グローバル人材の“優秀さ”とは何か――複雑化した「グローバル」という言葉を読み解く:海外から見た! ニッポン人エンジニア(8)(2/2 ページ)
時代を読む力は、生き残れるエンジニアの必須条件である。本連載では、海外と深い接点を持つ人物へのインタビューをとおして、IT業界の世界的な動向をお届けする。ITエンジニア自らが時代を読み解き、キャリアを構築するヒントとしていただきたい。
「グローバル人材の優秀さ」を見極める難しさ
先ほど、「グローバル人材」を定義して、求められる能力を明確化した。ここで次の問題に移ろう。経営者、人事担当者やプロジェクトを管理する人間が頭を悩ませるのが「グローバル人材の優秀さをどう見極めるか」である。
例えば、昔の「日本人新卒」といえば、優秀さの見極めとしては出身大学や学部など「属性に基づく見極め」がある程度できた。しかし、外国人留学生や海外での採用になると、属性による見極めをしづらい。もっとも、日本人であっても昨今はAO入試など多様な入学方法があるため、属性に基づいた見極めがしづらくなってきている傾向がある。
「グローバル人材」の評価方法には、
- 論文やレポートなどの書類による専門スキル(専攻・経験・実績)評価
- TOEICやビジネス日本語検定による基礎スキル(言語能力をはじめとして、数理・行動特性・ストレス耐性など)評価
- 異文化対応能力、リーダーシップ、社風適応などを見るための面接
などがある。企業としては、これら評価項目のうち、自社にとって重視するポイントをあらかじめ明らかにして共有することが重要となる。個人としては、自らの強い部分と弱い部分を把握し、対策を立てておく必要があるだろう。
「評価」と「評判」の違いを理解しているか?
ここで注意しておきたいのが、「評価」と「評判」の違いだ。書類・適性検査では、専門スキルや基礎スキルなど能力面を「評価」しているのに対し、面接ではグローバルスキル、マネジメントスキル、総合判断など、人物・人格といった「評判」を判定しているのである。
「評価と評判」は一見混同してしまいがちな概念であり、通常は「評価」の一言で済ませてしまっている。しかし、「能力を見ること」と「人物を見ること」は大きく異なる。
評価=アセスメント=能力測定は、形式知的・客観的・デジタルなもので、ノウハウを得ればある程度は対応が可能なものである。一方、評判=レピュテーション=人物鑑定は、暗黙知的・主観的・アナログなものであり、ノウハウよりも「どのような人脈・ネットワークを持っているか」という点が重視される。
採用をする側(もしくは評価をする側)にとって、評判を見る際は、人に対する目利きが必要となる。新卒採用のように「一括」で相手をとらえる場合は評価的側面で見る場合が多い。一方、ポジションが上がるにつれ、交渉時の重要な局面などでは評判的側面が大きく作用する。
「グローバルに通用する能力」といった場合、世の風潮は英語能力や異文化コミュニケーションといった「ハウツー」に流れがちである。しかし、リーダーシップやマネジメント能力をはじめとして、決断力、他者との信頼関係構築力など、根本的な人間力を鍛えておかないと、太刀打ちできない可能性が高いだろう。昨今、「技術力よりヒューマンスキル」「ヒューマンスキルを大事にする」などがいわれているのは、この「評判」が重視されるためだ。
グローバル化における信頼構築が重要な2つの理由
最後にグローバル展開と信頼構築の在り方について、問題提起をしたい。
筆者は人と組織のグローバル化を支援しており、コンサルティング以外にも社内研修・セミナーなどで話をする機会が多い。依頼企業から「グローバルビジネスや人事戦略、人材マネジメントについて講演してほしい」という相談があった場合、グローバル展開の背景・整理、異文化コミュニケーション、プロジェクト・チームマネジメントなどと併せて、必ず「信頼について」という話をするようにしている。これはなぜか? 理由は2つある。
●スキルがあっても、信頼がなければ意味がない
