米シスコシステムズは2012年11月より、データセンター業務に必要な知識に関する2つの認定資格をシスコ技術者認定に追加した。「CCNA(Cisco Certified Network Associate) Data Center」と「CCNP(Cisco Certified Network Professional) Data Center」である。日本国内でも、これらの教育コースの受講や資格試験の受験が可能だ。認定資格新設の狙いについて、シスコの担当マネージャに取材した。
データセンター市場が成熟し、新たな職種が生まれる
今回の2つの認定資格の位置付けは次のようになる。CCNA Data Centerはデータセンターで働くネットワーク管理者を対象とした初級レベルの認定資格である。もう1つのCCNP Data Centerは、データセンターの設計や保守、プリセールスなどを担当するITエンジニアを対象とした中級レベルの認定資格である。
この認定資格新設の背景について、米シスコシステムズ データセンター・仮想化・クラウドポートフォリオプロダクトマネージャーのアントネッラ・コルノ(Antonella Corno)氏は次のように説明する。
「過去10年にわたり、ネットワーク技術の複雑性は増す一方でした。一方、データセンターは、ネットワーク、ストレージ、コンピューティングの各要素を仮想化して統合するアプローチを取ります。この変化の中で、必要となる知識のギャップが目立つようになってきました。データセンターでは専門分野ごとの縦割りではなく、アーキテクチャ全体にまたがる知識が必要となってきているのです」
データセンター分野では、例えばストレージの専門知識、ネットワークの専門知識だけでなく、データセンター全体のアーキテクチャに関する知識が求められる。ネットワーク、ストレージ、コンピューティングの各要素を仮想化し統合したデータセンターの全体を把握できる人材が必要となるのだ。
つまり、“データセンター市場の成熟により、新たな職種、そして新たなキャリアが形成されつつある”──そのようにシスコは認識しているのである。
「データセンター分野での教育や認定資格については、数年前から青写真を描いてきました。市場が成熟し、職種の役割も確立されてきた今こそ、新たな認定資格を投入するべきだと考えました」(コルノ氏)
従来のCCNA/CCNPとは並列の関係
ここで気になるのは、シスコの認定資格として根強い人気を保つCCNAおよびCCNPと、新資格との関係である。重要なポイントとして、新資格は従来のCCNAおよびCCNPとは直接結びついていない。すなわち、受験に当たってCCNAやCCNPの取得が前提となるわけではない(図1)。
「CCNAは、ルーティングやスイッチングの知識を問う初級レベルの認定資格です。同レベルの認定資格には、各分野に特化した内容のCCNA Security、CCNA Wireless、CCNA Voiceなどがありますが、いずれも『CCNAをすでに取得していること』を受験の前提としています。ところが、今回登場したCCNA Data Centerは、CCNAを前提とはしておらず、完全に並立した認定資格です。CCNAよりも新しい、より先端的な知識を問う認定資格なのです」(コルノ氏)
コルノ氏の説明によれば、CCNA Data Centerは、あまり複雑ではないデータセンター管理業務を想定した認定資格であり、最新技術に触れる初級のITエンジニアを対象としている。一方、従来のCCNAは、ルーティング、スイッチング分野の複雑なネットワーク管理業務を行うITエンジニアのための認定資格ということになる。
CCNA Data Centerの上位資格であるCCNP Data Centerは、データセンターのトラブルシューティングなど、より複雑な業務を想定した認定資格である。
CCNA Data Center/CCNP Data Center認定の試験
新資格取得のための試験について見てみよう。CCNA Data Centerの取得には、下記2つの試験に合格する必要がある。
- 640-911 DCICN(Introducing Cisco Data Center Networking)
- 640-916 DCICT(Introducing Cisco Data Center Technologies)
CCNP Data Centerでは難易度が高いこともあり、「6つの試験のうち、必須2試験、選択2試験の計4つに合格すればよい」という仕組みを採用している。
必須試験
- 642-997 DCUFI(Implementing Cisco Data Center Unified Fabric)
- 642-999 DCUCI(Implementing Cisco Data Center Unified Computing)
選択試験(* 2試験で構成されるグループのどちらかを選択)
- 642-996 DCUFD(Designing Cisco Data Center Unified Fabric)
- 642-998 DCUCD(Designing Cisco Data Center Unified Computing)
または
- 642-980 DCUFT(Troubleshooting Cisco Data Center Unified Fabric)
- 642-035 DCUCT(Troubleshooting Cisco Data Center Unified Computing)
図2は、CCNP Data Center取得のための必須試験と選択試験を示している。「ユニファイド コンピューティング サポート」「ユニファイド ファブリック サポート」の2分野と、「トラブルシューティング」「実装」「設計」の3分野のマトリクスで合計6試験である。そのうち必須なのは、実装に関する2試験だ。
ということは、同じCCNP Data Centerの認定資格取得者でも、選択する試験によってデータセンターのトラブルシューティングの知識を持つ人と、データセンターの設計の知識を持つ人が存在するという構図となる。
「CCNP Data Centerの認定資格取得者には、デザインに強い人もいればトラブルシューティングに強い人もいることになります。データセンターは、多数の機器がただつながったものではなく、1つのアーキテクチャです。データセンターエンジニアと呼ばれる人でも、設計に注力する人もいれば、トラブルシューティングに注力する人もいます。ただし、デプロイメントに関する知識は強くなければなりません。そこで実装の知識は必須となるのです」(コルノ氏)
データセンターの一般的な知識を証明できる資格
ITエンジニアの新たなキャリアに対応する形で登場したシスコの認定資格だが、データセンター分野で一般的に通用する知識が身に付くものなのだろうか。コルノ氏は「学べる知識には一般性があると考えています」と語る。
「教習所で自動車の運転を習うようなものです。自動車にはたくさんのモデルがありますが、教習所の自動車で学んだ操作は汎用的です。私たちの認定資格はそれぞれの職種に必要とされる知識を証明するものになっています」(コルノ氏)
同社は今後、クラウドに関する教育や認定制度を充実させる方向だという。ただ「クラウドに関する職業上の肩書きは、まだ業界内のすべての人に理解されているわけではありません。より業界が成熟すれば、認定資格に取り組むこともあるはずです」(コルノ氏)としている。
筆者紹介
星暁雄(ほしあきお)
Tジャーナリスト。1986年から2006年まで日経BP社に勤務。1997年から2002年までオンラインメディア『日経Javaレビュー』編集長を務める。
イノベーティブなソフトウェア分野全般に関心を持つ。今はAndroidが特に興味深い分野だと感じている。
もう1つの関心事は、ITの時代のメディアのアーキテクチャ。2008年、次世代メディアの探求の1つとして、ソーシャルアノテーションサービス『コモンズ・マーカー』を公開。
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