「辞めてから転職先探せばいいでしょ」のリスク:転職活動、本当にあったこんなこと(2)(1/2 ページ)
多くのITエンジニアにとって「転職」とは非日常のもので、そこには思いがけない事例の数々がある。転職活動におけるさまざまな危険を紹介し、回避方法を考える。
「転職してキャリアアップしたいが、仕事が忙しく、時間に余裕がないため転職活動ができない。いっそのこと会社を退職してから転職活動を行おうか……」。そんなふうに考えているITエンジニアの方は少なくないと思います。
しかし退職してからの転職活動は、大きなリスクを伴う場合があります。
今回は、退職してから転職活動を行い、キャリアアップ転職に失敗した例を紹介します。
「就業していては就職活動ができない……」
山田さん(仮名)は26歳の社内SE。大手電機メーカーの工場に勤務し、工場内約2000人のスタッフのPC管理および社内ヘルプデスクを担当していました。
リーダーとして工場内のサーバ管理、LANや事業所間の広域イーサネットにかかわる仕事もしていたため、技術にはある程度自信を持っていた山田さん。いずれはサーバ構築やネットワークのスペシャリストになりたいと考えていました。
ところが、サーバ構築やネットワーク関連の業務は本社の情報システム部門が担当。山田さんが在籍する工場の社内SE部門では、PC側のサポートを中心にPCのセッティング、ヘルプデスク、工場内のサーバメンテナンスという限定された業務ばかりです。
入社して6年がたっていますが、状況は変わらないまま。「この会社にいては、自分の目指すネットワーク構築に携わるチャンスがつかめない……」。山田さんは目標に近づけない焦りから、次第に転職を考えるようになりました。
しかし、毎日のように残業をこなす日々。現在の状況では転職活動をしたくても、面接に行く時間も取れません。退職してからであれば十分に時間も取れると思った山田さんは、まずは会社を退職することを決意しました。
上司には強く引き留められましたが、山田さんの決意は固く、退職することになりました。
まさかのキャリアダウン
退職後しばらくは、これまで働き続けた疲れと自由になった解放感から活動らしい活動は行わず、情報誌とインターネットでの情報収集を行う毎日でした。
実際に活動を開始したのは退職後2カ月を過ぎたころからでした。興味がある会社20社程度に応募をし、数社からは面接の連絡を受け取りました。しかし山田さんが本当に就職を希望する企業からは内定をもらうことができません。焦って活動を続けますが、進展のないままとうとう6カ月が経過しました。
この時期になると、応募しても返答のない企業が多くなり、途方に暮れる毎日が続きました。
そんなある日、求人情報誌で見つけた人材派遣会社から希望の職種があると連絡が入り、訪問して話を聞くことにしました。仕事内容は通信事業者の監視業務でしたが、空白の期間を埋めるためにも就業することを決めました。ブランクができたことによる焦りもありましたが、その間に資格でも取得しておけば、転職にも役立つと考えたのです。
派遣業務に従事して1カ月がたったある日、以前応募していた企業から連絡がありました。面接をしたいので来社してほしいというのです。応募していたことすら忘れていた企業でしたが、チャンスと思い、即面接の希望を出しました。
その会社は社員100人ほどの業務請負型のシステム会社。正社員としての採用ですが、派遣形式で客先に常駐するとのことでした。それでも、幅広い経験ができるという点とネットワーク関連業務にも携わるチャンスもありそうなことから、山田さんは入社を決めました。漠然と幅広い業務を経験してキャリアアップすることを想定した決断でした。
ところが、ここからが悲劇の始まりです。入社後山田さんがアサインされた仕事は、大手企業のグループウェアの運用およびヘルプデスク業務。大手電機メーカー在籍時に自分の部下や派遣社員の人に依頼していた仕事です。上司に頼んで半年後には別の業務にアサインしてもらいましたが、今度はさらに技術から離れた運用ドキュメント作成補助の仕事でした。
「このままではキャリアアップどころか、大幅なキャリアダウンになってしまう」。強い不安を感じた山田さんは、再度転職活動をすることを決意したのです。
なぜ、転職に失敗したのか?
山田さんは上記の問題を抱え、弊社に相談にいらっしゃいました。経緯を聞いた私は、一緒に問題点の洗い出しをするとともに、今後の対策について話をしました。
山田さんの転職の失敗について検証すると、以下の3点が大きな要因であると考えられます。
1.焦りのために判断が狂った
転職によってキャリアアップができるという保証はどこにもありません。また、いったん退職してしまうと、時間の経過とともに不安は大きくなります。山田さんの場合、複数社に応募をしたものの内定が取れないという不安が大きく判断を狂わせ、早く決めなければという焦燥感から安易な決断をしてしまったものと思われます。
2.退職後のブランクが影響した
退職から企業への応募まで3カ月ほど空白の期間ができてしまいました。この点を企業から指摘された山田さんは、回答に困ったといいます。この質問をされたばかりに、自分をアピールするはずの重要な面接が台無しになってしまったのです。
面接は企業とのお見合いの場という人もいますが、同時に自己アピールの場でもあります。そのためには、前向きな話題で進める必要があるのです。また、面接時に退職(転職)理由は必ず聞かれますが、こちらも同様に前向きな理由が必要です。
3.不十分な情報収集から安易な決断をした
情報収集不足とキャリアプランの不明確さが、安易な決断の要因と考えられます。情報収集不足は2点あり、1つは自分の市場評価の理解、もう1つはキャリアパスを考えた求人企業の情報収集です。この情報収集によって目指すキャリアに到達できるかどうかを判断する必要があったと思います。もし可能性がない場合、現在の会社に残るという選択肢もあったはずです。
情報収集を行ったうえでキャリアプランを検討し、そのビジョンに基づいて明確にターゲット(企業求人)を絞り、効率的に活動すれば、会社を辞めなくても転職活動はできたかもしれません。
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