「自社の本業は何か」「ビジネスコミュニケーションの手段は何か」と、目的起点で考えれば、やるべきことはおのずと見えてくる。
デジタルシフトの潮流を受け、ビジネスを支えるアプリケーションの開発運用にも大きな変革が求められている。そうした中で注目されているのがクラウドネイティブによる、迅速なアプリケーション開発だ。ただし、スピードだけではビジネスは成立しない。新規アプリか、レガシーアプリであるかにかかわらず「スピーディーに届け、安全、快適に使ってもらう」ことが大前提であり、クラウドネイティブはそのための手段にすぎない。では、具体的にはどのような変革が必要なのだろうか。2021年9月28日に行われたパネルディスカッション「クラウドネイティブ実践に不可欠な人とインフラの能力とは」を通して学んでいこう。
IT部門の改革者、DX(デジタルトランスフォーメーション)の実践者として広く知られているフジテック 友岡賢二氏は、2000年代のIT業界はコンシューマーの世界は大きく変化したが、企業ITは大きく後れを取っていると考えている。
フジテック 友岡賢二氏 2000〜2010年代、コンシューマーの世界で大きく普及したのがインターネットです。そして2007年にアップルがiPhoneを発表して以来スマートフォンが爆発的に普及し、10年後には多くの人が持つ時代となりました。ところが企業を見ると、インターネットを前提としたビジネスモデルで急成長を遂げる企業がいる一方で、いまだにインターネットの利用を不安視し、なぜか従来型のITで立ち止まっている企業が少なくありません。クラウドも同様で、AWS(Amazon Web Services)が日本でサービスを開始したのは2011年からすでに10年が経過しましたが、日本企業のクラウドシフトは大きく遅れているといわざるを得ません。
インターネットやクラウドへの適合という過去の宿題を抱えながらも、企業が今やるべきことはマイクロサービス化やAPIの活用です。例えば利用者にとっての銀行の実態はAPIだけになりつつあり、利用者は口座の残高確認や送金などあらゆる手続きをスマートフォン上で完結できます。こうしたテクノロジーや社会の変化を捉えてビジネスモデルを変えていかなければなりません。APIを通じて多彩なマイクロサービスを持つ企業と連携することが、エコシステム形成の重要な手段となる。そういう時代を迎えているわけです。
話題は続いて、「クラウドネイティブ」への取り組みへ。既存資産を持つ企業は、ビジネスのスピードを高めていくための取り組みの潮流にどう乗っていけばよいのだろうか。
友岡氏 古いテクノロジーのままではクラウドシフトは不可能です。64bit対応に加えて、アプリケーションの開発言語のモダン化とシステムの3層化は必須です。これによりアプリケーションを標準ブラウザ上で動かすことが可能となり、ひいてはクラウドシフトが前進します。クラウドとの相性を考えれば、データベースもオープンソース化していくことが運用面でもコスト的にも得策です。もちろんどれも簡単ではなく、手間と時間のかかる地味な作業ですが、一つひとつ着実に積み重ねていくことが必要です。
内野宏信(モデレーター) 今の経営環境にふさわしい形に少しずつシフトしていくのですね。ただ、この取り組みを継続して成果を出すためには、システム全体のグランドデザインやロードマップを想定しておかないと、優先順位も決められず、コストはどんどん膨らんでいきます。
SB C&S 加藤学氏 実際にシステムのモダナイズは一筋縄ではいきません。そこでSB C&Sは、システムのモジュール性を大きく4つのパターンに分類しました。どのようなシステムも最初に作った段階ではシンプルな「単一プロセスモノリス」です。これがビジネスの拡大とともに、さまざまなパターンに発展していきます。ここで避けなければならないのが、モジュール同士が強い依存関係を持って密結合した「分散モノリス」で、身動きがとれない状態に陥ってしまいます。目指すべきはモジュール同士が弱い依存関係で疎結合した「マイクロサービス」です。カナダのEC企業Shopifyが採用している「モジュラーモノリス」も大いに参考にすべきパターンです。
ビジネスの将来を予測することがますます困難になる中で、アプリケーションをどんな形でリリースすべきなのか。可能な限りリスクを低減し、起こった変化に柔軟に対応できるようにモジュールを細かく分割しておくことが最近の傾向です。
ヴイエムウェア 星野真知氏 ただ、どんなにモダナイズが進んだシステムも、インフラエンジニアの立場からは単一プロセスモノリスにしか見えません。例えばハードウェアだけを管理しているエンジニアは、その上でどんなマイクロサービスが動いているのか全く知らず、システムが失敗したときも人ごとに受け止めがちです。このギャップをどうやって解消していくのか。インフラエンジニアを含めたIT部門全員がビジネス視点を持つことが重要ポイントになると考えます。
内野 事業部門とIT部門が同じビジネス目的を見据えて取り組んでいくためには、例えば「内製化」が不可欠の要件になると考えますが、いかがでしょうか。
