IT企業でエンジニアに求められる能力とは?:情報系学生のためのIT業界入門(3)(2/2 ページ)
就職活動を行ううえで欠かせない「業界研究」。学生にとっては非常に分かりづらいIT業界について、新人社員の行貝くん、色主さんと一緒に学んでいこう。
経済産業省の外郭団体、「独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)」は、ITエンジニアの職種やスキルについて、図1のようにまとめています。
ここで紹介されている職種のうち、プロジェクトマネージャはシステム開発プロジェクトの管理、ITコンサルタントは情報システムの要件定義、ITアーキテクトはシステム基盤の選定・設計、ITスペシャリストは要素技術の問題解決を担います。
システムの要素技術を追究するITスペシャリストやシステムの全体設計や最適化を担うITアーキテクトは、専門職種として一定規模以上の企業にしか置かれていないことが多いため、一般には「狭き門」です。プロジェクトマネージャやITコンサルタントなどは、多くのシステム開発プロジェクトで求められますが、技術に関するスキルだけではなく、顧客企業のビジネスや業務の知識に基づいて要件を正しく把握する能力も必要になります。もっとも、すべてのITエンジニアがこうしたキャリアパスを歩まなければならないわけではありませんが。
なるほど、だからITエンジニア向けの業務知識や業界知識といった研修が、うちでも行われているのですね。
技術メインで勝負していくのは狭き門なんですか? 「生涯一プログラマ」として生きる道にあこがれていたんだけどなあ……。
でも、アメリカなんかだと、生涯一プログラマという人も結構いますよね。
もちろん、日本でも海外でも、生涯一プログラマとして働くのが不可能なわけではありません。特にアメリカではそうした人が多くいます。前回お話ししたように、欧米には自社のソフトウェア製品を開発・販売する企業が多いからです。
マイクロソフトやオラクルといった自社のソフトウェア製品を開発・販売する会社は、多くのプログラマを抱え、開発業務を基本的に社内で行っています。こうしたソフトウェア製品の開発者には、ハードウェア、OSやミドルウェアなどの基幹ソフト、そしてネットワークやデータベースに至るまで、幅広い分野の知識が求められるのです。
じゃあ、生涯一プログラマとして生きることも……。
当然可能です。例えば、Windows NTの開発総責任者を務めたデビッド・カトラーさんというマイクロソフトのエンジニアは、2005年時点でまだバリバリの現役プログラマとしてOSのコードを書いていたみたいですよ。ただ、ソフトウェア製品を開発・販売する企業にも、ソフトウェア製品開発の責任者である「プロダクトマネージャ」や開発部門の総責任者など、より管理業務に重きを置いた職種も存在します。
待遇はどうなんですか?
できるエンジニアの数がその企業の競争力を決定するので、マイクロソフトやグーグルには年収2000万円クラスのエンジニアもごろごろいるみたいです。
最近、アメリカの公正取引委員会の勧告で、アップル、グーグル、マイクロソフトなどの大手IT企業間で結ばれた「社員の引き抜き防止協定」が破棄されたことからも分かるように、各社、スターエンジニアの確保に懸命です。ただし、できるエンジニアは好条件が提示される一方で、できないエンジニアはそもそも雇ってもらえないようですけど。
技術で勝負したければ、グーグルやマイクロソフトなどに就職するしかないんですか?
いやいや、必ずしもアメリカに行く必要はありませんよ。日本でも最近、技術メインで勝負したい人を積極的に雇おうとしている会社が増えています。
え、どこですか?
グリー、DeNA(ディー・エヌ・エー)、ドワンゴ、ミクシィなどのWebサービス事業者です。こうした企業は、基本的にシステムやアプリケーションを自社で開発しており、優れたサービスを素早く実装することが企業の競争優位性につながるため、優秀なエンジニアの採用に力を入れています。こうした会社では、生涯一プログラマとして生きる道も珍しくありません。
ただし、こうした企業は、エンジニアについては特にスキルの高い人や素養のある人を選抜して採用しているので、社員数はそれほど多くないようです。逆にいうと、優秀なエンジニアでなければ、自ら要件を定義し、設計・開発・テストしてリリースした後、メンテナンスしながらバージョンアップしていくことはできない、ということです。
一方で、ソリューション型サービスを提供する企業であっても、顧客の要件をシステムの要件に落とし込んでいく上で当然、技術力が求められます。そのためには「常に新しい技術を勉強し、追い求め続ける」という姿勢が欠かせません。ソリューション型には技術力も含めた総合力が求められるといえるでしょう。
飛び抜けた1つの能力で勝負するか、総合力で勝負するか……いろいろな道があるんですね。
では次の講義では、システム開発のマネジメントについて少しお話をすることにしましょう。
筆者プロフィール
イノウ
さまざまな業界や会社のことを、Webと書籍の連動で「分かりやすく」解説することを目指しています。さまざまな業界の企業を業態やキーワードごとに検索可能なWebサイト「業界地図 2012」を近日オープン予定。
著書紹介
『世界一わかりやすい IT(情報サービス)業界の「しくみ」と「ながれ」』 (amazonへのリンク)
イノウ 編著
行貝くん、江水くん、冠里さんをはじめとするキャラクターが解説するさまざまな業界の「入門書」。IT業界を「分かる」ために必要な「業界の知識」「会社の知識」「業務の知識」「基本の知識」を提供。
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