Atlassian Homeでは新たなUIデザインを採用しており、今後のアトラシアン製品にも順次適用されていく予定だ。
なお1日目の基調講演では、他にもアトラシアンの主力製品であるプロジェクト管理ツール「JIRA Software」、大規模運用をサポートする、各製品の「Data Center」エディション、アドオン開発に関する「Atlassian Marketplace」などのアップデート情報がアナウンスされた。詳細は、「Atlassian Summit 2016 DAY 1 基調講演レポート | Atlassian Blogs」を参照してほしい。
最後に朝岡氏は、「世界のビジネスルールは、常に速いスピードで変わり続けている。これからもアトラシアンでは、この変わり続ける世界に適応するためのツールを提供していく。ただし、単にツールを入れただけでは、変化に適応するのは難しい。企業の文化や意識を変えていくことも重要であり、アトラシアンではこの点も支援していきたいと考えている。ぜひ、1人1人が意識改革に取り組み、さらに激しくなる競争社会を勝ち抜いてほしい」と、メッセージを送り、報告会を締めくくった。
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提供:アトラシアン株式会社
アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2016年12月27日