「鹿児島の広告屋さん」がアプリ内製でDXを推進し、全国区のオンリーワン企業に成長開発者はグラフィックデザイナー

超短納期、かつミスが許されない「会葬礼状」の作成プロセスを、ホワイトボードと裏紙と根性で回していた広告代理店。このままでは、いつか行き詰まる。その懸念を取り払ったのは、一人のグラフィックデザイナーだった――。

» 2025年01月24日 10時00分 公開
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思いをつづる「オリジナル会葬礼状」作成で取引先を日本全国に拡大

 鹿児島県鹿児島市に本社を構えるマコセエージェンシーは、テレビやラジオ、新聞、折り込みチラシ、インターネット、雑誌、看板など幅広いメディアを駆使した広告の企画立案と実施を手掛けている。これだけを聞くとよくある「地方の総合広告代理店」と思うかもしれないが、今や、同社の社名は全国にとどろくようになっている。

 その基盤となっているのが、フューネラル(葬儀)事業だ。

 通夜や葬儀などお別れのセレモニーに参列した際に、喪主から返礼品と共に渡される会葬礼状の文面は、定型のあいさつ文が用いられるのが一般的だ。そうした中で同社は2002年、オリジナルの会葬礼状を作成するサービスを打ち出した。型通りのあいさつ文だけでなく、旅立つ故人のこれまでの歩みや人柄、さまざまな実績、家族の思いなどをつづった、まさに世界で一つだけの会葬礼状だ。

 当初の取引先は鹿児島県内の葬儀社がほとんどで、年間の依頼件数は1500件程度だった。そこから、「大切な方をしのぶ心のよりどころにしたい」というニーズの高まりとともに、日本全国の1000社を超える葬儀社に取引先が広がっていった。サービス開始から22年が過ぎた現在、同社の受注件数は年間16万件以上にも上り、1日平均で250件以上の「オリジナル会葬礼状」を作成している。

 しかし、その業務フローは容易ではない。一般的な広告物であれば、クライアント企業の事業計画やプロモーション戦略に沿ってスケジュールを組み、コンテンツ制作に少なくとも数日程度の時間は確保できるものだ。ところが会葬礼状の場合は、はるかに短納期だ。同社代表取締役の高橋昭一氏(高は“はしごだか”)はこう語る。

 「葬儀社から依頼が寄せられるのは、いつも急です。地域にもよりますが、鹿児島県では午前中にお亡くなりになった場合、その日の午後6時から通夜が行われます。ご遺族のお話を伺ってから1時間程度で会葬礼状の初校を仕上げ、しっかり校正まで済ませた上で納品しなくてはならず、時間的な猶予はほとんどありません」(高橋氏)

マコセエージェンシーの高橋昭一氏(代表取締役)

類を見ないビジネスモデルの管理システム どう作り上げたのか

 こうしたオリジナル会葬礼状の作成プロセスの管理に、これまで同社はオフィスにあるホワイトボードを使っていた。

マコセエージェンシーの山下大輔氏(クリエイティブ・システム課次長)

 同社でクリエイティブ・システム課の次長を務めるグラフィックデザイナーの山下大輔氏は、こう振り返る。「ホワイトボードには縦軸に文章作成を担当するオペレーター、横軸に取引先の地域(鹿児島、西日本、東日本)を記した進行表を書きます。そして受注した案件内容を受付票として出力し、振り分けられた枠内に貼付して進捗(しんちょく)を管理していました」

FileMaker導入前のプロセス管理(出典:マコセエージェンシー提供資料)

 だが依頼件数が増えるにつれ、このようなアナログな手法ではさすがに対処しきれなくなった。受付票の貼付漏れや枠の間違いなどにより、誰がどの案件を担当しているのか分からず混乱し、致命的なミスが起こることも危惧された。

 そこで同社は、オリジナル会葬礼状に関する業務プロセスのデジタル化に乗り出した。この立役者であり、Clarisが提供するローコード開発ツールの「Claris FileMaker」を利用したシステムの内製開発を主導したのが前述の山下氏である。

 とはいえ、本業はグラフィックデザイナーである山下氏。どういういきさつからこの役割を担うことになったのだろうか。

 「実は前職でもFileMakerを使って見積書や請求書などを作成する社内アプリを作っていました。マコセエージェンシーには2007年8月に中途採用で入社し、当社でも営業部門を中心にFileMakerが広く活用されている様子を見てきました。社内にはクリエイティブ業務用の『Mac』もそろっています。『自分たちでやれそうだ』という思いがもともとあり、『環境は整っているのですから、私がやりましょうか?』と代表に提案したところ、すんなり受け入れていただき開発がスタートした次第です」(山下氏)

 高橋氏にとっても、願ったりかなったりの提案だった。

 「それまでは、Macのメンテナンスを外注しているベンダーからFileMakerを紹介されて導入し、できる範囲で利用していました。ただ、社内にいるのはあくまでもMacやFileMakerのユーザーでありシステムの専門家ではないことから、内製開発など全く頭にありませんでした。そんな折、思いがけない提案に心を動かされ、私も『外部に頼まなくても自分たちで何とかなりそうだ』と考えるようになりました。山下がいてくれたから、当社はシステム内製化に踏み出せたといっても過言ではありません」(高橋氏)