星野氏 当社のお客さまは、外部のシステムインテグレーターの開発メンバーをアジャイル開発のプロセスに組み込む「準内製化」のアプローチを採用し、意思決定をスピードアップさせることに成功しました。内製化というと社内だけで全てを開発すると考えがちですが、答えは決して0か1かではなく、このように柔軟なやり方もあります。
今の経営環境で求められるITをスピーディーに提供し、なおかつその品質を担保するために、IT部門にはどんな変革が求められるのだろうか。
星野氏 インフラエンジニアは自社のデータセンターに縛られずに、インフラの抽象度をもっと高めることが必要です。これによりクラウドシフトしても自分が果たすべき役割はたくさんあることに気付き始めます。なお、クラウドシフトに際しては、最初の段階からできるだけ特定の人材に依存しない、シンプルかつ横展開しやすい構成を追求することが肝要です。
内野 従来の物理中心で属人化した体制から脱却し、運用プロセスそのものを見直す必要があるということですね。この取り組みを支えるためにVMwareは具体的にどんな仕組みを提供しているのですか。
星野氏 ビジネスに直結しない問題を気にせずに済むための仕組みとしてコンテナ基盤に注力し、実現するソリューションとして「VMware Tanzu」を提供しています。コンテナ化されたアプリケーションのデプロイとスケーリングを自動化し、モダンアプリの開発や複数のクラウド環境での運用を実現するオープンソースプラットフォームであるKubernetesフレームワークの実行と単一の制御ポイントからの管理を支援する製品群です。
内野 従来はオンプレミスとクラウドの間で流儀が異なるが故に煩雑な手作業が発生していた移行作業を、コンテナ基盤を利用することで標準化できるのですね。そうした中でビジネスに最適なインフラの選択と活用をIT部門がリードし、インフラエンジニアの新たな役割が生まれるというイメージですね。
内野 こうした新たな仕組みを企業が適用し、ビジネスで実践していく上でのポイントも教えてください。
加藤氏 最大のポイントは「Cloud Migration Strategy 6R’s」でも示されているように、クラウドシフトに対する明確な戦略を持つことです。先ほど星野さんから説明のあったコンテナ基盤の活用は「Replatform」に該当しますが、アプリケーションによっては「Retain(何もしない)」や「Retire(やめる)」「Rehost(システムをそのままクラウドに乗せ換える)」といった選択もあります。また、友岡さんからお話のあった「システムを地味に作り変える」作業は「Refactor」と呼ばれる他、既存のアプリケーションをSaaSなどに完全に置き換える「Repurchase」を選択するケースも拡大しています。
内野 確かに、あらゆるシステムをクラウドシフトすればいいというわけではありません。企業がビジネス目的起点でオンプレミスも含めたインフラを適材適所で使い分け、最適な戦略を選択するためのサポートが必要ですね。
加藤氏 SB C&Sは、アプリケーション開発者とインフラエンジニアを対象にOSS(オープンソースソフトウェア)を中心としたトレーニングセットを提供する「クラウドネイティブ道場」、これからクラウドシフトやシステムのモダナイズに取り組むお客さまがアジャイルやDevOpsの考え方を学習・体験していただける「Phoenix Project ロープレ研修」や「DASA DevOps 研修」といったサービスを提供しています。
Phoenix Project ロープレ研修では、CEOやCIO(最高情報責任者)といった立場になって架空の会社を運営していただき、DevOpsを実践することで売り上げや株価がどれくらい上げられるかを体験します。DASA DevOps 研修は、国際団体であるDevOps Agile Skills Association(DASA)が認定する座学研修で、DevOpsを理論面から理解するために最適な内容です。
最後に本日の総括として、友岡氏が今後のIT部門やインフラエンジニアにメッセージを送った。
友岡氏 ユーザー企業のIT部門の方に述べておきたいのは、IT企業を呼んで説明を求めるといった受け身の姿勢はもうやめるべき、ということです。自らさまざまなコミュニティーに出向いて他社の利用ユーザーと議論を交わすなど、外の世界に自ら積極的に学んでいかないと前進はありません。
IT企業の皆さんにもお伝えしたいことがあります。お話しすると、あまりにも競合の商品のことを知らな過ぎて驚くことがあります。ユーザー企業は幾つものソリューションを横並びで見比べた上で選択しているのですから、相対的に見て自社商品にどんな優位性があるのかをしっかり理解していないと、まともに会話もできません。絶対的な自信を持って提案に臨むため、猛烈に外の世界を学んでほしいと思います。
内野 どんな企業も、自分たちのビジネスにとってこれが世界一だと自信を持てるインフラは、人まかせにしては決して得られません。逆にいえば、自らの視点を積極的にビジネスに向けることで、現場や経営に貢献できる手段が潤沢にそろっていることに気付きます。そうした中にこそ、今後のIT部門が果たすべき役割やインフラエンジニアの価値向上の方向を見いだすことができそうです。
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