狭いフロア、お客さんの目が気になる常駐先、暑すぎるオフィス。働く環境が悪ければ、あきらめるしかないのだろうか。自分の働く環境を改善するための、ちょっとした工夫や考え方を紹介する。
特集「ITエンジニアを変えるオフィス」では、オフィスが従業員に与える影響を解説し、日本IBMとチームラボという、文化がまったく異なる2社のオフィス事例を紹介してきた。
だが、こう思う読者は少なくないだろう。「現実のオフィスはそんなにいいものじゃない。結局、普通のオフィスで仕事をするしかないんだ」と。
とはいえ、あなたが働いている「普通のオフィス」でも工夫次第で仕事環境を改善することは可能だ。今日は身近な話題として、エンジニアライフのコラムニストたちによる「オフィス攻略術」を紹介しよう。
「開発部なんで、1人ずつパーティションで区切られた、広いスペースで開発しているのかと思いました」
某メーカー系グループ会社に勤めるITエンジニアのホリススム氏は、新入社員にこういわれたという。実際のところ、そんなオフィスはそれほど多くない。
だが、ホリ氏は自社の開発フロアについて、「ドラマの世界からは程遠い光景だが、同僚とのコミュニケーションを円滑に行える」と評価する。事務フロアでは、みんなパソコンをデスクの上に置き、それが「疑似パーティション」となって隣席との間に壁を作っているという。だが、開発フロアは狭い空間でサーバ類を優先したレイアウトを採用しているため、人間は隅に追いやられている。必然的に、開発者同士の距離は近くなる。
「今までの経験上、開発者同士の関係が良好なプロジェクトはかならずうまくいく」とホリ氏は語る。狭くて窮屈なオフィスには、こうした見逃せない効用が存在するのだ。そうした気付きを得るだけでも、今のオフィスに対する愛着が沸いてくるのではないだろうか。
それでも、どうしてもオフィスを変えたいと思ったらどうするか。大企業では難しいが、小さな会社なら可能性がある、と語るのは『ベンチャー社長で技術者で』の生島勘富氏。
「小さな会社なら、社長を口説くだけで会社を変えられる」と、自らも社長である生島氏は語る。自社に対して、費用対効果を説明して提案できるようになれば、オフィス環境を変えることはそんなに難しいことではない。これは顧客に対して何かを提案するための練習にもなる。
小さな会社のメリットは「社長を口説けば、大手ではあり得ない環境を得られる可能性がある」という点にある、ということだ。本特集の記事などを活用して、オフィス環境の重要性を訴えるところからスタートしてみるといいだろう。
ITエンジニアのワークスペースは自社オフィスに限らない。「客先常駐」という形態が存在するからだ。自社オフィスならばまだ可能性はあるが、常駐先のオフィス環境を変えるのはほぼ不可能である。だが、「常駐はお客さんの目が気になって落ち着かない」というITエンジニアは少なくないだろう。常駐エンジニアはどうすれば快適な仕事環境を得ることができるのだろうか。
『息の長いエンジニアでゆこう』のヨギ氏は「作業場所を聖域にする」という方法を提案している。
デスクに植物を置き、デスク上を「ベッドメイキングの直後」のように常にきれいな状態に保つ。これにより、周りの人間に「その場所を大切にしている」という印象を与えようというのがねらいだ。「そこは勝手に触ってはいけない領域に見える」ようになる。これをヨギ氏は「聖域」と呼んでいる。
これにより、ケーブルなどを勝手に持っていかれることもなく、自分の作業スペースを暗に主張し、快適に仕事ができるようになる、とヨギ氏は語る。
@IT自分戦略研究所 会議室には、常駐エンジニアに関して、はなずきん氏から次のようなアイデアが寄せられた。
「自分が会社の代表だと思い込むことかなぁ? 適度な距離感とか、会社としてどう振舞えばいいのか? とか考えて関係を構築すると、引き継ぎを行う場合もスムーズにいくので。あとは、お互いを立てた接し方をするのは、常駐であろうがなかろうが大事だと思います!」
客先常駐エンジニアは、自分が「会社の代表である」という意識を持って関係を構築すべし。それが「快適な仕事環境」への第一歩であることは間違いないだろう。
若手システムエンジニアのあずK氏は「自分の名刺を机に置く」という工夫をしている。ちょっとしたことだが、モチベーションに大きな影響を与えているようだ。
以前、今の部署にヘルプ要員として参加していたときに、「この部署の正式なメンバーとして仕事がしたい」と考えていたというあずK氏。その後、晴れて正式メンバーとして迎えられたのだが、よく目にする場所に名刺を飾ることによって、「自分はこの会社のこの部署のメンバーとして仕事をしているんだ、というアイデンティティを再認識し、モチベーションが上がる」のだという。
会社や部署への帰属意識は人によって温度差があるだろうが、「環境を工夫することでモチベーションを上げる」というのは、手段としては簡単であり、興味深い。試してみてはどうだろうか。
オフィスで働くITエンジニアを、2人のコラムニストが違った視点からそれぞれ別の動物にたとえている。第3バイオリン氏は「渡り鳥」、ひでみ氏は「回遊魚」を例に出す。
テストエンジニアである第3バイオリン氏は「テストエンジニアはオフィスの渡り鳥だ」と語る。テストチームは人の出入りが他部署に比べて激しく、メンバー構成が短期間で変わる。また、テストチーム自体の立ち上げと解散は開発プロジェクトの「栄枯盛衰」に左右される。結果、テストエンジニアは頻繁に座席の引っ越しを行うことになる。
引っ越しは煩わしい作業だが、「荷物整理」と「気分転換」という2つの効用を持つ、と第3バイオリン氏は語る。また、引っ越しは荷物の整理だけでなく、担当業務の整理をも意味する。定期的にテストチームを移籍し、開発プロジェクトを遍歴する姿は「渡り鳥」そのものであろう。渡り鳥生活は、必ずしも悪いものではなさそうだ。
ひでみ氏は、常駐先の社員が自社の男性エンジニアを「回遊魚」と呼んでいた、というエピソードを紹介している。ノートパソコンと仕様書とプリンタ用紙を抱えてフロアを走り回る様が「回遊魚」に見えたのだろう。また、徹夜明けでソファに寝ている姿が「市場のマグロみたい」だったのも一因だったようだ。見た目を気にする余裕などはなかったのだろう。少し気の毒である。
最低限の快適ささえあれば、素晴らしいオフィスでなくても良い、と考えるエンジニアは多いはずだ。しかし、「最低限の快適さ」すら存在しないことがある。
『ワーク×ライフ・エンジニアリング』の逆転仕事術氏は「オフィスが異常に暑く、『酸っぱい』においがする」と嘆く。汗のにおいだ。ひどい場合は「酸っぱさ酔い」で体調を崩す人が現れるという。
特集第1回で佐藤浩也氏が指摘したとおり、執務環境(安全性/清潔さ、空気環境、音環境、光環境)など基本的要素に顕在化した不満があると、それ以上のどんな施策も意味を持たない。最低限の快適さがなければ、オフィスにどんな工夫をしようが意味がないのである。この場合、社員1人ひとりが声を挙げる必要がある。最低限の環境を整備するのは企業の責務であろう。
素晴らしいオフィスでなくとも、ちょっとした工夫や考え方で働く環境を改善することはできる。その上で、より良い環境を求めて自社にさまざまな施策を提案していこう。
特集最終回となる明日は、日本伝統の「島型オフィス」の妥当性を再検討し、ナレッジワーカーに最適なオフィス空間を考える。
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