若手従業員も続々参画するアプリ内製の文化老舗の船舶バルブメーカーがデジタルの力で変わる

社長が種をまき、従業員が花を開かせたDX――ローコード開発ツールで紡いできた、業務システムと内製魂。

» 2024年10月08日 10時00分 公開
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 滋賀県彦根市と聞いて何を思い浮かべるだろうか。国宝に指定された天守閣を有する彦根城、あるいは全国的な人気を博するご当地キャラの「ひこにゃん」かもしれない。琵琶湖産のふなずしや近江牛、彦根梨などの特産品も有名だ。

 そして産業分野においては、圧倒的なブランド力を誇る「彦根バルブ」がある。

 パイプを流れる気体や液体の量を制御、調整するバルブは、現代社会に欠かせない重要インフラの一つだ。彦根市は、バルブの製造、販売を手掛ける30社前後のブランドメーカーと、それを支える70〜80社の関連企業が集積した、国内最大規模のバルブ生産地なのである。

 その彦根市に拠点を構える日の本辨(べん)工業は、1943年の設立以来80余年、船舶用バルブの専業メーカーとして「彦根バルブ」隆盛の一翼を担い、大手重工メーカーをはじめ、全国各地の多くの造船所から高い評価と信頼を獲得してきた。

 今回フォーカスするのは、同社の業務システム内製30年の歩みと、それを支える従業員たちの内製魂である。

 取り組みを主導してきたのは、3代目社長の岡一嘉氏だ。大学卒業後、研究職として大手金属メーカーに勤務した後、1992年に家業である日の本辨工業に戻った同氏が目の当たりにしたのは、多くの町工場と同様の、紙と職人の記憶によって作業を進めるアナログな業務環境であった。社外向けの帳票を出力する事務専用機こそ導入されていたものの、基本的な業務処理は全て手書きの紙で行っていた。

 「このままではだめだ。いますぐ状況を変えなければ」と危機感を抱いた岡氏が踏み出したデジタル化への取り組みが、その後の業務システム内製化の第一歩となった。

独りぼっちの「内製化フェーズ1」

 岡氏が最初に着手したのは、バルブ製造作業にまつわるさまざまな履歴のデータ化と、その一元的な管理である。タンカーから豪華客船に至るまであらゆる船舶内部の設備配管に利用されているバルブは、航行中に修理しなくてもすむように設計されており、もし修理する場合にも、修理しやすい条件が優先されて作られている。バルブは微細な亀裂(鋳造欠陥など)であっても圧力がかかると内容物の漏れが生じる。それを許さない技術と検査、その製造履歴は、バルブメーカーにとって会社の存続に不可欠なデータになるのだ。

 「どのお客さま向けの、どんな製品を、いつ製造し、いつ出荷したのか、すぐに検索できるようにしておくことは、メーカーにとっての基本的な責務です。この仕組みを構築するためには、絶対にデータベースが欠かせませんでした」と、岡氏は当時を振り返る。

 ただ、従業員数30人規模の同社にとって、大企業と同様のメインフレームは言うに及ばず、オフコンの導入もままならない。ではPCはどうかというと、岡氏が戻ってきた1992年はまだWindows 95も登場しておらず、実務に耐え得るデータベースやアプリケーションの構築は困難だった。

 そうした中で思い立ったのが、「Claris FileMaker」(当時FileMaker Pro 2.0v2)の活用だった。

 岡氏は前職時代から公私にわたってMac(当時Macintosh)を活用しており、自宅でも自費で「Macintosh SE/30」を購入するほどのMac愛好家だった。このMacとFileMakerで必要なアプリケーションを自分で作っていけると考えた岡氏は、早速受注管理や在庫管理のアプリケーション開発に着手。1993年から運用を開始した。

若手従業員たちが主導する「内製化フェーズ2」へ

 しかし2008年に岡氏が社長に就任したころから、多忙な業務と並行して「ワンオペ情シス」としてさまざまなアプリケーションの開発やメンテナンス、改善や拡張を続けていくことに限界が生じ始めた。

 特に苦労したのは、macOSやFileMakerのバージョンアップ対応だ。例えば2006年、MacがPowerPCアーキテクチャからIntelアーキテクチャに移行したことに伴い、それまで利用してきたClassic Mac OSはサポートされなくなった。またFileMakerもバージョン7.0からはMac OS Xのみの対応になるという事態が起こった。

 そこで同社が決断したのが、システム拡張の外部委託だ。パートナーとして、FileMakerによるシステム開発やトレーニングを事業としている Claris Platinumパートナー、バルーンヘルプ(本社:大阪)を選定した。

 「外部委託に当たって危惧したのは、全てがベンダー任せとなってシステムがブラックボックス化してしまうことです。自分たちで拡張内製化できることがFileMakerの長所であるのに、それをスポイルするようならそもそもFileMakerを使う意味がありません。そう考え、『システムの骨格となる部分は任せるが、自分たちで拡張できる部分は自分たちの手でやらせてほしい』とお願いしたところ、バルーンヘルプの社長はその思いをくんで快くOKしてくれました」(岡氏)

 一方、社内にはシステム開発を担う若手の新戦力が続々と加わってきていた。技術担当の澤友恵氏(2010年5月入社)、技術・資材担当の髙田滉氏(2017年3月入社)、資材担当の川上碧氏(2019年3月入社)をはじめ、同社の間接部門のメンバーはほぼ全員がFileMakerを学び、開発に携わっている。

