「辞めてから転職先探せばいいでしょ」のリスク:転職活動、本当にあったこんなこと(2)(2/2 ページ)
多くのITエンジニアにとって「転職」とは非日常のもので、そこには思いがけない事例の数々がある。転職活動におけるさまざまな危険を紹介し、回避方法を考える。
2度目の転職活動開始に当たって
これまでの反省をふまえ、山田さんは再度転職活動を行うことにしました。ただし、前回のようなことを繰り返してしまっては元も子もありません。今回は十分に戦略を練って活動に臨みました。
まずは心構えとして、下記2点を念頭に活動を開始することにしました。
1.内定をもらうまでは会社に辞意を表明しない
現職では通常どおり業務に従事しながら転職活動をすることにしました。気持ちに余裕を持って活動を行い、内定をもらった企業と現職を冷静に比較検討できる状態でいるためです。最近は優秀なITエンジニアを確保するため、在職中の人への配慮として業務終了後に面接を行う企業も少なくないので、仕事の合間を縫って活動を行うことができます。
2.あくまでキャリアアップするためのチャレンジというスタンスで臨む
山田さんの転職の目的は、PC側中心の経験をサーバ側に移行したいというものです。しかし中途採用市場の現状を見ると、即戦力を求める求人が圧倒的に多く、目指すネットワークエンジニアの採用条件と山田さんの経験には大きな差があります。このことをよく理解し、今回の転職活動はあくまでチャレンジであることを理解し、活動に臨むことにしました。
次に、希望する方向と現在のスキルギャップを埋めることができる企業という視点で、転職先の選択肢を検討しました。
山田さんの経験を受け入れてくれる可能性のある求人企業を多くの求人データから探し出し、それぞれの可能性を考えてみました。
・ネットワークインテグレータおよびその関連企業
大規模なネットワークの運用にかかわっている可能性があり、ネットワーク運用からのスタートになるかもしれませんが幅広いキャリアパスが考えられます。教育制度が充実している企業も多いため、長期にわたるキャリアアップが可能であると考えられます。
・インターネットサービス関連企業
業界自体が拡大しているため常に人材不足感があり、前向きな考えを持つ若手を積極的に採用しています。商用サーバの運用や増設など、業務の中核として活躍できる可能性があります。
・中小規模の社内SE
山田さんの前職は大手企業の社内SEであったため、業務領域が限定されていました。中小規模であれば業務に明確な線引きがない企業もあり、将来的にサーバ構築などのチャンスも考えられます。ただし、システム投資への取り組みがどの程度積極的であるかによってキャリアパスが変わることがあるという点で、十分注意する必要があります。
山田さんの再挑戦
上記の選択肢の中で優先順位を決め、「インターネットサービス企業」「ネットワークインテグレータ」をメインに求人企業を抽出しました。約20社の求人企業から5社を選択し、企業への書類提出を開始しました。
書類選考は順調で、5社の企業に応募し、インターネット系の企業1社、ネットワークインテグレータ3社の合計4社から面接に来てほしいという返事を受け取りました。どの企業にも魅力を感じていた山田さんは、うれしさを隠せないようでした。
今回こそは面接を通過したいという本人の強い思いもあり、心構えや留意するポイントについての面接指導と模擬面接を行い、本番に備えました。そのかいあってか面接も順調に進み、4社とも最終面接を受けることになりました。
最終面接は、インターネット系の企業から始まりました。面接官は取締役事業部長。第一希望の企業ということもあり、事前準備も行い万全の体制で面接に臨みました。
面接終了後、山田さんから状況の報告をいただきました。面接は1時間程度でしたが、感触はあまりよくないようでした。詳しく聞いてみると、退職後のブランクについての質問に対し、前向きな答えが返せなかったというのです。しかもその質問以降、面接官の表情が少し曇ったように見えたそうです。
結果は予想どおりNG。理由はやはり退職後のブランクでした。採用する側からすると長く勤めてもらうことに対し不安であったようです。退職後の転職が、ここでもマイナス要因となってしまったのです。
最終的には第二希望であったネットワークインテグレータの関連会社のサーバエンジニア職の内定をもらい、入社を決めることになりました。
活動を終えた山田さんは、こう語っていました。「第一希望の最終面接で不採用の結果が出たときはとても不安になりました。ただ、前向きに次の面接に取り組めたのは、在職中という点で心にゆとりを持つことができたからです」
退職後の転職活動は、特にキャリアアップを考えている方にとって大きなリスクを伴います。それは気持ちの焦り、妥協や誤った判断によるものが多いと思われます。いままさに退職願いを出そうと考えている方は、特にこれらのことを十分考慮し活動に当たることをお勧めします。
著者紹介
1965年生まれ、滋賀県出身。大学卒業後、人事系コンサルティング会社に就職。人材採用と教育・人事制度関連のコンサルティングに約10年間従事。その後IT専門の人材サーチ会社にて、ITコンサルタントやITエンジニアを中心とした人材のキャリアコンサルタントを約5年経験。アデコに転職し現在に至る。これまでIT業界を中心に2000名以上の転職支援を行っている。
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