ロボットも日本の国技に! 25年目の高専ロボコン:UXClip(12)(1/4 ページ)
今年のテーマは「ベスト・ペット」。高専生の自由なアイデアが爆発した。ついに25年目を迎えた、日本のものづくりセンスが溢れた大会をレポート
中学卒業後、すぐに理工学系の実践を中心にした5年間のカリキュラムを行う高等専門学校(通称:高専)。特に制御・情報・ロボットの専門科目をこなしている高専生が、実力を試す場となっているのが高専ロボコンだ。
その成り立ちから、筆者はロボコンを競技色が強い、実装のディテールが主体になるイベントだと思っていたのだが、実際に見てまったく違うものに感じた。
そもそものタイトルが「アイデア対決・全国高等専門学校ロボットコンテスト」(通称:高専ロボコン)であり、「作りたいロボットを思い付き、作る」という全体が評価されるイベントである。どういうロボットを作ろうか、コンセプトが行き渡らなければ、チームの力は結集されない。作りながら試行錯誤しないと、実際に思い通り動くものは作れない。感性、センス、アイデアが何よりも問われる。
各地方での優勝ロボット+推薦ロボット、合計25チームのロボットがトーナメントで競技を行うが、競技部門の優勝のさらに上にロボコン大賞が設けられ、大賞は審査員の評価で決まる。前に「世界に誇る日本の学生のバーチャルリアリティ力」でレポートしたIVRCと同じく、技術に加えて感性やセンスも含めて評価される取り組みであり、MAKERムーブメントに注目が集まる今、非常に興味深く感じた。ついに25年目を迎えた、2012年大会の様子をレポートする。
今年のテーマはベスト・ペット
高専ロボコンの競技課題は毎年、まったく違うものが設定される。今年の課題は「ベスト・ペット」。
フィールドに散らばったボールを拾い、ロボットに渡すのは人間。ただし、ロボットの場所まで運ぶことは許されず、コントローラなしでロボットが人間の場所に行かねばならない。そして、受け取ったボールをゴールに投げ入れる動作を、コントローラなしでロボットに実現させなければならない。また、ロボットはボールを受け取った際、ペットのように「喜ぶ動作」をしなければならない。
ゴールに正確に入ると得点とカウントされ、どちらもパーフェクトの場合はスピードが速い方が勝利とされる。
つまり、「操縦」という人間による一方的な行為ではなく、人間とロボットによる「コミュニケーション」が求められるようになったというわけだ。ロボットに「喜ぶ動作」をさせる以上、製作する者は“ロボットの気持ち”を想像しなければならないし、そのことによって「制御」とは違った観点の発想が生まれたことは想像に難くない。
事実、私を含めた観客が最も心を震わせた瞬間は、ロボットが“声”を発したときだったと思う。これについては、おいおい触れていきたい。
人間とペット・ロボットがコンビを組み、コントローラーを使わずに協調作業を行います。どのようにペット・ロボットとコミュニケーションを取りながら課題をクリアしていくのかも見どころの1つです。
これからのロボットは、人間のそばにいることが当たり前となっていくと考えられています。そのような未来の一翼を担う高専生の皆さんに、人間とロボットとの「パートナーシップ」のあり方を示す競技にチャレンジしてもらいます。多様なアイデアを用いた表情豊かなペット・ロボットが登場することを期待しています。
とあるように、ロボットと人間のコミュニケーション、ロボットとのパートナーシップが競技に組み込まれている。
どのようなペットが誕生したのか、見てみよう。
ロボットで表現するペットらしさとは?
25チームのロボットがトーナメントで優勝を争うので、1-2回戦(組み合わせ上、一部のロボットは2回戦から)で全てのロボットがお目見えとなる。ペットといっても、イルカやヒドラ、九尾の狐やわんこそばまで、さまざまなペットが登場した。
その中でも、ペットらしさを強く感じたロボットをいくつか紹介する。
歩き方もキリンらしい 追跡!完璧リン(都城高専)
今回のコンテストで、テーマがベスト・ペットとなったことと、コントローラがなくなったことで、ロボットの傾向が変わり、愛らしいロボットが多く誕生した。
動きのかわいさで大きな拍手を得たのは、追跡!完璧リン(都城高専)だ。
このロボットの魅力は、歩行や表情の美しさだ。
ロボットを移動させるとき、車輪を使うのが一番効率がいい。足を使うにしても多足歩行や、設置面積の大きい足の方が移動しやすいし安定する。しかし追跡! 完璧リンは4足歩行で、しかもいかにもホンモノのキリンらしい足運びをする。しかも動物園に何度も通って「キリンらしい歩き方」を研究し、試作を繰り返した。
布を多用したロボット全体の造形に加えて、普段は眠そうにしているのだが、ボールをもらうと喜んで目をパチパチさせるリアクションをするなど、しぐさも愛らしく、人気を呼んだ。競技では惜しくも1回戦負けとなったが、その後子供がロボットを操縦するエキシビジョンマッチの出場ペットにも選ばれ、デザイン賞も受賞した。
思わずうるうる たぬきロボMechaPon(奈良高専)
奈良高専のたぬき型ロボットMechaPonには泣かされた。外見は、いわれないとたぬきがモチーフとは分からないようなメカメカしさだが、会話が仕込まれていて、声でリアクションする。
準々決勝で敗退してしまったが、Mechaponが自ら敗退のコメントを述べた。
「全力を出し切ったので、悔いはないポン。みんな、今日は応援ありがとうポン」
開発した奈良高専のアイデアで、おそらく優勝時と敗退時に分けてコメントをあらかじめ用意してきたと思われるが、状況に応じた言葉を言うことで、一気にロボットに感情移入できる。ロボットそのものから、会場に集まった観客に直接メッセージが送られる、筆者はこの瞬間に最も「ロボットでないと表現できないペットらしさ」を感じた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.