社内研修やセミナーで紹介する、異文化コミュニケーションやプロジェクト・マネジメントの手法は「相手と自分の状況をより理解し、円滑に仕事を進める」ために十分役立つものである。一方、それを実行力あるものとして結果に結び付けるには、1人ひとりの行動に大きく依存する。これが1つ目のの理由だ。異なる立場にいる相手と「信頼関係を構築する力」が、ここでは求められる。「信頼関係の構築力」がゼロであれば、掛け算と同じで、どんなに素晴らしい能力やスキルを持とうと、すべてが意味のないものになってしまう恐れがある。
●同質社会と異質社会では、物事のとらえ方が大きく異なる
「信頼について」を取り上げる2つ目の理由は、日本のような“同質”社会と、グローバルな“異質”社会における信頼構築には、考え方に大きな違いがあるからだ。
例えば、中国やインドで日本人が面接する際、面接官の「あなたは○○ができますか」という問いに対して、応募者が「できる」と回答したので採用したものの、実際に任せてみるとまったくできなかった……などという話をよく耳にする。
日本などの同質社会における信頼構築の特徴は、慣れと親しみの関係であり、現在や将来でなく“過去”が優位を占める。例に挙げた面接時でも、応募者は自身の過去の実績を振り返ったうえで「できる(もしくはできない)」と回答する傾向が強い。根拠を過去に起こった事実に置いているともいえる。同時に、この態度には過去から入手した情報を過剰に利用して将来を規定する、というリスクが内在する。
一方、グローバル展開に代表される異質社会、異文化チームのように常に混沌(こんとん)とした状況下では、人は十分な知識を持たずに過度に複雑な世の中で行動・参与しなければならないという前提があり、「どのように将来を描くか」がベースとなる。
先ほどの面接の例でいえば、応募者は「(入社してこれから十分に社内研修を積めば)できる」というような回答になりがちだ。しかし、日本の考え方に慣れ親しんでいる面接官には、( )内の心の声、いわば異質社会におけるマインドが理解できない。そのため、入社後「面接時にできるといった、いわない」などという不毛な議論が起こることになる。根拠を未来に置くことが求められる異質社会では、慣れや親しみだけでは信頼は確立されず、感情を伴わないシステムや契約関係が基盤となる。同質社会に生きるわれわれは、このことを理解しなくてはならない。
ここに挙げた同質社会と異質社会における信頼の在り方は一例であるが、グローバルに仕事を進めるうえでは異質社会、異文化チームにおける信頼関係の構築を念頭に置いたうえで、仕事の目的、目標、プロセス、役割などを共有していくことが必須となる。
今回は、特別回として「グローバル人材の“優秀さ”とは何か」をテーマに述べてきた。定義や評価方法などに加えて、立場の異なる相手といかに信頼関係を構築していくか、いかに信頼を得るかも重要であることをご理解いただければ幸いである。
筆者プロフィール
小平達也(こだいらたつや)
ジェイエーエス(Japan Active Solutions)代表取締役社長
- 厚生労働省 企業における高度外国人材活用促進事業 調査検討委員会 委員
- 文部科学省 検定試験の評価の在り方に関する有識者会議 委員
- 財団法人 海外技術者研修協会 共通カリキュラムマネージメント事業委員会 委員
- 財団法人 企業活力研究所 グローバル人材活用協議会 座長
- 国立大学法人 東京外国語大学 多言語・多文化教育研究センター コーディネーター養成プログラム アドバイザー(2008年度、2009年度)
- 日本貿易振興機構(ジェトロ)BJTビジネス日本語能力テスト外部化検討委員会 委員(2007年度)
- 武蔵野大学大学院 講師
大手人材サービス会社にて、中国・インド・ベトナムなどの外国人社員の採用と活用を支援する「グローバル採用支援プログラム」の開発に携わる。中国事業部、中国法人、海外事業部を立ち上げ事業部長および董事(取締役)を務めた後、現職。グローバルに特化した組織・人事コンサルティングを行うジェイエーエスではグローバル採用および職場への受け入れ活用に特化したコンサルティングサービスを行っており、外国人社員の活用・定着に関する豊富な経験に基づいた独自のメソッドは産業界から注目を集めている。
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