受注から作成、納品まで進捗管理するアプリを開発

 山下氏が着手したのは、オリジナル会葬礼状の受注から納品までの進捗を管理するアプリの開発だ。

 アプリを使った進捗管理フローは「顧客(葬儀社)データベース」の検索から始まる。同社は1000社を超える日本全国の葬儀社と取引しており、さらに各葬儀社は複数の斎場を抱えている。これら約5600件のデータを一元的に管理するもので、コールセンターで依頼を受けた取引先のデータ検索を容易にするとともに、受付状況を業務フローに登録できる。

 その後「割り振り表」で、会葬礼状の作成を担当するオペレーターを案件ごとにアサインし、各自の予定や進捗状況をガントチャートで表示する。そして完成した初校は「校正受付」へと引き渡され、一次校正および二次校正の進捗状況をリアルタイムに可視化する。

ALTALT 顧客データベース(左)、割り振り表(右)

 山下氏がこれらのアプリを作る上で特に注力したのはUI(ユーザーインタフェース)とUX(ユーザーエクスペリエンス)だ。

 「グラフィックデザインの経験に基づいて、ユーザーの視線の動きに合わせる形で画面内の各パーツやメニューを配置しました。FileMakerのバージョンアップで強化されたカラーパレット機能を生かして、配色にもこだわり、ユーザーが直感的に操作できるアプリを目指しました」(山下氏)

山下氏が視認性にこだわった、校正受付画面

 結果として、会葬礼状の受注から受付入力、取材(遺族へのヒアリング)、文章作成、校正まで、一連の業務の進捗状況が瞬時に確認できるようになり、取引先から問い合わせを受けた場合も迅速に回答できるようになった。

 もっとも、必要な全てのアプリを内製開発したわけではない。各葬儀社への請求業務に関しては、Clarisのパートナー企業であるサポータスと共同開発する体制を取ったという。

 オリジナル会葬礼状とそれに付随するアイテムは多種多様であるため、計算処理は非常に複雑になる。当初はこの部分も内製することを検討したが、万一請求ミスが発生した場合のリスクも大きいことから、経理の専門知識と豊富な実績をもつサポータスに任せることにしたのだ。ただし、決して丸投げしたわけではない。

 「業務システムと分断された請求アプリを作ったのでは意味がありません。受注から納品までの進捗管理をするアプリと連続したワークフローでつながることが大前提であるため、接続部分については私が仕様を固めた上でサポータスに開発を依頼しました」(山下氏)

 結果としてこの請求アプリは、経理部門の業務効率化に大きく貢献。従前は月末・月初に夜中まで請求処理に追われていたスタッフの残業時間を劇的に減少させた。時間の余裕が生まれてからは、経理部門はオペレーター部門の一部の仕事を手伝っているという。「当社にはお互いを助け合う文化があり、誇りを持っています」と高橋氏は語る。

FileMakerの浸透に伴い、カスタムアプリが拡充

 オリジナル会葬礼状の作成ワークフローを支えるアプリを作り上げたという成功体験を経て、マコセエージェンシーではFileMakerのさらなる浸透が進んでいる。山下氏は各部門のユーザーから寄せられる多様なリクエストに応えながら、新規アプリの開発を進めている。こうして拡充してきたカスタムアプリは、すでに30〜40本に上る。

 「ランチ管理アプリ」もその一つだ。従業員の昼食用の弁当注文を取りまとめて、提携している外食業者に依頼するもので、これまで総務部門が電話でやりとりしていた手間をなくした。従業員は希望する弁当を毎日午前10時までにアプリに入力すれば、それらを取りまとめた注文書が作成され、FAXで注文できる。

 「マコセ図書管理アプリ」は、同社が所有する約1500冊の蔵書の社員への貸出手続きを簡素化するシステムだ。毎月入ってくる新刊を含め、各書籍に貼付されているQRコードをスマートフォンのカメラでスキャンするだけで手続きが完了。特に大きな工夫点は返却時の案内で、返却手続きをすると書籍を戻す棚の位置がアプリに表示される。借りた時点では新刊コーナーに置かれていた書籍も、返却時には既刊本として戻す棚が変わる場合があるが、アプリの指示に従えば間違いはなくなり、図書管理者の負担が軽減される。

 「簡単なアプリであれば、FileMakerなら大抵1〜2日で作れます。社内には私の他にもアプリ開発を担えるメンバーが徐々に増えているので、今後カスタムアプリ開発にはさらに弾みがつくと思います」(山下氏)

 オリジナル会葬礼状アプリをさらに機能強化すべく、新たな取り組みも継続中だ。山下氏は、最新バージョンの「FileMaker 2024」でリリースされた、AI連携によるセマンティック検索機能に注目している。

 「オリジナル会葬礼状の過去文章を蓄積したデータベースは当社の最も重要な情報資産となっており、オペレーターは新規の文章を作成する上で常に参考にしています。従来のキーワード検索に加え、文脈や意味を考慮した語句の検索ができるセマンティック検索機能を従業員に提供することで、より柔軟な情報活用が可能となるでしょう」(山下氏)

 自分たちが必要とするアプリを自分たちの手で開発する内製化のアプローチを貫いてきたからこそ、全国区のオンリーワン企業となった今の同社がある。

 「システムの専門家がいなくても、CX(顧客体験価値)向上とともに、単なる業務効率化にとどまらないEX(従業員体験価値)向上を実現してきました。FileMakerは、他の方法では得難い変革を当社にもたらしてくれました」と高橋氏も語る。同社はさらなるDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進していく構えだ。

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アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2025年2月6日