情報処理技術者試験、新制度の全貌が明らかに:新・情報処理技術者試験はこう変わる(1)(1/2 ページ)
1969年に開始して以来、40年ぶりの大改訂を迎える情報処理技術者試験。本連載では2回にわたり、制度改定の背景、情報処理技術者試験の目指す方向、新試験制度の出題分野などについて解説する
情報処理技術者試験は、2009年春期から制度改定が行われ、新試験制度へと移行することがすでに発表されています。2008年秋期の情報処理技術者試験が終わったばかりですが、今回は、試験改定の経緯や狙いなど新試験制度の背景を見ることにします。
試験制度改定の狙い
情報処理推進機構(以下、IPA)が発表した「情報処理技術者試験制度見直しの考え方」では、試験制度改定の狙いについて、次の7点を掲げています。
改定のポイントは、共通キャリア・スキルフレームワーク
(1)共通キャリア・スキルフレームワークに準拠した試験制度
(2)共通キャリア・スキルフレームワーク レベル1に対応する試験の創設
(3)ベンダ側人材とユーザー側人材の一体化
(4)組み込みシステムに関する知識・技能の重要性の拡大への対応
(5)高度試験の整理・統合
(6)最新の技術動向を反映して出題範囲の抜本的見直し
(7)受験者の利便性の向上
これらの中でも、(1)の「共通キャリア・スキルフレームワークへの準拠」が今回の制度改定の中核となっています。10月21日に、「共通キャリア・スキルフレームワーク(第一版)」が公開されました。共通キャリア・スキルフレームワークについて詳しくは、後述の「改定のポイントと新試験区分」で説明します。
点試験改定の経緯は、高度IT人材の育成が焦点
今回の制度改定は、経済産業省が推進する高度IT人材育成の基本戦略である「高度IT人材育成プラットフォームの構築」の中の1つの実施策です。この高度IT人材育成に関する議論は、経済産業省の産業構造審議会情報経済分科会情報サービス・ソフトウェア小委員会の下に設けられた「人材育成ワーキンググループ」(以下、人材育成WG)で行われていました(平成18年10月〜平成19年7月)。その検討内容は、IPAの新試験制度審議委員会によって、「高度IT人材への道標 新試験制度審議委員会報告書」(平成19年12月25日)にまとめられています。
人材育成WGでは、今後の産業界を支える高度IT人材育成のために、
- 高度IT人材モデルとスキルの定義、共有
- ITベンダだけでなくユーザーも含めた体系
- スキル獲得の仕組み(育成手法)
- スキルの客観的評価を行う仕組み
を確立する枠組み(高度IT人材育成プラットフォーム)が必要であるとし、高度IT人材像に即した職種(キャリア)とそれに求められるスキルの定義モデル「共通キャリア・スキルフレームワーク」の構築を提言しています。新試験では、この共通キャリア・スキルフレームワークに準拠した評価ツールとなるための見直しが図られています。
ここでいう“高度IT人材”とは、ITサービスベンダなどでシステム開発を行う人材(IT技術者)だけでなく、一般企業でITを戦略的に活用する人材なども含みます。共通キャリア・スキルフレームワークの下では、IT技術者、ITユーザーとなる人材のいずれも共通の枠組みで評価することになります。
共通キャリア・スキルフレームワークの下に、3つのスキル標準を整合化
IT人材の育成モデルとして、すでに3つのスキル標準(ITスキル標準:ITSS、情報システムユーザースキル標準:UISS、組込みスキル標:ETSS)が策定され、活用されてきた実績があります。これまでこれらスキル標準では、対象とする人材が異なり、それぞれが個別に利用されるモデルでした。内容的に共通する点が多いものの、各スキル標準でレベルの整合性を測れるものではありませんでした。
今後、高度IT人材育成プラットフォーム構築の中で、3つのスキル標準は、共通キャリア・スキルフレームワークの下で再構成されます。共通キャリア・スキルフレームワークがこれらスキル標準の共通知識体系となるため、新試験は各スキル標準との統合・整合化が実現される見込みです(図1)。
以下に共通キャリア・スキルフレームワークの概要を示します。
人材モデル
現在公表されている共通キャリア・スキルフレームワーク案では、人材モデルとして3類型、7人材像が定義されています(表1)。詳しく知りたい人は、情報処理技術者試験要綱(2008年10月27日資料)をご覧ください。