 こうして同社では「内製化フェーズ2」ともいうべき、現場主導のボトムアップによるアプリケーションの開発や拡張が本格化していったのである。

アプリケーション開発の手順をOJTで学び、実践

 バルーンヘルプと若手従業員たちの連携は、アプリケーション開発や拡張において期待以上の相乗効果をもたらしている。

 「バルーンヘルプからトレーニングを受けてFileMakerの基礎を学びました。一般的なテキストを使った講習ではなく、実際に私たちが業務で利用しているアプリケーションを教材に、その中身がどうなっているのか具体的に教えていただきました。おかげで私たちも短期間で、自らの手でアプリケーションを作れるようになりました」と語るのは澤氏だ。

ALTALT FileMakerが基幹業務システムとして稼働する

 さらに髙田氏がこのように続ける。

 「私は要件定義から学習を始めました。それを基にバルーンヘルプに基盤開発していただき、次に似たようなアプリケーションが必要になった際には、それをお手本に自分たちで作るという手順でアプリケーションの開発手法を会得してきました」

工作機械の図面がiPadから即時閲覧できる

 こうして岡氏が開発した受注管理や在庫管理のアプリケーションは最新のFileMakerによってアップグレードされ、さまざまな新機能が追加された。ユーザーインタフェースやメニュー画面も大幅に洗練され、熟練の職人や海外からの研修生でも直感的に操作できる使い勝手の良いアプリケーションに生まれ変わった。

 在庫管理については、同社が2009年に新たに設置した部品立体倉庫とデータを連携(ODBC、ESS)するシステム拡張も内製化した。

 「部品立体倉庫内の在庫は、操作制御を含む別の専用システム(Oracle)で管理しています。そこからデータを抽出し、FileMakerの在庫管理システムにリアルタイムで反映する拡張機能を自分たちで作りました」と澤氏。

 「おかげで当社はより精緻な原価計算やリアルタイムでの資材発注が可能になりました。彼らは経営改善にも大きく貢献してくれました」と岡氏は強調する。

現場で直面した課題を「自分たちで何とかせねば」と解決

 もう一つ、業務現場が直面した課題をFileMakerの内製アプリケーションで解決したエピソードを紹介しておきたい。

 同社はバルブの仕上げに用いる洗浄剤や塗料の原料として、さまざまな有機溶剤を保管している。これらは消防法で危険物として取り扱われており、貯蔵、運搬する上で溶剤の種別ごとに定められた「指定数量の倍数」を守らなければならない。

 例えばガソリンなどの第一石油類は指定数量が200リットルに定められており、同一の場所で貯蔵している量が40リットル(倍率0.2)未満であれば届け出は不要だが、40リットル以上200リットル(倍率1)未満では少量危険物として届け出が必要となる。200リットル(倍率1)を超える場合は専用の設備を設置するなどの許可を受ける必要がある。

 同社はあるとき所轄の消防署から、こうした有機溶剤の保管体制について指摘を受け、対応が急がれたのである。

 この事態に「自分たちで何とかせねば」と溶剤管理アプリケーション開発に立ち上がったのが、当時入社2年目だった資材担当の川上氏である。

 「溶剤ごとの貯蔵量を入力し、指定の数量や倍率を引き当てて計算するマスターテーブルなど、基本部分は先輩方に手伝っていただきました。画面まわりの開発などはFileMakerを活用して、私にもやり遂げられました」と川上氏は言う。

 この溶剤管理アプリケーションを消防署に提示したところ、「ここまでしっかり管理できているのならば問題ない」と安全対策が認められ、同社施設の追加設備投資が不要になった。

QRコードを読み取るだけで必要な情報が自動入力される仕組み

 若手従業員たちはこれ以降も、バルブの製造工程と検査工程をQRコードでデータ連携させる拡張機能など、現場の課題解決や作業改善に資するさまざまなアプリケーションの開発や拡張に腕を振るっている。

 「アプリケーションの内製といっても、高尚な理念を掲げて取り組んできたわけではなく、正直なところ当社にはそれ以外の選択肢はありませんでした。30年前に私が家業に戻ってきたとき、会社には本当にお金がなくて、システム開発を外注するなどとても無理な状況でしたので」と岡氏はしみじみ振り返る。

 そうした中で内製を進めてきたからこそいまの自分たちがあるとし、「結果論になるかもしれませんが、30年にわたるIT投資を内製化したからこそ、財務体質は健全になり、ボロボロだった事務所を建て替えて見違えるほどきれいになり、工作機械や部品、製品立体倉庫などの自動化設備も新設できました。そして何よりも大きいのは、皆に楽しく働いてもらえる環境を整え、一人一人の成長を促せたことです」と強調する。

 課題に対し、Claris FileMakerをコアに優れたパートナーと協業し、チャレンジ精神にあふれる若いパワーを結集させる。この「自分たちで何とかせねば」の精神があるかぎり、同社は今後も新たなステップを上っていくに違いない。

(左から順に)技術担当 澤友恵氏、技術・資材担当 髙田滉氏、代表取締役社長 岡一嘉氏、資材担当 川上碧氏

2024年11月13〜15日 虎ノ門ヒルズフォーラム(東京)にて開催されるClarisカンファレンスに、日の本辨工業 代表取締役社長 岡一嘉氏、澤友恵氏、川上碧氏が登壇し、本事例について詳しく紹介します。

11月15日(金)11:10〜11:55 船舶用バルブメーカーのDX事例:ローコードによる内製開発の軌跡

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提供:Claris International Inc.
アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2024年10月29日

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