クスッとする世界観をアプリにするって面白いんです:おばかアプリ歴代出演者に会いに行く(2/3 ページ)
「あるある」ネタをアプリのアイデアにつなげて、プレイヤ自身の感覚にできると最強です。田中孝太郎さんインタビュー
おばか≒ダジャレ?
田中さん ガビンさんの授業の話で続けると、ガビンさんが女子美の授業で「女子はもっとダジャレをどんどん言う訓練をした方がいい」みたいなことをいうんですよ。ダジャレってすごく、瞬発的なアイデアじゃないですか、良くも悪くも。
ガビンさんてもともと、Login(ログイン)ていうパソコン雑誌の編集者だったんですけど、僕が読者として読んでて、伊藤ガビンって人を初めて知った、そのころのLoginは、パソコン雑誌なのにパソコンとはまったく関係のない、いわゆる「バカ記事」っていわれるようなものがすごく充実していて。パソコン雑誌なのにダジャレしか書いてないページとか、そういう壮大な無駄なことを熱量掛けてやっていたんです。そのころのガビンさんは他の編集部員と一緒に、「とにかくダジャレしか言わない」合宿をしたって聞きました。
正田 えーー! つらい!!
中澤 でも、ちょっと行きたい……(笑)。
田中さん クオリティは問わないけど、とにかくダジャレしか言っちゃいけなくて。あと重要なのは「シラフで行うこと」。お酒とか入れてしまうともう、なんでも面白くなってしまうらしくて。
島田 ああ〜、確かに(笑)。
田中さん でも、真剣にダジャレだけを言い続けると、トリップするんですって。ダジャレが一種の酩酊感覚というか、お酒飲んでなくてもダジャレに酔ってくるんですって。「そういう合宿をするといいよ!」ってガビンさんは授業で学生に教えてましたね。まあ何がいいのかよく分かんないけど(笑)。
一同 (笑)
田中さん おばかアプリもダジャレみたいなもので、「突き詰めたら本当にくだらないんだけど、でも、これはあった方がいい」みたいなものかなと思うので。そういうことを常に考えるっていうのは重要なのかもしれないですよね。
ダジャレって「腑に落ちる」というタイプと、「響きがいい」みたいなタイプがあるじゃないですか。これって、どっちもそれだけだとあんまり面白くなくて。その狭間くらいにある、「ものすごく強引で間違っているんだけど、響きやタイミングがよくてスッと入ってくるもの」っていうのが、すごく引っかかるんだと思うんですよね。おばかアプリでも、間違ってる部分と気持ちいい部分が両方あると面白いものに思えるんじゃないかな。
中澤 分かります、そういう隙があると安心しますよね。なんていうか、でき過ぎてないダジャレっていうか。そういうのがおばかっぽい気がします。
田中さん うんうん、そうですね。
正田 すごく深い話が聞けてる!
島田 ダジャレっていうテーマでこんなに感心したの初めてです(笑)。
おばかと技術
中澤 例えば、高度な技術をくだらないことに落とす、みたいなことは、結構なさっているんですか?
