貢献者に貢献せよ――The Linux Foundationジャパンディレクタに聞く【前編】:OSSコミュニティの“中の人”(1)(2/2 ページ)
「OSSコミュニティに参加したいけれど、どうしたらいいか分からない」「中が見えにくいので不安」……OSSコミュニティの“中の人”へインタビューし、OSSコミュニティをもっと身近に感じてほしい。
誰がコアカーネルを開発しているのか
福安 毎年、「誰がLinuxを作っているか」を集計したホワイトペーパー(PDF)をWeb上で公開しています。今Linuxのカーネルコミュニティに対して最もコントリビューションしているのはレッドハットです。次点が、ノベルやIBM、インテルなどです。さらに、ルネサステクノロジや富士通、オラクルなどが並びます。Googleもランクインしています。
深見 今、富士通という企業名が出ましたが、日本からはNECや日立、NTT といった企業も数多く貢献していますね。Linuxは、コアカーネル開発コミュニティがあって、ディストリビューションがあって、エンドユーザーがいて……というエコシステムだと思いますが、つまるところディストリビューションもエンドユーザーも、カーネルをはじめとするアップストリームの開発コミュニティに人を送り込んで、皆で一緒に作っているということですね。
福安 まさにそうです。自社で開発するアプリケーションを動かすために必要な機能をコアカーネルに追加しようとする人もいれば、もっとパフォーマンスを上げたいという理由でカーネル開発にコントリビューションするエンドユーザーもいます。半導体メーカーは「このドライバがLinuxに入らなければ、うちはビジネスにならない」という理由で関わってきます。
Web上のコミュニティだからこそ、信頼醸成は重要
深見 Linuxコアカーネルの開発は、ハードウェアベンダ、ディリビューション開発企業、アプリケーションベンダなど、さまざまな企業に所属するエンジニアがコミットして行われているという話でした。全世界に散らばって異なる企業に所属している状態で、彼らはどうコミュニケーションしているのでしょうか。
福安 基本的には、メーリングリストがメインです。逆説的に見えるかもしれませんが、Webの世界だからこそ、「開発者同士の信頼醸成」はものすごく重要なんですよ。
ある意味、信頼醸成のために、年に何度もカンファレンスをやっていると言ってもいいぐらいです。基本的にディベロッパは世界中に散らばっているので、LinuxConやCollaboration Summitといったイベントに合わせてフェイス・トゥ・フェイスのミーティングを設置したり、自分たちが興味を持つ外部の人に意見を求めるためのBOF(Birds of Feather Session)を設置したりしています。
深見 BOFはやはり重要ですか。
福安 重要ですね。The Linux Foundationのイベントでは必ず、BOFが1?2つはあります。というのも、The Linux Foundationが開催するイベントは、受動的に「話を聞く」ところではないからです。「オンラインだとなかなか話しきれない部分を、フェイス・トゥ・フェイスでしっかり話し合おう」のが、カンファレンスの意義です。一方的なプレゼンテーションだけでは双方向のコミュニケーションができないので、BOFのような場所を作っているのです。
The Linux Foundationの主催するイベント
カーネル開発のコアメンバーと各地域に在住するコミッタ、ユーザーとの意見交換の場として、The Linux Foundationは世界中で数多くのイベントを開催している。日本ではLinux Con Japanが毎年6月に行われる。リーナス・トーバルズを始めとするトップエンジニアが集結し、議論を展開する。次回は2012年6月6〜8日に横浜で開催予定。Linux Conは日本以外でも北米、欧州などで開催されている。
この他にも世界中の著名なコアカーネル開発者が集結し、現行のカーネルの状況について議論し、次期の開発サイクルについて計画する場であるAnnual Linux Kernel Summitを毎年1回開催している。The Linux Foundationが主催するイベントについては、Webサイトからチェックできる。
BOF
BOF=Birds of Feather Sessionの略。Linux ConやInternet weekなど、さまざまな開発者コミュニティによるイベントで耳にする単語である。講義ではなく、スピーカーと参加者がインタラクティブに質疑を行いながら進めていくタイプのセッションを指す。ユーザーを含む幅広いステークホルダーの意見を吸い上げながら開発していくというオープンプラットフォーム開発のポリシーを体現する形式だといえるだろう。もともと「BIrd of Feather」とは、「類は友を呼ぶ」という意味がある。
深見 The Linux Foundationのイベントは、イベントといいつつレクチャーを受動的に聞く場ではないと。むしろ、ディスカッションの場所として機能しているわけですね。
福安 そうですね。皆さんディベロッパは何らかの課題を抱えています。今やっている開発で課題を抱えている人がいたとします。イベント会場には、自分が抱えた問題を解決するためのヒントを与えてくれるプロフェッショナルがたくさんいます。イベントは、自分が抱えている問題を一気に解決するための場所ですね。
深見 日本でもLinux Con Japan が開催されていますが、そこでの議論はどのような雰囲気で行われているのでしょうか。
福安 カジュアルな雰囲気です。「自分はこう思っている」という課題を誰かが提示し、それに対して「自分はこう思う」という人が手を挙げるという感じです。
日本人は企業の名前とかを背負ってしまうから、大抵「こんなこと言ったら、会社に呼び出されちゃうんじゃないか……」とかいろんなしがらみを感じながらカンファレンスに行くし、手を挙げると思うのですが、The Linux Foundationが主催するイベントでは、あまりそういうことはないような気がしますね。
キーになるのは、「ニュートラルなスタンスを保つ」ことだと思います。ある技術を推奨するのであれば、当然バックに企業がいて、ある企業を代弁していると思われてしまいますが、議論を戦わせる場は中立的だし、ディスカッション自体も皆で運営します。だから、「今自分がこういう発言をしたら所属する企業に迷惑がかかるのでは」といったことを意識せず、純粋に技術的論点に特化して議論できるんじゃないかと思いますね。
→後編に続く……(2012年1月初旬に公開予定)
筆者紹介
深見嘉明(ふかみよしあき)
経営情報学研究者。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任助教、神奈川工科大学創造工学部非常勤講師、国立情報学研究所特別共同利用研究員。慶應義塾大学SFC研究所次世代Web応用技術ラボ(AWA Lab.)メンバー、W3C/Keio Inturn、修士(政策・メディア)。
専門は情報流通形態論。現在は、ウェブプラットフォーム設計とコミュニティ形成、メタデータを媒介としたコンテンツ流通、ウェブマーケティング戦略などウェブ・情報技術をベースにした情報流通形態に関して研究を行っている。
著書に『ウェブは菩薩である〜メタデータが世界を変える』『エコシステム形成のフラットフォーム:標準化活動の行動分析』(共著、『創発経営のプラットフォーム』など。
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