グローバル人材の“優秀さ”とは何か――複雑化した「グローバル」という言葉を読み解く:海外から見た! ニッポン人エンジニア(8)(1/2 ページ)
時代を読む力は、生き残れるエンジニアの必須条件である。本連載では、海外と深い接点を持つ人物へのインタビューをとおして、IT業界の世界的な動向をお届けする。ITエンジニア自らが時代を読み解き、キャリアを構築するヒントとしていただきたい。
あるときは案件があふれ、またあるときは枯渇して皆無となる……。「景況感に左右されないエンジニアになるためには、どうすればいいのか」。これは多くのエンジニアにとって共通の課題であろう。
時代を読む力は、生き残れるエンジニアの必須条件だ。
2009年11月からスタートした「海外から見た! ニッポン人エンジニア」では、グローバルに特化した組織・人事コンサルティングを行うジェイエーエス 代表取締役社長 小平達也が、海外と深い接点を持つ人物へのインタビューを通じ、世界の経済・技術動向、文化や政治などの外部環境の最新状況を掘り下げていく。
今回は、特別回として「グローバル人材の“優秀さ”とは何か」というテーマを考える。「グローバル人材」という多様な意味を持つ(最近ではバズワード化しつつある)言葉を定義し、グローバル人材に求められる能力を分類して考察する。
二極化(ツインピークス化)するグローバル志向
●新入社員や若者が内向き志向であるという神話
2010年度新入社員を対象としたグローバル意識調査において、およそ2人に1人が「海外で働きたいとは思わない」という結果が出た(産業能率大学「新入社員のグローバル意識調査」)。
ここから、いわゆる「内向き志向の若者論」が展開されているのだが、果たして本当にそうだろうか? 同調査では「どんな国・地域でも働きたい」という回答が過去最高の27%、「国・地域によっては働きたい」が24%と、実は高い海外志向を持つ層も3割ほど存在する。世間的には若者の内向き志向が注目されているが、半数は海外志向を持つ若者なのである。
従って、本当の問題は若者の内向き志向ではなく、グローバル志向が「正規分布」としての理解ではとらえられなくなっていることにある。海外への興味が二極化しており、いわば「ふたこぶラクダ(ツインピークス)」になっているのである。
●役職ごとにも差が出るグローバル志向
実は、このグローバル志向の二極化(ツインピークス化)は若者だけの話ではない。産業能率大学が行った「ビジネスパーソンのグローバル意識調査」によると、「今後海外で働きたいと思うか」という質問に対し、海外で働きたいと思う層は全体の3分の1であった。役職別に見ると、部長クラスでは「海外で働きたいと思う」が57.1%と半数を超える一方、役職が下がるほどこの割合も下がり、一般社員では29.3%にとどまった。
グローバル志向の高い人間が組織で高いポジションに就くという能力的側面、役職が高くなればなるほどチャンスと脅威がクリアに見えるという認識力的側面が合わさった結果だろうと推測できる。
外国人社員の採用は、ほぼ倍増だが……
上記は、日本人に関する話だが、日本で働く外国人社員の状況はどうか。外国人留学生が日本国内で就職する内定率は増加しており、2008年には1万1040人と過去最高となった。リーマン・ショックの影響を受け2009年には9584人となったものの、1999年の2989人と比較すると、この10年間に日本で就職する留学生数は実に3倍以上となっている(法務省入国管理局 「平成21年における留学生等の日本企業等への就職状況について」)。
また、ディスコが2010年8月に行った「外国人留学生の採用に関する調査」によると、2010年度に外国人留学生を「採用した」企業は予定を含め全体の11.7%とわずかに1割を超える程度だが、2011年度の見込みについては、「採用する」企業が21.7%と、ほぼ倍増するという。特に、従業員1000人以上の大手企業では、3社に1社が留学生の採用を予定しており、外国人留学生に対する採用意欲が強まっている。
だが、筆者の実感値としては、同じ外国人留学生でも「1人で複数の内定を獲得する学生」と「まったく内定がもらえない学生」に二極化しているようだ。
筆者は先日、日本経団連の教育問題委員会企画部会にて、これらの点を指摘した。「グローバルに活躍できる人材」という意味では、日本人・外国人という国籍を問わず、二極化しつつある。
皆がいう「グローバル人材」の定義とはそもそも何か?
