辞めるのやめていいですか?:退職活動やってはいけないこんなこと(2)(2/2 ページ)
転職を志し、選考過程を経て内定を獲得した後は、現在勤めている会社を円満に退職しなければならない。それが「退職活動」だ。本連載では、毎回退職活動にまつわる危険な事例を取り上げて解説する。連載内容を活用してトラブルを回避し、円満退社を目指してほしい。転職に対する不安を少しでも減らすことができればと思う。
「内定保留にできますか?」
松本(仮名)さんは28歳、大手システムインテグレータの下請けであるソフトハウスでオープン系のシステム開発に携わっていました。中でも物流システムに4年間従事し、サブリーダーとしてメンバー5人のマネジメント経験もありました。
松本さんは、今後は元請けで大規模なプロジェクトにかかわりたいとの思いから、キャリアアップのための転職を目指し、弊社を訪れました。転職活動は順調で、希望どおり物流システム開発に定評がある大手システムインテグレータのプロジェクトマネージャ候補の内定を得ることができました
ところが、やはり内定が出てから1週間後、松本さんから「すみません、いろいろと考えたのですが、いったん内定を保留にしたいのです……」と申し訳なさそうに連絡が入りました。
話を聞いてみると、松本さんの場合、そもそもの転職の目的がぼやけてしまったようでした。
内定をもらった翌日、上司にさっそく「お話がありますので少々お時間をいただけますか」と声を掛け、今後のキャリアアップのために転職活動をし、望む方向で自己実現ができる会社から内定が出たことを話し、明確に退職意思を告げたそうです。すると上司から「いままでの君の頑張りは評価しているし、今後も非常に期待している。実は来期から待遇面の見直しを考えていたんだ。今後も一緒に頑張ろう!」と、強い引き留めと給与面での待遇アップの提案があったとのことでした。
松本さんの気持ちとしては、待遇の話もうれしかったのですが、それ以上に上司から評価の言葉をもらい、期待しているといわれたことがうれしかったそうです。というのも、松本さんは普段は派遣先で業務に携わっていたので、上司とコミュニケーションを取ることがめったになかったのです。そういう状況であらためて評価の言葉をもらったため、内定を保留したい気持ちになったということです。
松本さんが考えるべきこと
退職活動中に上司からの引き留めに遭い、転職意思そのものがぐらついてしまった松本さんの例について、皆さんはどう思いますか。
松本さんは、以下の2点をもう一度考え直す必要がありました。
1.なぜ転職活動に至ったのか?
どういうきっかけであれ、会社から評価されたことは大変いいことです。給与アップの見込みも出てきたことから、現在の会社に残るという選択肢も尊重すべきだと私も思いました。松本さんもそのように思ったからこそ、内定は保留にできるのかと問い合わせをしたわけです。
ただもう一度、なぜ転職活動に踏み切ったのかをおさらいする必要があると思ったため、一からお話をしました。転職したいと思った理由を1つ1つ確認していくにつれ、松本さんはあらためて転職は必要であると再認識していきました。
短期的に給与が上がったとしても、現在の会社にとどまればいずれ限界を感じることは明白であり、今後のキャリアアップを考えたとき、20代のうちにより上流の工程を経験するメリットは非常に大きいと気付いたのです。評価されてうれしかったのは事実ですが、それも一時の感情的なものであり、本質的なものでないということにも冷静に気付くことができました。
2.退職意思を明確にした後の問題点は?
各企業の考え方、環境などがあるので一概にはいえませんが、一般論で話をします。過去に一度退職意思を示した社員に、会社・上司が大事なプロジェクトを任せるでしょうか。会社の立場からすれば、いまは落ち着いたとしてもまた辞めたいというのではないかと考えてもおかしくないからです。
この点を松本さんに確認すると、現在の会社は社員数が40人弱のオーナー企業であることから、マイナスに思われる可能性が高いとのことでした。
松本さんからは2日後、あらためて連絡を受けました。「最初は評価されたことと給与アップの提案がうれしいという感情からご相談したのですが、よくよく考えてみて自分が何をしたいのか、いま何をすべきかに気付くことができました。すっきりと次の会社へ行く決心ができました!」とのことで、松本さんも無事に新天地へ向けてスタートすることができました。
1人1人で異なる退職活動
転職は1人として同じ環境・同じ考えで進むことはなく、マニュアルに従うようにスムーズにいくこともないと思います。上記の例の2人は、特に初めての転職であったため、退職活動をどのように行えばいいのかが分からなかったのもやむを得ないことです。外部要因に振り回されたり、目的がぼやけてしまったりで迷い、良くない決断をする方もたくさんいます。
判断を誤り、適切な対応ができなかったために損をするのは皆さん自身です。
退職活動は皆さんが思っているほど簡単なことではありません。どのようなタイミングで何をどうすればいいのか、スムーズに行うにはどうすればいいのかなど、迷うことはたくさんあると思います。
そういうときこそ、私どもコンサルタントの出番です。皆さん自身の状況に応じ、膨大な情報から適切なご提案ができる、転職活動のプロです。
ぜひ、マイコンサルタントをご指名ください。
著者紹介
福間啓文
https://www.atmarkit.co.jp/job/ja/ad/ad1.html#6
1969年生まれ、大阪府出身。私立理系大学卒業後、精密機器メーカーにてソリューション提案営業を経験し、2000年にアデコへ入社。現在、IT系人材・ITエンジニアを専門にキャリアコンサルティングを担当。営業としての観点とキャリアコンサルタントとしての経験から、1人1人のニーズをくみ取り的確な情報提供・アドバイスをすることを念頭に転職支援を行っている。
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