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退職を引き止められたときの「落とし穴」にご注意転職活動、本当にあったこんなこと(31)(1/2 ページ)

多くのITエンジニアにとって「転職」とは非日常のもので、そこには思いがけない事例の数々がある。転職活動におけるさまざまな危険を紹介し、回避方法を考える。

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 転職は、自分の希望をかなえるためにするもの。ただし、転職活動は自分自身だけではなく、相手企業や現職の企業、職場や周囲の人間関係などに影響を及ぼします。希望企業の内定を得て、いざ退職しようとするとき、周囲の人たちとの関係から、迷いが出てくることが多いようです。

 今回は、見事内定を取ったあとについてお話ししたいと思います。

 偶然にも同じような経験、同じような希望を持った2人が、転職活動で異なる結論を出した事例を見てみましょう。この2人が、後にどのように変わったかをご紹介します。

よく似た2人

 田中さん(仮名)は28歳のITエンジニア。5年半の経験を持ちます。社員150人程度のシステム開発会社に在籍し、主に製造業や流通小売系企業向けのシステム開発に従事してきました。

 着実に業務を行い、経験を積んできましたが、多くの仕事が2次請け・3次請けの仕事でした。このままでは開発の上流工程から携わることができないと考えた田中さんは、30歳を前に、上流工程から携われるような企業を目指して転職活動を始めました。


 山田さん(仮名)は27歳。社員200人弱のシステム開発会社に5年在籍し、金融系企業向けのシステム開発に従事してきました。

 山田さんの企業も同様に2次請け・3次請けの仕事でしたが、山田さん本人は開発の上流工程やコンサルティング業務がしたいと考えていました。かくして、希望する業務を行っている企業に移ろうと転職活動を始めました。

 2人は、これまでのキャリアも、これからのビジョンもよく似ていました。両者とも年齢相応にしっかりと実績を積んできており、向上心を持っていました。

 筆者は2人に、それぞれの希望に見合うような企業を数社、紹介しました。複数の企業にチャレンジし、苦労はしましたが、2人ともそれぞれが希望していたキャリアパスを築くことが可能な企業から内定をもらうことができました。

「残ってくれないか」という言葉

 2人とも、希望していた企業から内定をもらい、入社に向けての喜びと期待に胸を膨らませながら、現職の企業に退職を伝えることになりました。

 ところが、ここから2人の歩む道が分かれていきます。

 田中さんは内定をもらってとても喜んでいましたが、同時に心配なことがありました。田中さんの上司はとてもパワフルで、部下に対する厳しい口調の叱咤激励が目立つ人でした。田中さんも、仕事をしていて怒られることが多かったようです。そのため、田中さんは退職の意向を伝えたら何かをいわれるのではないかと思い悩み、なかなか退職を伝えられずにいました。

 田中さんは何度もシミュレーションをした上で、いよいよ上司に退職を伝えることにしました。ちょうど年度末、成果について上司と話し合う機会があったのです。田中さんはいつものように怒られる覚悟をしていました。ところが、退職の気持ちを聞いた上司からは意外な言葉が発せられました。

 「君にはとても期待していたんだ。とてもよくやってくれているから、査定を上げるつもりだ。今後、直請けの仕事も少しは入ってくるだろうし、うちの会社に残ってくれないか?」

 思いがけない言葉に、田中さんの気持ちは揺れました。

 「……じゃあ、もう少し考えてみます」

 話し合いから数日、上司から声をかけてもらい、気を使われているのを田中さんは感じました。会社や上司に対して、情のようなものがわくのを抑えられませんでした。

 (自分って、意外と評価されていたのか……。上司からそんなふうに思われているんだったら、辞めないでいようかな……)

 悩んだ末に田中さんが出した答えは「現職に残る」というものでした。

 「現職で直請けの仕事に携われることになりそうですし、給与も上げてもらえるとのことなので、内定を辞退します」

 その気持ちを聞いた筆者は、現職に残ったときのリスクを伝えて再度、よく考えてもらいましたが、田中さんの現職に残るという強い思いは変わらず、内定を辞退することになりました。

 強い決意を持って現職での業務に取り組むことにした田中さん。しばらくの間は新たな気持ちで仕事をしていましたが、業務の内容は特に変わらず、伝えられていた直請けの仕事はほとんど入ってきませんでした。

 時間が経ち、部署異動となった田中さん。異動先の上司には田中さんが退職を考えていたことが伝わっており、上司からは

 「俺の部署にいる間は退職なんてするなよな」

などと釘を刺されてしまいました。重要なプロジェクトを担当させてもらえず、信頼を受けているようには思えませんでした。

 (こんなはずじゃなかったのに……)

 1年後、田中さんは再び転職活動をすることになりました。

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