チームラボ「創造性を高めるオフィス」の秘密:特集:ITエンジニアを変えるオフィス(3)(2/2 ページ)
オフィスにこだわるIT企業は少なくない。特にWeb系の新興企業にその傾向がある。チームラボはその代表格といえるだろう。自社オフィスにこだわり、建築家とチームを組んでオフィスプロデュース事業まで取り組むクリエイター集団。そこに隠された理念を探る。
テクノロジストと建築家のタッグ
こうして自社内にユニークなオフィス空間を構築したチームラボは、この実績をベースにチームラボオフィスを立ち上げ、現在では他社のオフィスプロデュース事業にも意欲的に取り組んでいる。このプロジェクトの中心になっているのが建築家の河田将吾氏である。
建築家といえば建物を作るのが仕事であり、一度建てた物は動かすことができないのが当たり前。一方、IT/Webのエンジニアは、サービスやシステムを開発したら終わりではなく、常に進化させ続けていく必要がある。
同じ「アーキテクト」という言葉を使いながらも、真逆の思想を持っているIT/Web業界と建築業界。それぞれの業界で活躍する猪子氏と河田氏が手を組んでオフィス空間づくりに取り組んでいるのも、チームラボのユニークなところだ。
河田氏は、従来のオフィスを「上司が部下に指示をして、その通りに動けば評価されるというトップダウン構造で仕事をするための空間」であると語る。情報化社会が進展する中でクリエイティブな発想が求められるIT系の企業は、そのようなオフィスのままでは新たなサービスを創造していくことが難しいのではないか。それが河田氏の問題意識だった。
「チームラボのフラットな組織や創造性を追究するエンジニアの姿勢を見て、大きな刺激を受けたんです。一緒に新たなオフィス空間づくりにチャレンジしたいと強く感じました」(河田氏)
オフィススペースは一転して落ち着いた雰囲気。黄色はエントランスやミーティングスペースには向いているが、集中して仕事をしたいときには適さないからだ。島はプロジェクト単位で構成されており、異なる職種が入り混じる。
エントランスで会社を好きになってもらう
チームラボの最新のオフィスソリューションとして、受付システム「Face Touch」がある。このシステムは、タッチパネルディスプレイに全社員の顔写真を表示し、来訪者が打ち合わせをする担当者の顔写真をタッチすると、メッセンジャーを使って直接担当者を呼び出す仕組みだ。ディスプレイには社員の出身地や趣味、好みなどが表示されるため、待っている間に「どんな人なのか」を知ることができる。
オフィスをデザインする際、多くの企業がエントランスに費用と手間をかけて、お客さんに対して自社のイメージをアピールしようとする、と猪子氏は語る。猪子氏の考えるエントランスの役割は、それとは異なる。
「エントランスの役割は、その会社を好きになってもらうことです」(猪子氏)
人間は、他人のことを知れば知るほど好きになる習性があるといわれる。エントランスで社員の顔写真や趣味などの情報を提供することで、社員についてよく知ってもらい、会社のことが好きになるきっかけづくりに役立てよう、というのがFace Touchの狙いだ。このシステムはチームラボでの自社運用はもちろん、すでに大手企業のエントランスに採用されることが決まっているという。
情報化社会に適応したオフィスを
なぜIT/Web企業であるチームラボがオフィスプロデュース事業に取り組んでいるのか。猪子氏は「自分たちで考えて、実験して、うまくいったことは、共有したいじゃないですか!」と笑う。
「オフィス空間を設計する企業や人の中で、情報化社会にドップリつかっている企業や人は、非常に少ない。情報化社会になって、社会や組織が大幅に変わり、オフィス空間に求められていることが大幅に変わりつつある。そういった状況下で、高付加価値を創出することが重要な企業は、情報化社会に合った、社員の創造性を高められるオフィスを目指すべきですよ」(猪子氏)
将来的には、オフィス空間もインターネットの一部になる、と猪子氏は予測する。オフィスの壁に埋め込まれたディスプレイからさまざまな情報が配信され、全社員がリアルタイムに同じ情報を共有できる――そんなビジョンを猪子氏は語り続ける。しゃべり始めると止まらない。エンジニアにとって理想のオフィス空間を目指して、チームラボの挑戦はこれからも続く。
昨日の日本IBM、そして今日のチームラボ。ひとくちに「IT企業」「ITエンジニア」といっても、まったく異なる「オフィス」と「働き方」を紹介した。
だが、こう思っている読者がいるのではないだろうか。「現実のオフィスはそんなにいいもんじゃない。うちのオフィスは普通のオフィスだよ」と。
そんなあなたのために、明日は「エンジニアライフ」のコラムニストたちが考える、「等身大のエンジニアによるオフィス攻略術」をお届けする。
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