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「あいつに頼もう!」エンジニアと営業の理想的な関係ITエンジニアの市場価値を高める「営業力」(3)(2/2 ページ)

エンジニアが市場価値を上げるには、営業力が必要だ。元SEで営業経験もある著者が、「エンジニアが身に付けておきたい営業力」を語る。

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営業部に相談、仕事の取り方を学ぶ

 会議終了後、私は別のオフィスにある営業部門に電話しました。営業部長に会いに行きたいと話すと、明日の朝来てもいいとの返事でした。

 翌日の朝、早速営業部長を訪ね、こう切り出しました。

 「『案件がない』といったら、H課長にボロカスに叱られました。悔しいので案件が欲しい。何かありませんか?」

 「ああ。Hに怒られたか。恨んでるのか?」

 「いや、非はこちらにあると思ったので、恨んではいません。ただ見返したいとは思っています」

 「なるほど。でもな、営業部に仕事ありませんかと聞きにきても、普通はないぞ。あったらすぐに開発に相談するわ。それ以前におまえはどうやったら仕事が取れるか分かってるんか?」

 「実はそれがよく分からないので相談に来ています」

 「それは傑作やな。おいO、森川が仕事が欲しいらしい。おまえ一緒に連れていけるとこあるか」

 O課長がやって来て「おまえ提案書書いたことある?」と聞きます。

 「何回か、簡単なのを。でも、本格的なものは書いたことがありません」

 「まあ、何とかなるだろう。これを参考に作ればいい。要求仕様書はこっち。簡単なレクチャーをするから、取りあえず書いてみろ」

 提案書の見本をもらい、レクチャーを受けた後、自分で提案書を書いて持っていくと、O課長はダメ出しをしてくれました。何度も何度も書き直しをさせられましたが、かなり熱心に付き合ってくれているのが分かったので、嫌な気はしませんでした。

 これが私の「営業も分かるエンジニア」としてのスタートでした。

 このとき以降、O課長には、営業の方法について散々教えてもらいました。「仕事はありませんか」と相談に行ったことから、提案書の書き方を教わり、顧客への訪問に同行させてもらい、「仕事の取り方」について習うことができたのです。

 後日、なぜあんなに熱心に付き合ってくれたのかを、酒の席で聞いたことがあります。O課長はこう答えてくれました。

 「それはな、営業と開発ってなんとなく壁があるだろう。だから、開発が相談に来てくれると結構うれしいんだよ」

 相談されてうれしくない人はいないのですね。

最強の営業は最強の開発を探している

 これでO課長と一緒に大きな案件が取れ、お互いの努力をたたえ合いながらうまい酒を飲むという話になれば、ドラマのようで良かったのですが……。

 O課長とは数回提案に行きましたが実りませんでした。まったくの新規開拓ばかりだったので、こんなこともあります。

 ただ最終的には、「なんだか熱心に営業と動いているやつがいる」ということがうわさになっていたようです。他部門の営業から声が掛かり、結果として大きな案件を取ることができました。

 営業に相談に行き、営業と一緒に動くようになり、それがきっかけとなって案件を取れたことで、私はようやく、かつてK課長の言っていたことが分かったのです。

 最強の営業はいつでも、できるエンジニアを探していて、こちらも努力していれば必ず見つけ出してくれる――。それがK課長の「最強の開発と営業がくっつく」という言葉の意味だったのだなと。

顔を合わせることが最重要

 思えばK課長は、やたらと東京に出張していました。開発のマネージャだったため、顧客との打ち合わせがあったからです。ただ、中には電話で済む(当時はそれほどメールが普及していませんでした)用事もあったと思います。

 顧客と仲良くなるには、顔を出す回数を増やすことです。仲良くなっていれば、トラブルが起こってもたやすく解決できるケースが増えます。

 ですがK課長には、他にも大きな狙いがありました。それは「社内の営業と顔を合わせる機会を増やす」ことです。

 顧客も営業も同じです。顔を合わせる機会(難しい言葉では「接触頻度」)が増えれば増えるほど仲良くなり(「親密度」が高まり)、何かの折に最初に思い出してもらえる可能性が高まります(図)

図 接触頻度と親密度は比例する。親密度は「最初に思い出してもらえる可能性」を高め、「エンジニアの市場価値」にも結び付く
図 接触頻度と親密度は比例する。親密度は「最初に思い出してもらえる可能性」を高め、「エンジニアの市場価値」にも結び付く

 この「最初に思い出してもらえる可能性」の多寡が、エンジニアの市場価値と大きな関係があるといえます。まったく思い出してもらえない人と比較すれば簡単に分かることだと思います(そしてこれは、エンジニアに限ったことでありません)。

面白い仕事が来ないと嘆く前に

 メールが普及してから、営業との間がぎくしゃくしたことが何度もありました。用件をメールで済ませてしまうことが増え、顔を合わせる機会が減ったからです。当時の私は、その重要性に思いが至らず、結局ひどい目に遭いました。

 「IT企業では、隣の席の人間ともメールでやりとりしている」とよく笑われます。かつての私はこれに対して言い分があり、「やりとりの記録を残しておくという意味で、メールは役立つんだ」と言い張っていました。

 しかし私は、記録などよりももっと重要なことをなおざりにしていたというわけです。

 なんだか最近面白い仕事が回ってこないという不満のあるエンジニアは、自分が営業と顔を合わせているかどうか、振り返ってみてください。

 私は、中小のIT企業向けの営業コンサルタントをしていたことがあります。そのとき、ある社長に聞いた言葉が忘れられません。

 「仕事を取ってきても、『そんなのやりたい仕事じゃありません』と断る社員がいるんです。最近は無理にさせるとパワハラだと言われるし、ネットにブラック企業だとか書くやつまでいるので、社長も大変なんですよ。でも、そういうやつに限って、何がしたいんだってことを普段は言わないんですよね」

 やりたいことがあるのなら、普段から何度も営業に言っておくべきなのです。そのような案件があったときに、あなたの顔を最初に思い出してくれる可能性が高まるからです。

 前回も書いたように営業の仕事を知り、顔を合わせる機会を増やして仲良くなり、同時に自分のやりたいことを伝えておくのです。次第に営業は、適切な案件があったときにあなたの顔を思い出し、声を掛けてくれるようになります。やりたい案件ならパフォーマンスも違ってきます。成果も出しやすいでしょう。

 それを何年も積み重ねれば、いつの間にかあなたの市場価値は高まっているのではないでしょうか。

筆者紹介

ITブレークスルー代表

森川滋之

1963年生まれ。1987年、東洋情報システム(現TIS)に入社。同社に17年半勤務した後、システム営業を経験。2005年独立し、ユーザー企業側のITコンサルタントを歴任。現在はIT企業を中心にプロモーションのための文章を執筆するかたわら、自分の価値を高める「自分軸」の発見支援にも従事している。

著書は『SEのための価値ある「仕事の設計」学』、『奇跡の営業所』など。日経SYSTEMSなどIT系雑誌への寄稿多数。

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