顧客との関係を傷付けないトラブル報告書を書くには:文章コミュニケーション・リファクタリング!(4)(1/3 ページ)
「文章下手」が原因で、コミュニケーション不全に陥ったことはないだろうか? 言葉足らずで相手の誤解を招いたり、指示がまったく伝わっていなかったり……開発現場を改善するための「文章コミュニケーション」方法を紹介。
エンジニアの皆さんは、業務でさまざまな報告書を作成されていることと思います。エンジニアの業務で必要になる報告書は、大きく2種類に分けられます。
1つ目は、書式が決まっていて、定期的に作成する報告書です。定期報告書と呼ぶこともあります。進ちょく報告書や日報、週報、月報などが例として挙げられます。
もう1つは、不定期に発生するイベントについて記述する報告書です。この種の報告書は、書式が決まっていないものです。例としてはトラブル報告書(または障害報告書、問題対応報告書など)や、製品・技術などの調査報告書といったものが挙げられます。
これら2種類のうち、トラブルの種になりやすいのは、後者の「イベントについて記述する報告書」です。今回は、報告書の中でも特に細心の注意を払わなければならない、顧客向けのトラブル報告書(障害報告書、問題対応報告書)を作成するときに注意すべきポイントを説明します。
トラブル時の報告書の書き方について知りたい方は、以下の記事も参考になります
・技術や製品の調査報告書では特に結論を簡潔に
・「軽過失だが比較的重度の過失」とは? 法律家が読み解く、ファーストサーバ事件報告書
報告書を信頼回復への糸口とする
システムを納入した顧客に提出するトラブル報告書には、トラブルが発生した原因を的確に記述することになります。顧客に納入したシステム製品にトラブル(障害)が発生した時点で、顧客はすでに開発者を信頼する気持ちを失いつつあります。そのうえ、トラブル報告書に不手際があれば、決定的に信頼を崩壊させてしまうことになりかねません。
一方で、きちんとした報告書を記述して提出すれば、信頼回復への糸口にできます。そのため、トラブル報告書は、細心の注意を払って記述しなければならないのです。
また、経営陣や上級管理職など顧客企業の上層部も、トラブル報告書に目を通すことがあるでしょう。このため、トラブル報告書の記述表現は、そのような読み手にも納得してもらえ、信頼を取り戻すきっかけになるものでなければなりません。そのためには、読み手が報告書に求めるものを簡潔に、的確に記述する必要があります。
しかし、次のような報告書を作ってしまう方は多いのではないでしょうか。
貴社ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。
弊社が開発、納入しました“DVD注文受け付けシステム”のトラブルについてご報告申し上げます。
今回のトラブルは、貴社が販売する○○シリーズのDVDを3タイトル以上注文されたお客様に、別の□□シリーズのDVDを1タイトル無料でプレゼントするはずのものが、同時に一括して3タイトル以上注文されたお客様にはプレゼントが送られるが、別々の時期に個別に3タイトル以上注文されたお客様にはプレゼントが送られないというものです。
○○シリーズの注文受け付け機能において、3タイトル同時の注文はプレゼント対象者としてカウントしましたが、別々に3タイトルを注文された場合、プレゼント対象者としてカウントしていませんでした。
こうしたトラブルが生じましたのは、今回の“□□シリーズ・タイトルのプレゼント機能”が「春の△△キャンペーン」に対応した、キャンペーン期間中だけ一時的に機能を追加するものであり、短時間で開発しなければならなかったため、どうしても拙速になってしまったためです。貴社との打ち合わせも時間的に限られていて、仕様の詰めが甘くなってしまったわけです。そのため、仕様に抜けが生じて、これが機能の欠陥につながってしまいました。
機能の修正は早急に完了させる予定です。
単純な現状の記述や、責任逃れの言い訳に終始しており、とても報告書と呼べるものではありません。これでは、信頼回復の糸口になるどころか、さらに先方の不信感を増大させてしまうでしょう。
簡潔で、きちんと伝わる報告書にするには、状況を整理して、伝えるべきことを順序立ててきちんと記述することです。トラブル報告書には主に次の事項を記述します。
- この報告書を作成した趣旨・目的
- トラブルの状況や内容
- トラブルが発生した原因
- 今後の対応策(または対応方針)と対応完了時期
以上の事項を、下記の例のように、それぞれ別々の項目に分けて構成し、読みやすい文書にします。トラブル発生時に、応急処置的にトラブルを拡大させないように対処した(あるいは一時的にトラブルを回避するように対処)のであれば、状況・内容と一緒に、その対処も記述します。
貴社ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。
報告書の趣旨・目的を記述する
(例:ここに、今回のトラブルの原因、対応策につきまして下記のようにご報告申し上げます。)
1 トラブルの状況
発生したトラブルの状況や内容を簡潔に、顧客が把握できるように記述する
2 トラブルの原因
発生したトラブルの原因となる事象を簡潔に記述する
3 対応策と今後の方針
完了した対応策、現在取り組んでいる対応策、今後実施する対応策を簡潔に記述する
謝罪の言葉から始める
トラブル報告書では、「趣旨・目的」のパラグラフの先頭に、謝罪の言葉を簡潔に記述しておきます。これにより、相手の感情、不快感を和らげます。
貴社ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。
この度は弊社が開発し、納入いたしました“DVD注文受け付けシステム”に発生しましたトラブルにより多大なるご迷惑をおかけすることになってしまい、おわびの言葉もございません。まことに申し訳ございませんでした。開発グループ一同、深くおわびを申し上げる次第です。貴社や貴社のお客様の不快な思いがいかばかりかと考えると、開発グループ一同まさに心苦しい限りです。
そこで、下記のように、トラブルの原因、対応策および今後の方針についてご報告させていただきます。
1 障害の状況
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謝罪の言葉は必要ですが、簡潔に記述することが重要です。上記のようにあまりに長々と謝罪の文章を連ねると、謝罪の気持ちが感じ取れないものになってしまいます。読み手に不快感を与えることになりかねません。下記のように、きちんとした謝罪の文章を一言だけ、書き手の気持ちが伝わる表現で記述すれば十分です。
貴社ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。
この度は弊社納入の“DVD注文受け付けシステム”に発生したトラブルにより多大なるご迷惑をおかけする結果になり、深くおわび申し上げます。
ここに、トラブルの原因、対応策および今後の方針につきまして下記のようにご報告申し上げます。
1 障害の状況
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