人材類型 | 人材像 | 人材像の役割 | 試験 |
---|---|---|---|
基本戦略系人材ITによる課題解決のための基本戦略を立案 | (1)ストラテジスト | ITを活用したビジネス価値の増大をリード | 対象 |
ソリューション人材システムの設計・開発、信頼性・生産性の高い運用 | |||
(2)システムアーキテクト | ビジネス戦略に対する最適なシステムをデザイン | ||
(3)サービスマネージャ | 継続的な高い信頼性を確保しつつ、システムを維持 | ||
(4)プロジェクトマネージャ | 与えられた制約条件(品質、コスト、納期など)下で、信頼性の高いシステム構築を総括 | ||
(5)テクニカルスペシャリスト | データベースやネットワークなど技術ドメインの実装 | ||
クリエーション系人材新しい要素技術を用いて社会・経済的なフロンティアを開拓 | (6)クリエータ | 新たな要素技術の創造などにより社会・経済にイノベーションをもたらす | 対象外 |
そのほか | ITスキル標準のエデュケーション |
情報処理技術者試験は、このうち基本戦略系人材、ソリューション系人材の5人材像を対象にしています。具体的な試験区分の対応は後述します。
スキルセット
共通キャリア・スキルフレームワーク案では、各人材に必要なスキルセットが、テクノロジ、マネジメント、ストラテジの3分野に大別され、表2のように定義されています。
分野 | 大分類 | 中分類 | 小分類 |
---|---|---|---|
テクノロジ系 | 1.基礎理論 | 1.基礎理論 | 離散数学など |
2.アルゴリズムとプログラミング | データ構造など | ||
2.コンピュータシステム | 3.コンピュータ構成要素 | プロセッサなど | |
4.システム構成要素 | システムの評価指標など | ||
5.ソフトウェア | オペレーティングなど | ||
6.ハードウェア | ハードウェアなど | ||
3.技術要素 | 7.ヒューマンインターフェイス | インターフェイス設計など | |
8.マルチメディア | マルチメディア技術など | ||
9.データベース | データベース方式など | ||
10.ネットワーク | ネットワーク方式など | ||
11.セキュリティ | 情報セキュリティなど | ||
4.開発技術 | 12.システム開発技術 | システム要件定義など | |
13.ソフトウェア開発管理技術 | 開発プロセス・手法など | ||
マネジメント系 | 5.プロジェクトマネジメント | 14.プロジェクトマネジメント | PMBOKでいう9つの知識エリアごと |
6.サービスマネジメント | 15.サービスマネジメント | 運用・設計ツールなど | |
16.システム監査 | 内部統制など | ||
ストラテジ系 | 7.システム戦略 | 17.システム戦略 | 業務プロセスなど |
18.システム企画 | 要件定義など | ||
8.経営戦略 | 19.経営戦略マネジメント | マーケティングなど | |
20.技術戦略マネジメント | 技術開発戦略の立案など | ||
21.ビジネスインダストリ | ビジネスシステムなど | ||
9.企業と法務 | 22.企業活動 | 経営・組織論など | |
23.法務 | 知的財産権など |
スキルレベル
共通キャリア・スキルフレームワークは、7段階のレベルが設定されています(図2)。
情報処理技術者試験は、このうちレベル1〜4を判定します。レベル1〜3は試験のみで判定、レベル4は試験と業務経験などで判定します。各レベルのレベル感は、
レベル1:職業人として共通的に備えておくべきITの基本的な知識を取得(エントリ)
レベル2:高度IT人材を目指す者が必要とする基本的な知識・技能を取得(ミドル)
レベル3:高度IT人材となるために必要な応用的知識・技能を取得し、将来の方向性を確立(ミドル)
レベル4:高度IT人材に必要な情報技術と業務に関する高度かつ専門的な知識・技能を取得(ハイ)
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