ネットワークの発展によって、ナレッジワーカーはどこにいても仕事ができるようになった。オフィスにこだわる必要はなくなったのだ。だが、本当にエンジニアはオフィスに縛られることなく働くことができるだろうか。日本IBMの事例から、「エンジニアの働く環境」について考える。
ITエンジニアにとってオフィス環境は仕事の生産性を左右する重要な外部要因だ。だが、すべてのITエンジニアが自社のオフィスにこもって仕事をするわけではない。「客先常駐」に代表されるように、自社オフィスだけがエンジニアのワークプレイスとは限らない。
客先が仕事の現場であるITエンジニアの場合、自社オフィスに席を構えるのは非効率的だ。ならばいっそ、オフィスに戻らないことを前提としたワークスタイルを採用すればどうか。それを実践しているという日本IBMに話を聞いた。
「わたしたちのチームのうち約半数のエンジニアは、このオフィスにはほとんど来ません」
同社 GTS・MTS事業理事 梅林悟氏とMTS事業・STSS System z 統括部長 加藤健司氏の両名は、豊洲オフィスの会議室でそのように語った。彼らの部署は顧客のハードやソフトのメンテナンスを主な業務としている。半分は豊洲オフィスに席を構えてリモートで対応するバックエンド、そしてもう半分が顧客の元で対応するフロントエンドのエンジニアたちだ。
ある特定の顧客のオフィスに常駐するエンジニアもいるが、多くは複数の顧客を掛け持ちで担当している。あっちの顧客からこっちの顧客へ。わざわざ豊洲オフィスに戻るのは手間でしかない。
同社では1999年から「モバイルオフィス」や「サテライトオフィス」と呼ばれる仕組みを取り入れている。東京都内だけでも7拠点、主要ターミナル駅近くに1室ずつ「オフィス」を構える。飛び回るエンジニアは、道中そこに立ち寄ってデータベースへのアクセスなどが可能だ。
原則、豊洲オフィスに来なくても仕事が回るだけの環境を整備している。そのため極端な例でいえば、豊洲オフィスに来るのは1カ月に1回、というエンジニアもいるという。
ネットワークさえつながれば、オフィス以外の場所でも仕事はできる。だが、課題がないわけではない。一番難しいのはコミュニケーションの問題だ。
「チーム間での意思疎通や、マネジメントなどの課題があります。そこで1カ月に1回、顔を合わせたミーティングを行っています」
さすがにまったく顔を合わせないわけにはいかない、と両名は語る。チームごとに地域または業種単位で顧客を担当することになるのだが、チーム間の連携や、バックエンドとの連携は必須だ。オフィスに縛られない働き方だからこそ、顔を合わせたミーティングは重要性を増す。
そのほか、「eミーティング」と呼ばれるWeb会議を採用している。通常のミーティングであれば自宅から、あるいはサテライトオフィスからの参加で問題ない。ただし、顔を合わせないミーティングとなると、ファシリテーターの技量が試されるところだ。
サテライトオフィスを活用した働き方を導入して、顧客からの評価が上がった、と加藤氏は語る。
「フロントエンドとバックエンドの密なコミュニケーションの結果だと思います。ただネットワークにつながっているからといってフロントエンドのモバイル化だけを進めても、こうはならなかったでしょう」
なるべくオフィスに縛られることなく、柔軟に外へとワークプレイスを開放するために、逆説的ではあるがコミュニケーションを重視する。特に、顔を合わせたコミュニケーションは「非常に重要」なのだという。
もともとフロントエンドとバックエンドは別の部署だったが、2008年に同じ組織へと体制変更を行った。
「外を飛び回ってオフィスに戻ってこないからこそ、オフィスにいる人間との仲間意識を構築する必要があったんです」
梅林氏は「時代と逆行しているようだけど、実はここが一番重要なんです」と語る。
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