田中さん そうですねぇ。高度な技術を無駄に使うというのも、方法としてはあるんですけど。僕の考え方だと、どちらかというと技術や方法は問わず、とにかく自分や他の人が共有できる感覚に訴えるということが最重要かなと思っています。例えば、僕がおばかアプリ選手権で作ったアイコンが逃げるアプリ(生きているデスクトップを実現するアプリ 「BehindStone」)は、周りからは“気持ち悪い”っていう反応をいただくんです。それの何が気持ち悪いのかって突き詰めていくと、似たような状況で気持ち悪いと思ったことがある、ということだと思うんですね。磯辺のフナムシや石の裏に隠れた虫とかが、何か物をどけたときにワラワラって逃げていく様子を見て、気持ち悪いと思ったことがあって、その感覚に訴えるからだと思うんですね。
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そういう個々人の経験や感覚を強烈に呼び覚ますような仕掛けがあると、それだけで体験として強いわけです。
マウス改造の授業での企画でいうと、みんなが「ボタンがあって、それを押すと画面の中の家が爆発する」みたいな企画を持ってくる中で、ある学生が「ポッキーの画像をクリックするとポッキーが折れた画像に切り替わる」という企画を持ってきたことがあって。爆発の方がスケールは大きいけど、ポッキーが折れる、独特の感覚の方が、体験としては強烈だったりするんですよね。スケール大きいおばかアプリとか、あるんなら見てみたいですけど、ちょっとやっぱり成立しにくいんじゃないかな。
島田 突拍子もないことを考えるよりも、自分の過去の経験とかを省みて、どういうことが自分の体験の中にあったのかっていうのを深く観察すると、ヒントになるのかもしれないですね。
島田(左・空缶工場の生産部長。開発を担当。データ解析に興味あり。オンラインギャラリーサービスのCreattyの中の人)と正田冴佳(右・空缶工場の工場長。企画とイラストとデザインを担当。通称“ジョン”)
田中さん コンピュータの上に何か作れっていうと、何でもできちゃうから、空想的なことを考えちゃいがちなんですよね、そういう訓練をしてないと。だけど、パソコンの中とか自分のセンサが届きにくいところだからこそ、自分のセンサに引っかかるような体験を持ってこないと、自分と関係のある世界に感じられなくなってしまうと思うので。そういうところは学生を指導してても気を付けていますね(編集部註:田中さんは今も、東京芸大の先端芸術表現学科で非常勤講師をしている)。
正田 共感するという意味では「あるある」の要素があった方がいいんですね。
田中さん そうですね。ただ「あるある」そのものでもやっぱりダメで。「あるある」が何らかのテクノロジによって自分の感覚にできるっていうのが重要なんです。アイデアは「あるある」でも、それが当人には真実味のある体験にならないといけなくて、そのために技術が必要だったら、それを使えばいいし、逆にそれを実現するために、買ってきたマウスを壊してボタンに細工するだけでも体験になるんです。
おばかアプリのもう1つの楽しみ方
中澤 わたしたちがおばかアプリ選手権で作ったのは「アルプスの丘で」というアプリで、かの有名なアニメのオープニングみたいに、“アルプスで暮らす少女と丘の上で手をつないで回る”体験ができるアプリなんですけど。これを作っていて思ったのが、おばかアプリって、使う人はもちろんですけど、周りで見てる側も楽しめる気がして。少女とぐるぐる回っている人を見て、「ばかだなぁ〜(笑)」みたいな。
田中さん うんうん、ありますね。特にスマホアプリはそういう要素がすごく強いですよね。東京芸術大学で、Titaniumを使ったアプリを作らせているんですけど、そこで「スカートをのぞくアプリ」っていうのを作ってた学生がいました。
一同 おお〜(喜)。
正田 みんながやりたいやつだ(笑)。
田中さん センサを使って、画面を傾けていくと画像も傾いてきわどい角度になっていくんですけど、デバッグしなきゃいけないっていうのもあって、こう「絵が切り替わらない!」みたいな、必死にやっているのを見るのがすごく面白くて(笑)。
一同 あははは(笑)。
島田 傍から見たら変態ですもんね!
田中さん そうそうそう、完全に変態なんだけど、でもやってる本人は真剣じゃないですか。完全に入っちゃってるので、自分がどういう姿でいるかなんて全く気が付かないんですよね。それが、見てる側からすると、すごく面白い。
あと、さっきも言っていた“体感する”っていうことでいうと、iPhoneとかのセンサを使うアプリって、そのセンサに感知してもらうために体をどう動かすのか、どういう体勢にならなきゃいけないのかっていうことにすごく関わるので、おばかアプリになりやすい土俵ともいえますよね。
島田 ちなみに「アルプスの丘で」もTitaniumで書いているんですけど、サクッと作るにはすごくいいなって思っています。
田中さん あ、そうなんだ! うんうん、そうですね。まぁ、謎の症状も多いですけどねぇ(笑)。なんでうまくいかないのか分かんないから、取りあえずクリーンするか!みたいな。
島田 分かります。クリーンするとたいがい直るんですよね(笑)。でも、ああいうのが出てくると、簡単に自分のアイデアを実現できるから、いいですよね。
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