前回の記事は、「物事の全体像を見極めて構成要素を整理すること」(=構造化)について解説しました。構成要素の関係を整理したら、次はどの要素が重要なのか、どの要素なら無視しても大丈夫なのか、その「ボリューム」を素早く見分ける必要があります。それが加わることで、単に定性的に構造化した場合に比べ、問題解決の難易度や方向性が分かりやすくなります。開発現場のトラブル処理などに活用してください。
全体像を見極めてから細部に目を配る
極論すれば、あらゆる事象はすべて前回紹介したような構造図に整理できます。しかし、あまりに細かい情報を厳密に整理しようとすることは、本来の目的を考えるとむしろ逆効果になります。
なぜなら、それは複雑な事象を複雑なままとらえることになってしまい、問題解決のヒントを得にくくなったり、ささいなことに時間を費やす羽目に陥ってしまうからです。物事を構造的にとらえる意義は、本来、全体像の見通しをよくすることにありますから、その目的に立ち返り、「厳密性にこだわり過ぎることはむしろマイナス」と考えた方がいいでしょう。ある程度、ささいな部分は割り切り、全体の構造を大まかに把握することが肝要です。
さらに、全体の構造を大まかに把握した後は、どのあたりが重要なのかを見分ける必要があります。そのための最も基本的な思考スタンスが、「できる限り定量的に、ボリューム感をもって物事をとらえる」ということです。
「割り箸論争」が明らかにしたこと
定量的に状況を把握することができないと混乱を招くことがあります。例えば、かつて新聞紙上を賑わせた「割り箸論争」があります。これは、わが国独自の割り箸文化が南国の森林破壊を助長しているのではないか、というものでした。当時は常に自分の箸を持ち歩く「マイ箸」なる習慣がマスコミに多く取り上げられたりしたので、覚えている方も多いと思います。
割り箸反対派の主張は、日本で消費される割り箸は木材使用量でいえば住宅数万戸に相当する、というものでした。それだけを聞けば「大変な量だ!」と感じてしまいますが、「日本全体の木材消費量」に占める割合が小さな住宅を比較対象にしているので、相対的に大きく感じるにすぎません。
この論争は結局、「割り箸に使われている木材の量は輸入木材の全体量に比較するとコンマ数%と微々たるものである。加えて、ほかに用途のない廃材を使っているのだから、むしろ賞賛されるべきであり、森林破壊につなげるのは短絡的である」との意見が出されるに及び、議論は収束していきました。
もちろん、常に環境に配慮する姿勢は賞賛されるべきものですし、それ自体が悪いわけではありません。ただ、本来の目的に立ち返ったときに「どの部分に手を付けるのが最もインパクトが大きいか」を先に把握しておくことの重要性は分かっていただけたかと思います。
定量的に考えるメリット・デメリット
もう1つ、今度はビジネスの例を考えてみましょう。
A社の主力商品が不調なことに対して、消費者の嗜好の変化と、流通チャネルの衰退の相乗効果によるものだという定性的な分析がなされたとします。しかしこのままでは、商品改良とチャネルへのテコ入れ、どちらから手を付ければよいか分かりません。
最悪の場合、流通部門は「商品企画部門が悪い(=消費者の嗜好をとらえきれていない)」と主張し、商品企画部門は「流通部門が悪い(=チャネルを維持できていない)」と反論する……といった責任のなすり合いが行われてしまいます。
このような場合、図1のように2つの要素をある程度定量的に把握できれば、どちらの問題がよりインパクトが大きいか、どちらから着手するのが効果的か、ということがかなり明確になります。
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