オフィスにこだわるIT企業は少なくない。特にWeb系の新興企業にその傾向がある。チームラボはその代表格といえるだろう。自社オフィスにこだわり、建築家とチームを組んでオフィスプロデュース事業まで取り組むクリエイター集団。そこに隠された理念を探る。
Webデザインからシステムインテグレーション、独自技術を駆使した次世代検索エンジンの開発、さらにアート活動まで幅広い活動を展開しているチームラボ。IT/Webビジネスの最先端をいく同社だが、一方で、エンジニアが働くオフィス空間の重要性に着目し、いままでの常識にとらわれないユニークな発想のオフィスづくりにチャレンジしている。
実際にチームラボのオフィスを訪問すると、エントランスには社員を紹介するCDジャケットが黄色の壁にズラリと並ぶ。このディスプレイを見ただけでも従来のオフィスにはないこだわりが感じられる。
オフィス内は赤、青、黄といった原色を使ったカラフルな色使いが印象的。さらに、間仕切りのない広い空間に設けられたミーティングスペースには、パーツによって自由な形に組み立てられる棚や、机の上がメモ帳になっているテーブルなど、ユニークな家具が並び、チームラボならではの斬新なオフィス空間を具現化している。
一般的に、IT/Web企業におけるITエンジニアは、それぞれが個別で開発に没頭するという働き方が中心となりがちだ。ネットワークが高度化した現在、1カ所のオフィスにいなくとも、場所を問わず開発を進めることが可能となっている。そうした中で、テクノロジ集団であるチームラボがあえて“オフィス”にこだわる理由はどこにあるのだろうか。
「すべてのエンジニアが高い創造性を持って開発に取り組める環境づくりを追究しています」
チームラボ 代表取締役社長の猪子(いのこ)寿之氏はそう語る。新しいものを生み出そうとするとき、1人で考えるよりも、専門が違う人や、価値観が異なる人と空間を共にして、一緒になって考えた方が確実に創造性は高まる。そのためにも、エンジニアが1つの場所に集まるオフィス空間は、チームラボにとって非常に重要な意味を持つ。これが猪子氏の考えだ。
猪子氏のオフィス空間へのこだわりは、エンジニア同士の情報共有を活発化し、創造性を高めていくことが大きなポイントとなっている。その背景として、「情報化社会の進展に伴い、さまざまな領域で境界線が曖昧(あいまい)になり、相互関係がより複雑化してきている」(猪子氏)ことを挙げている。
例えば次世代携帯電話におけるデザインとテクノロジの境界線。以前であれば、デザインとテクノロジ、それぞれの専門家が別々に開発を進めていけばよかった。だが、例えばiPhoneのようなプロダクトは、デザインのほとんどがインターフェイステクノロジで構成されており、デザインとテクノロジの境界線を明確に切り分けることは難しい。
「より高度な専門性が求められている。一方で、プロダクトを作る場面では、はっきりとした境界線を引くことができない。1人のエンジニアがすべての領域を深く理解することは不可能でしょ。だから、1人が浅く広い知識を持って考えるより、それぞれの領域で深い知識を持っている専門家が集まって、お互いに知識を出し合って、情報共有をしながら1つのプロダクトを作り上げていく方が、創造性も生産性も高まるはずなんですよ」(猪子氏)
猪子氏は、時に熟考しながら、言葉を選びつつ話す。独特の語り口だ。
ミーティングスペースなどで直接会って話し合いをすることは、インターネット越しで情報をやりとりするよりも、共有できる情報量がまったく違う、とも猪子氏は語る。本質的に知りたいこと以外の情報もどんどん漏れ伝わってくるが、それが新しいものづくりのヒントになることもあるという。ものづくりにおいてオフィス空間を共有することの大切さを猪子氏は強調する。
さらに、猪子氏は「人と会うことや、目の前に人がいるっていうのはエンターテイメント」といい切る。山の頂上に登れば誰もがすがすがしい気分を感じる。風呂に入れば誰もがさっぱりして気持ちいいと感じる。こうした感情は理性ではコントロールできないものだが、空間の影響を受けると、簡単にみんな同じような感情を引き起こす。それだけ、空間が人間の感情に与える影響力は大きいのだ。
人間はあらゆる生き物の中でも、特に環境依存性が極めて高い、と猪子氏は協調する。
「例えば、人間がオオカミに育てられるとオオカミになってしまうじゃないですか。そんな生き物、ほかにはいないでしょ。だからこそ、オフィス空間にはこだわりが必要なんです。エンジニアの創造性を高めたいのであれば、その感情に訴えかけるようなオフィスづくりをする必要がある。チームラボの取り組みが最善の解とは思っていませんが、1つの方向性を示すことはできたと思っています」(猪子氏)
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