「グローバルに活躍できるか否か」が日本人・外国人を問わずに二極化しつつある現状について紹介したが、「グローバル人材」の定義、そして対象とは何だろうか。
皆、口々に「グローバル人材」「グローバル化に対応できる人」と発言しているが、実は多くの企業が「グローバル人材」をそれぞれ異なった意味でとらえている。そのため、まずは自社にとって「グローバル人材」がどこに位置するか、きちんと把握しておく必要がある。
「グローバル人材」の対象としては、以下の6種類に分類できる。
- 日本人社員のグローバル化
- 外国人留学生などの海外人材
- 受け入れ出向社員(インパトリエット、逆出向)
- 海外赴任者(エクスパトリエット)
- 現地社員
- 現地社員(第三国で活用)
このように、企業によってそれぞれ異なる「グローバル人材」の定義であるが、文部科学省と経済産業省が共同で事務局を務める「産学人材育成パートナーシップ グローバル人材育成委員会」の報告書では、以下のように定義している。
「グローバル化が進展している世界の中で、主体的に物事を考え、多様なバックグラウンドをもつ同僚、取引先、顧客等に自分の考えを分かりやすく伝え、文化的・歴史的なバックグラウンドに由来する価値観や特性の差異を乗り越えて、相手の立場に立って互いを理解し、更にはそうした差異からそれぞれの強みを引き出して活用し、相乗効果を生み出して、新しい価値を生み出すことができる人材」
※文部科学省・経済産業省「産学人材育成パートナーシップ グローバル人材育成委員会 報告書」より引用
やや冗長な向きもあるが、グローバル人材に対する必要用件を網羅的に記述すると、こうなるのだろう。一方、グローバル人材に求められる姿や能力について日本経済団体連合会の「2010年人事・労務に関するトップ・マネジメント調査」では以下のような回答が挙げられている。
●グローバル人材に求められる資質として、とりわけ重要だと考える資質
- さまざまな価値観を持った従業員と意思疎通を図ることができるコミュニケーション力(35.2%)
- 変化し続ける時代を見極め、常に問題意識を持ちながら働くことができる課題解決力(26.4%)
- 多様な属性を持った従業員をリードすることができるリーダーシップ力(23.5%)
- 机上で物事を考えるだけでなく、実際の行動に移すことができる実行力(13.1%)
- 特定領域(経理、法務、財務、知財等)に関する専門的知識(0.5%)
「グローバル人材」に求められる能力を分類
さらに、グローバル人材に求められる能力について掘り下げていこう。上記の図は、グローバル人材に求められる能力として、
- グローバルな要素としての リーダーシップ・マネジメント能力
- グローカルな要素としての語学・対話力
- 地域・国依存の要素としての異文化適応力
を記したものである(エーオンヒューイット ジャパンの資料に筆者が加筆)。求められる3つの能力について、詳細は以下のようになる。
(1)リーダーシップ・マネジメント能力
- チーム形成
- ファシリテ—ション
- コーチング
(2)語学力・対話力
- ビジネス英語
- 現地言語
- プレゼンテーション
- ネゴシエーション
- 対話する能力
(3)異文化適応力
- 各国事情(歴史、宗教、文化)
これらのうち、(1)リーダーシップ・マネジメント能力はどの国・地域でも共通して求められるマネージャ、リーダーとしての役割である。(2)語学・対話力はどの国・地域でも求められるが、国・地域によってやり方を変えるべきものである。(3)異文化適応力は、国や地域によって異なる文化や労働・商慣行を理解するというローカルルール重視の姿勢が必要となる。
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